映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

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イングリッシュ・ペイシェント(1996)

不倫の愛を壮大な文芸ロマンへ昇華させた
名もなき“イギリス人の患者”の愛の物語

灼熱のエジプト・サハラ砂漠で燃え上がった禁断の愛。第2次世界大戦時代の北アフリカとイタリアを舞台に、人妻を愛した男の運命を描いたドラマチックなラブストーリーです。

イギリスの文学賞であるブッカー賞を受賞した同名小説を、アンソニー・ミンゲラ監督が脚本も手がけて映画化。米アカデミー賞では12部門にノミネートされ、作品賞を含む9部門でオスカーを獲得しました。

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【ストーリー】
第2次世界大戦下、砂漠を飛行中のプロペラ機がドイツ空軍に撃墜されてしまいます。操縦士の男(レイフ・ファインズ)は顔面が焼けただれ、瀕死の重傷を負いますが、アラブの遊牧民族ベドウィンに助けられ、一命をとりとめます。
やがて男は、看護師ハナ(ジュリエット・ビノシュ)のいるイタリアの野戦病院へ運び込まれます。大やけどを負い、顔と身体を包帯で巻かれた男は過去の記憶を失くし、名前が分かりませんでしたが、英語を話すことから、“イギリス人の患者(イングリッシュ・ペイシェント)”と呼ばれていました。
その後、野戦病院に危険が迫ったため、医師や看護師は患者たちを連れて、フィレンツェへ移動することに。しかし、イギリス人の患者は長い移動に耐えられそうもありません。そんな時、愛する人を次々に亡くし、失意の中にいたハナは、空襲で破壊され、廃墟となっていた修道院に留まり、患者を世話することにします。

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描かれるのは、“イギリス人の患者”の過去と現在の物語。患者を襲おうとするカナダ軍諜報部隊のカラバッジョウィレム・デフォー)が修道院に現れたことから、患者は徐々に過去の記憶を取り戻していきます。

患者の正体はハンガリー人のアルマシー伯爵。1930年代後半、アルマシーはリビア・エジプトでの考古学調査団に参加。そこで仲間のジェフリー・クリフトン(コリン・ファース)の妻キャサリン(クリスティ・スコット・トーマス)と出会い、愛するようになります。

始めはキャサリンにつれない態度をとっていたアルマシーですが、それは秘めたる愛の裏返し。キャサリンはアルマシーの気持ちをつかめず、戸惑っていましたが、サハラ砂漠で発掘された「泳ぐ人の壁画」が描かれた洞窟でのロマンチックな体験や、巨大な砂嵐に襲われた恐怖の一夜を経て、2人は激しく求め合うようになります。

過去のシーンでは、レイフ・ファインズ演じるツンデレなアルマシーが本当に魅力的です。独身貴族の優雅さ、キャサリンを一途に思う純粋さ、許されぬ愛に突き進む強引さ。アルマシーのさまざまな内面を巧みに表現するレイフ・ファインズ演技の上手さにほれぼれしてしまいます。

現在のシーンでは、緊迫した戦禍で、静かに育まれるハナの愛が描かれます。患者が話す激しい愛の物語に耳を傾けるハナは、修道院で黙々と地雷処理を行うシーク人のキップ(ナヴィーン・アンドリュース)に惹かれていきます。そして、キップも献身的なハナに心を開いていきます。

北アフリカとイタリアでの2つの愛の物語を丹念に描いていくため、たっぷり2時間42分の長尺です。不倫を題材にしており、昨今のご時世では、否定的に捉える人も多くなっているかもしれませんが、本作は許されぬ愛の切なさと、一途な愛の美しさに圧倒されます。

自信家のアルマシーが、なぜ名もなき“イギリスの患者”として死の淵にいることになったのか。その理由が描かれる壮大なクライマックスが圧巻です。

熱気あふれるアラブの街並みや、太陽が照りつける広大な砂漠など、エキゾチックな北アフリカの光景が魅惑的で、激しい愛に身をゆだねたくなるのも分かる気がします。

ストーリー、キャスト、映像すべてが秀逸。非現実的な愛の世界へと誘う文芸ロマン映画の名作です。


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