21g
21gの心臓が繋いだ3人の男女の皮肉な運命
命の“重み”と“尊さ”に改めて気づかされる
2003年に公開された、かなりディープな内容のヒューマンドラマ。映画監督デビュー作『アモーレス・ペロス』でカンヌ国際映画祭グランプリに輝いた、メキシコ出身アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥの第2作です。
命の価値について考えさせる映画は数多いですが、これほど胸に迫るものがあったでしょうか。「21g」とは人間の心臓の重さだといいます。このわずか角砂糖8個の重さに過ぎない物体が消えたことで運命が一変した3人の男女。身を以って命の重さを知り、苦悩する彼らの姿を、息を詰めて見つめるしかありませんでした。
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【ストーリー】
交通事故があかの他人の3人を結びます。夫とふたりの娘を亡くした被害者の家族クリスティーナ(ナオミ・ワッツ)、事故の加害者ジャック(ベニチオ・デル・トロ)、クリスティーナの夫の心臓を移植されたポール(ショーン・ペン)。
命の恩人に会いたいと考えたポールが禁止されているドナーの家族を捜し出し、クリスティーナに近づいたことから思わぬ事態が起こるのですが、結末は早々に明かされます。
血まみれで倒れるポール、その傍らで泣き叫ぶクリスティーナ、その光景をじっと見下ろすジャック。フィルムはここに至るまでの3人の道筋を画期的なスタイルで描き出します。
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事故前から事故当日、事故後、そして結末までの三者三様の行動をドキュメンタリー風に捉えた映像が、細かく切り刻まれ、時間軸もストーリーの展開も無視してつなぎ合わされます。
シーンはめまぐるしく変わり、状況を理解するのが難しいときもありますが、脈絡の不明なシーンの連なりは観る者の興味を引きつけ、3人の運命が重なる瞬間のインパクトを絶大します。
さらに時間軸の乱れは重要な意味を持っています。皮肉なまでにもつれる3人の運命の糸はまるで神が操っているかのよう。病が治癒したと同時に妻との愛が消えたことを知るポール、幸せから不幸へと転落したクリスティーナ、前科者のジャックは信仰にめざめた矢先でした。
ささやかな幸せを求めて懸命に生きる彼らに降りかかる厳しい現実。神のいたずらというにはあまりに過酷な運命は、21gの心臓同様、だれの身にも備わるものだと思い至らせます。
苦しく、地味な物語ではありますが、命の“重み”と“尊さ”を感じるために、ぜひ観てほしい作品です。