映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

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科捜研の女 ―劇場版―(2021)

人気ドラマシリーズの面白さは健在
緻密な科学捜査の醍醐味を堪能

科学捜査で殺人事件のトリックを解明する犯罪ミステリードラマ『科捜研の女』。20年以上続く、人気テレビシリーズが2021年に映画化されました。

重度の“科学捜査オタク”の法医担当・榊マリコ沢口靖子)と、彼女を取り巻く、お馴染みの面々が世界をまたにかけた不審な科学者転落事件の真相に迫る本作は、長年のファンだけでなく、初めて観ても、とても楽しめる作品となっています。

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【ストーリー】
京都の洛北医科大学の法医学教授で解剖医の風丘早月(若村麻由美)が夜遅くまで大学の研究室にいたところ、かすかに「助けて」という声を聞きます。何事かと窓を見た早月の目の前を女性科学者が落下し、死亡してしまいます。
捜査一課の土門刑事(内藤剛史)や、榊マリコら科捜研のスタッフたちが現場に駆け付け、捜査を開始します。屋上に争った形跡はなく、自殺が疑われたが、土門が女性科学者と会ったと思われる男性科学者を追跡したところ、男性科学者が突然、建物から飛び降りて、死亡しまいます。そして、ロンドンやトロントでも科学者の不審な転落死が続きます。

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おっとりとした印象マリコが科学捜査のことになると、がぜん熱が入り、あっと驚く発見をして事件を解決してしまいます。そんなマイペースで、ちょっぴり天然気質のマリコに好感が持てます。いつまでも清楚で控えめな印象の女優・沢口靖子さんならではのキャラクターです。

〈未知の細菌〉を研究する謎めいた天才科学者・加賀(佐々木蔵之介)が絡む事件は二転三転し、あっと驚くトリックも。科学の知識が必要な本格ミステリーはなかなかスリル満点です。

また、警視庁に勤めるマリコの元夫・倉橋(渡辺いっけい)まで巻き込んだ人間関係の妙は長年のファンならたまらないでしょう。

20年以上かけて成長したキャラクターたちが堂々のスクリーンデビューを飾りました。


科捜研の女 -劇場版ー [ 沢口靖子 ]

トップガン マーヴェリック(2022)

トム・クルーズの挑戦に拍手喝さいを贈りたい!
トップガン』が観たかった人々を納得させる会心

若かりしトム・クルーズカリスマ的な魅力を放ち、大ヒットを記録したアクション映画『トップガン』(’86年)の36年ぶりの続編と聞き、「なぜ今さら? トム、大丈夫?」と思った方は私だけではないと思います。

ところが、ふたを開けてみれば、公開から3ヶ月時点での興行収入が日本では120億円を突破、本国アメリカでは7億ドル(約982億円)にのぼり、北米史上歴代第5位となる空前の大ヒットを記録しています。

私は、36年という長くて、重い月日を巧みに生かしたストーリー、そして、還暦直前に無謀な挑戦をやってのけたトム・クルーズの心意気に、胸が熱くなりました。

先の見えない不安が続く時代だからこそ必要なメッセージを携えて、愛や友情、夢や勇気を描いたトップガンの世界が鮮やかに蘇りました!

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【ストーリー】
ピート・“マーヴェリック”・ミッチェル海軍大佐(トム・クルーズ)はトップガン史上最高の戦闘機パイロットとして、輝かしい戦歴を収めてきましたが、昇進を拒み続け、現場主義を貫いていました。
現在、スクラムジェットエンジン搭載の極超音速テスト機「ダークスター」のテストパイロットを務めるマーヴェリックは、優れた操縦技術で前人未踏の最高速度マッハ10を達成しますが、さらに記録を伸ばそうとし、ダークスターを空中分解させてしまいます。
この掟破りの行動により、マーヴェリックはノースアイランド海軍航空基地での任務を命じられます。その任務とは、トップガン卒業生から選りすぐられた若き戦闘パイロットたちに極秘ミッションの訓練を施すこと。そうして、30年ぶりに、自身が学んだ「トップガン」へ、今度は教官として戻ることになります。

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映画冒頭、朝焼けの飛行場で戦闘機を整備するシーンから、徐々に音楽が盛り上がり、1作目の挿入歌『デンジャー・ゾーン』のイントロに合わせて。戦闘機が大空へ飛び立ちます。1作目とまったく同じシークエンスでの幕開けに、“懐かしい”という思いがこみ上げます。

その後も、マーヴェリックが太陽を背にバイクで疾走するシーンや、トップガンへ送られる顛末、パイロットたちが集うバーで初対面する候補生とたち教官とのやり取りなど、1作目を彷彿させるシーンが数々あり、思わず『トップガン』が帰ってきた感慨に浸ってしまいます。

特に、日本で公開された35年前にリアルタイムで1作目を観た方にとっては、続編が観られること自体が奇跡のような出来事なので、特別な思いを抱くのではないでしょうか。そんな1作目のファンの〈期待=厳しい目〉に応えるために、本作はかつての『トップガン』のイメージを損なわないよう細心の注意を払い、丁寧に作られた印象があります。

30年ぶりにトップガンへ帰ってきたマーヴェリックが抱くのは、懐かしさではなく、相棒のグースを失った哀しみ。家庭を持たず、昇進も拒み、イラク戦争に2度従事するなど第一線で戦い続けてきたのは、マーヴェリックがグースの死の責任をずっと背負ってきたからだと分かります。

やんちゃで向こう見ずな青年だったマーヴェリックは心に痛みを抱えたキャラクターとして描かれており、ちょっぴり暗い印象も否めませんが、苦悩の人生を送ってきたマーヴェリックにとても共感できます。

といっても、バーの経営者として、かつての恋人ペニー(ジェニファー・コネリー)に再会するなど、恋のキャリアもしっかり築いていた様子 ( ´艸`)。知的で凛とした印象のジェニファー・コネリーが粋なヒロイン、ペニーを好演。トム・クルーズとの大人のラブシーンは控えめで、微笑ましいです。

さて、本作の見どころはグースの息子、ルースター(マイルズ・テラー)がトップガンの卒業生として、マーヴェリックと再会すること。グースの死をめぐり因縁のある2人はぶつかり合いながらも、米海軍の戦闘機パイロットとしての誇りと絆で結びつき、ならず者国家の悪企みを阻止するために、命がけの特殊ミッションへ飛び出していきます。

口ひげをたくわえたルースター役のマイルズ・テラーはどことなくグース役のアンソニーエドワードと風貌が似ており、アイスマンのような小憎らしい若者ハングマン(グレン・パウエル)もいます。そして、マーヴェリックのかつてのライバル、アイスマン役のヴァル・キルマーも闘病の影響が残る身体をおして出演しています。

ストーリー的には1作目の焼き直しなのですが、本作に限っては、それがいいのです。物語中盤までは、まるで「トップガン」同窓会のような懐古趣味的な展開ですが、特殊ミッションを描いた物語後半から、いよいよ21世紀の『トップガンが幕を開けます!

現在、米海軍で運用中のF/A-18E/Fスーパーホーネットなど、最新鋭の戦闘機を使った飛行シーンではIMAXカメラを機内に搭載し、実際に戦闘機に乗っているかのような臨場感あふれる映像が楽しめます。最新CGを駆使したダイナミックな映像に、二転三転するドラマチックな展開、大団円のラストまで、本当に素晴らしいです!

それにしても、本作では、改めてトム・クルーズの存在の大きさを感じました。36年にわたり、ハリウッド映画界のトップスターであり続けていますが、人気者であるがゆえに、プライベートでのスキャンダルも注目され続けました。宗教に心酔しすぎて、一時期は“アブナイ”人のように思われたことも。

‘90年代までは『レインマン』(’88年)、『マグノリア』(’99年)、『アイズ・ワイド・シャット』(’99年)など、ドラマ性の高い作品にも出演していましたが、だんだんとアクションやSFなどのエンタメ作品で超人的なキャラクターばかりを演じるようになり、マンネリ感も否めませんでした。

近年は男前すぎる代償なのか、年齢的な容姿の変化が取りざたされるようにもなりましたが、本作を観ると、まだまだ爽やかオーラは健在です。そこに酸いも甘いも噛分けた大人の余裕が加わったような気がしました。

本作のテーマの一つは限界への挑戦ではないでしょうか。36年後に同じ役が成長した姿を演じたトムの挑戦は胸に響くものがありました。

物騒で不安なことばかりの今の時代、世代を問わず、さまざまな壁にぶつかり、自分の限界を感じている方も多いと思います。でも、自分の意思があれば乗り越えられる! 大空へ果敢に飛び立つ元トップガンの姿に勇気と元気をもらいました。


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くまのプーさん(2011)

安心して楽しめる『くまのプーさん』と
ディズニーの伝統的な2Dアニメの魅力を再認識

2011年、ディズニーの人気キャラクター『くまのプーさん』の劇場用長編映画35年ぶりに製作されました。

のんびり屋で食いしん坊のプーを始め、愛らしいキャラクターたちが繰り広げる、のどかでちょっぴり〈危険〉な1日が伝統的な2Dアニメーションで描かれています。

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【ストーリー】
ある朝、腹ペコで目覚めたプーは、自分の家のハチミツが底をついていたことを知り、ハチミツを探しに100エーカーの森へ向かいます。
森では、尻尾を無くしたイーヨーのために、仲間たちが「イーヨーのしっぽ探しコンテスト」をすることに。みんな尻尾の代わりになるものをいろいろ集めてきますが、どれもしっくりいきません。
プーはコンテストのご褒美のハチミツにあり付けず、お腹はすく一方です。
そんな中、クリストファー・ロビンが「すぐもどる」と書置きを残していなくなってしまいます。これを知ったかぶりのオウルが怪物“スグモドル”と勘違い。プーたちはロビンを怪物“スグモドル”から救い出すため、ある計画を立てますが……。

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物語は2つのエピソードが絶妙に絡み、愛すべきキャラクターたちの魅力が全開です。

ハチミツの事で頭がいっぱいのお気楽なプーを始め、何事にも悲観的ないじけキャラのイーヨー、小さい体で健気に頑張るピュアなピグレットピグー)、えらそうに間違える仕切り屋のオウルなど、個性豊かな超天然系キャラクターたちのとんちんかんなやり取りが本当に楽しく、ずっと微笑んで見ていられます。

ディズニーの創始者ウォルト・ディズニー生誕110周年記念作として製作され、ディズニーのベテランアニメーターたちが集結。製作総指揮はピクサーアニメのヒットメーカー、ジョン・ラセター。他愛ない物語を軽快に飛ばすユーモアセンスはさすがです。

同時上映された短編映画『ネッシーのなみだ』もキュートでほろっとする良作です。

ちなみに、私は臆病だけど、穏やかで心優しいピグーが大好きです。臆病なのはおそらく自己肯定感が低いからなのかもしれません。だから、とても他人事とは思えないのです(;^ω^)。それでも、勇気を出して、頑張る姿に励まされます( ´艸`)


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シカゴ(2002)

豪華ハリウッドスターが華麗に歌い踊る!
ハリウッド製ミュージカル映画の面白さを堪能

人気ブロードウェイ・ミュージカルを2002年に映画化した本作は、数々の賞レースを席巻。米国アカデミー賞では全9部門にノミネートされ、作品賞のほか、助演女優賞美術賞、衣装賞、編集賞、音響賞の6冠を獲得しました。

舞台は1920年代のシカゴ。ナイトクラブのスターダンサーの座をめぐり、したたかで、たくましくて、カッコイイ女性たちが圧巻のショータイムを繰り広げます。

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【ストーリー】
ホットなシカゴのナイトクラブ。人気ダンサー、ケリー姉妹の姉ヴェルマ(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)が公演直前に、慌ててやってきます。素早く衣装に着替えたヴェルマはたった1人で舞台に立ち、『オール・ザット・ジャズ』を力強く踊り、拍手喝さいを浴びていました。そんなヴェルマをダンサー志望のロキシーレニー・ゼルウィガー)は羨望の眼差しで見つめていました。
ところが、その後、ヴェルマは不倫していた自身の夫と妹を殺した罪で逮捕。そして、ロキシーも自分を騙した浮気相手の男を殺してしまい、刑務所へ入ることになります。そこには、先に殺人罪で収監されたヴェルマがいました。

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描かれるのは、“殺人犯”という話題性を得て、スターダンサーの座をつかみ取ろうとするヴェルマとロキシーとの下剋上”の闘い。死刑も免れない崖っぷちの状況下、敏腕弁護士ビリー・フリン(リチャード・ギア)を交えた三つ巴の駆け引きがゴージャスなミュージカルシーンとともに展開されます。

ミュージカル映画の醍醐味は、俳優たちの意外な姿が見られること。通常はセリフ劇に終始しているハリウッドスターが活き活きと歌い踊る姿に見とれてしまいます。

抜群の美貌とスタイルが目を引くキャサリン・ゼタ=ジョーンズはスター然とした高飛車なヴェルダ役を貫禄たっぷりに演じ、見事、米国アカデミー賞助演女優賞に輝きました。

マリリン・モンローを彷彿させるブロンドヘアのロキシーは単純で冴えない女性でしたが、思いがけず人々の注目を浴びたことから、高慢で計算高い女性へと変貌していきます。

ロキシーを演じるのは『ブリジット・ジョーンズの日記』(‘01年)で、ぽっちゃりしたキュートなヒロインを演じたレネー・ゼルウィガー。本作では、腹話術の人形になったり、妖艶な女性になったりと多彩なミュージカルシーンをこなしていますが、『ブリジット~』からは想像のつかない、すらりとした美脚に驚かされます。

そして、クールな二枚目役の多いリチャード・ギアが楽しそうに歌い踊る姿も見どころです。

殺人犯になっても驕り高ぶるヴェルダはやり手のビリーに弁護を頼み、無罪放免となり、華々しくステージへ復帰しようと考えていました。しかし、ビリーはロキシーのお人よしの夫エイダス(ジョン・C・ライリー)の無垢な愛にほだされ、ロキシーの弁護をすることに。ビリーによって、悲劇のヒロインに仕立て上げられたロキシーが、新聞のトップ記事を飾り、一躍、大衆の人気者となる一方、ヴェルダは過去の人になりつつありました。

刺激的で煽情的な大都会シカゴ。目新しいトピックが大好きな大衆心理を皮肉る、愉快で痛快なストーリー展開の中で、“殺人犯”の判決さえショータイムのように面白がる人々に踊りに踊らされたヴェルダとロキシーが辿り着くクライマックスシーンが実に爽快です!

本作の成功で、‘50~’60年代の絶頂期以降、徐々に衰退していったハリウッド製ミュージカル映画鮮やかな復活を果たしました。

本作以降、『レント』('05年)、『ヘアスプレー』('07年)、『マンマ・ミーア!』('08年)、『NINE』('09年)、『レ・ミゼラブル』('12年)など、人気ミュージカルを豪華にアレンジしたミュージカル映画が次々に作られています。

そして、ハリウッドスターたちも続々とミュージカルデビューを果たし、シリアスな映画では見られない、意外なエンターテイナーぶりを見せてくれるのはとても楽しいです。

みなみに、本作を手がけたロブ・マーシャル監督は来年2023年、ディズニー・ミュージカル映画『リトル・マーメイド』の実写版を監督するそうです。


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ワールド・トレード・センター(2006)

オリバー・ストーン監督が静かに描く
9.11事件からの奇跡の生還劇

9.11事件で崩壊したワールド・トレード・センターに丸1日、生き埋めにされ、救出された2人の港湾局警察官がいたそうです。

オリバー・ストーン監督が奇跡の実話を映画化した本作では、警察官や彼らの家族を中心に、恐怖の1日に対峙する米国民の姿が描かれています。

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【ストーリー】
2001年9月11日、快晴のニューヨーク。港湾局警察に勤めるベテラン巡査部長のジョン・マクローリン(ニコラス・ケイジ)や、同僚のウィル・ヒメノ(マイケル・ペーニャ)など、警察官たちはいつもと同じように業務を開始しました。
すると、午前8時40分過ぎ、突如、ワールド・トレード・センターのタワー1(北棟)にアメリカン航空11便が、続いてタワー2(南棟)にもユナイテッド航空175便が激突するという衝撃的な事件が発生。ジョンら警察官たちは直ちにタワーへ向かい、上層階へ取り残された人々の避難誘導にあたっていました。
しかし、内部に多くの人々を残したまま、タワーが崩壊してしまいます。

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本作では、崩壊したタワーに閉じ込められたジョンとウィルの脱出劇が描かれます。

瓦礫に埋もれた2人は絶望的な状況でも望みを捨てず励ましあい、行方不明の彼らの安否を気遣う家族はひたすら待つだけの状況に苦しみながらも耐え抜きます。そして、海兵隊員や消防士たちは2次災害を恐れず救助作業を敢行しました。

2006年の公開当時、事件から5年での映画化は時期尚早との見方が多かったのですが、あの恐怖の1日は、米国民が懸命に命と向き合った日でもあったように思います。

暗闇のビルでひたすら救助を待つ2人の姿を軸にした物語は、正直言って、単調な面も否めませんが、鋭い社会批判が持ち味のストーン監督が、ただ静かに命を慈しむ姿勢がメッセージの重要性を物語ります。

眉間に深いしわを刻み、物憂げな表情が印象的なニコラス・ケイジが悲惨な現実に立ち向かうウィルを淡々と演じ、適役です。

奇跡の生還を果たしたジョンとウィルは本作のアドバイザーとして携わり、事実を忠実に撮影するよう進言し、さらにエキストラとして出演しているといいます。

あの日からすでに21年経ちますが、9月になると想像を絶する事件があったことを思い返さずにはいられません。この物語は、あの日、あのビルの中で起こった現実の中の一つに過ぎず、他にも多くの現実があったのだと思うと複雑な気もします。

理不尽で非人道的な攻撃は止めなければいけない。未だ人間同士の争いが軽々しく行われている今、強く思います。


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空白(2021)

他者への理解が希薄な現代社会に問う問題作
古田新太が狂気の父親に魂を吹き込む

現職政治家たちの不正に迫った『新聞記者』(‘19年)、実際に起きた祖父母殺人事件に着想を得た『MOTHER』(‘20年)など、衝撃的な社会派ドラマを手掛ける映画会社スターサンズが再び問題作を放ちました。

『ヒメアノ~ル』(’16年)、『愛しのアイリ―ン』(‘18年)の吉田恵輔監督がオリジナル脚本を手がけた本作は、ある女子高生の衝撃的な死を発端に、さまざまな性格、境遇、立場の人々が絡み合い、救いの見えない悲惨な物語が展開します。

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【ストーリー】
漁師の添田古田新太)は自分の価値観がすべての人間。怒りっぽく、攻撃的で、シングルファーザーとして育てる一人娘・花音(伊東蒼)にもキツく当たっていました。そんな添田に抑圧されたためか、大人しくて、自己主張できない花音は孤独でした。
ある日、「スーパーアオヤギ」で、店長の青柳(松坂桃李)からマニキュアを万引きした疑いをかけられた花音はとっさに逃げ出しますが、万引き被害に苦しめられていた青柳は花音を追い続けました。すると、追いつかれそうになった花音が道路に飛び出し、車にひかれて死亡してしまいます。
この“事故”はTVワイドショーの恰好のネタとなり、原因の一つとなった青柳の元へマスコミが殺到します。世間で青柳の行為の是非が議論されるなか、添田が動き出します。花音を失った悲しみは、万引きの疑いをかけた青柳への怒りへと変わり、店での“真実”を聞き出すために、執拗に青柳を追い詰めていきます。

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添田が求めるのは、青柳の謝罪ではなく、花音の無実。それは娘の名誉のためではなく、添田自身の名誉のために見えます。「子育ての失敗」=「自分の非」。添田の怒りは「自分の非」を隠すためのもの。「自分の非」を隠すのは、すなわち、「弱さ」を見せて、他人に攻撃されたくないから。自分を“絶対”と信じ、他人を攻撃する人間の典型です。

古田の演じる添田狂気的で恐ろしいですが、現実には彼ほどではないにせよ、根底に添田のような気質がある人は多いのではないでしょうか。

ほかにも、さしたる目標もなく、人生後ろ向きに生きてきた青柳や、強い正義感が押し付けがましいスーパーの女店員(寺島しのぶ)など、リアル過ぎるキャラクターたちに考えらせられることがたくさんあります。

タイトルの『空白』には、深い意味があります。花音と青柳との店でのやり取りがクライマックスまで明かされず、「空白」の時間として観る者の興味を持たせます。

また、青柳を追い詰めるのは添田だけではありません。「他者を理解する心」を持たない人々が横行する「空虚」な現代社が生んだ悲劇は、決して絵空事とは思えないはずです。


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アンタッチャブル(1987)

ハラハラドキドキしっぱなし!
とにかくカッコいい! 傑作ギャング映画

1920~30年代初期のシカゴを舞台に、強大な勢力を誇ったマフィアのボス、アル・カポネと、彼を逮捕しようとする捜査官たちとの壮絶な攻防を、ブライアン・デ・パルマ監督が1987年に映画化しました。

デ・パルマ監督は、スティーブン・キング原作の超常ホラー『キャリー』(’76年)、ヒッチコック監督の『サイコ』にオマージュを捧げたエロティックサスペンス『殺しのドレス』(‘80年)、アル・パチーノ主演のギャングアクション『スカーフェイス』(‘83年)など、カルト的な人気を博した作品で注目を集めていました。

本作は、長回しやスローモーション、分割画面や覗き風の視点など、独特の映像手法を多用し、“映像の魔術師”とも称されたデ・パルマ監督が真骨頂を発揮、けれん味あふれるシーンの数々にハラハラドキドキしっぱなしの傑作ギャング映画です。

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【ストーリー】
1920~30年代初期、禁酒法が施行されたアメリカでは、ギャングたちが酒の密売やカナダから酒を密輸し、莫大な利益を得ていました。アメリ財務省のエリオット・ネス(ケビン・コスナー)は連邦政府からギャング摘発チームの捜査主任に任命され、シカゴへ向かいます。赴任早々、酒密造摘発で手柄を立てようとしたものの、ギャングに買収された警察官が情報を漏らしたために失敗してしまいます。
その帰り道、失意の中にいたネスは初老の警官ジム・マローン(ショーン・コネリー)に出会います。その後、シカゴを牛耳るアル・カポネの逮捕に意欲を燃やすネスは、マローンや射撃の腕を見込んだ新米警官のジョージ・ストーン(アンディ・ガルシア)、カポネを脱税で逮捕することを提案した財務省の簿記係オスカー・ウィレス(チャールズ・マーティン・スミス)ら、信頼できる仲間を集め、独自の捜査に乗り出します。

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一筋縄ではいかない男たちが集まった作品は本当に見どころが満載です。

まずは豪華な俳優陣の競演。本作の主演に大抜擢されたケビン・コスナーは正義漢のネスを好演、一躍トップスターの仲間入りを果たしました。ジョルジオ・アルマーニのスーツをビシッと着こなしたケビンはスタイリッシュで、改めて見ると本当に“イイ男”です。

いぶし銀の名優ショーン・コネリーと変幻自在の怪優ロバート・デ・ニーロベテラン対決もワクワクします。そして、ニヒルなジョージをクールに演じたアンディ・ガルシアも本作で一躍脚光を浴びました。

カポネの買収工作に応じず、マフィアを追い詰めるネスたちのチームは、手出しのできない“アンタッチャブル”としてマフィアの報復を受けることに。両者による激しい銃撃戦が何度も繰り広げられますが、“嵐の前の静けさ”を効果的に取り入れたアクションシーンが実にハラハラドキドキして、痺れます。

有名なのはシカゴ・ユニオン駅で、ネスとストーンが逃亡するマフィアを待ち伏せするシーン。駅中央の大階段でネスがマフィアの到着を待っていると、女性が乳母車を押し上げながら階段を登っていきます。大変そうな女性を見かねてネスが乳母車を引き上げていると、そこへマフィアが到着。マフィアに気を取られたネスがなんと、乳母車を離してしまうのです。そこから始まるスローモーションによる銃撃戦は必見です。

乳母車が階段を下るなか、ネスやマフィアたちが容赦ない銃撃戦を繰り広げます。乳母車の中には、かわいい赤ちゃんがいます。正直言って、真夜中の12時に赤ちゃん連れの女性がいることに素朴な疑問が湧くのですが、緊迫感とカッコよさを追求したデ・パルマ監督の術中にまんまとはまり、息を詰めて見入ってしまいます。

また、マローンの自宅で起こるマフィアとマローンとの攻防はマフィアの視点で描かれ、ひたひたと忍び寄るマフィアの脅威が伝わってきます。ドラマチックな展開に驚かされるショーン・コネリーのアクションシーンは見せ場の一つです。

ロバート・デ・ニーロアル・カポネは何を仕出かすか分からない狂気がみなぎっています。そして、そんな恐るべきロバート的カポネに対峙するネオをスマートに演じていたケビン・コスナーも最後には感情を爆発させます。

静から動への転換で観る者を惹きつけるデ・パルマ監督の演出に、俳優たちも渾身の演技で応えています。

そして、映画のオープニングを飾るテーマ曲のカッコよさも語るべきでしょう。不穏な雰囲気を高める、重低音の不気味なメロディは、『ニュー・シネマ・パラダイス』('89年)も手がけたイタリアの作曲家エンニオ・モリコーネによるものです。


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