映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

人生に迷えるアラフィフ女性が、映画を通して人生について考える。ネタバレなしの映画レビューサイト。

いのちの停車場(2021)

死という〈永遠の別れ〉の前に立ち止まる場所
悲しくも温かい在宅医療の現場を描く

“駅”は電車や人の往来をイメージさせますが、“停車場”からは電車や人がひっそりと佇む光景が浮かんできます。

本作でいう“停車場”とは、命が〈ふっと立ち止まる〉場所。そして、動き出した後に向かう先は“死”――。

高齢者医療専門病院の現役医師・南杏子の同名小説を、吉永小百合主演で映画化。古都・金沢を舞台に、小さな在宅医療専門医院のスタッフたちと終末期の患者たちとの“最後”の交流を静かに見つめています。

【ストーリー】
東京の救急救命センターで働いていた医師・白石咲和子(吉永小百合)は、命を優先したために病院の規定に反した医大卒業生・野呂(松坂桃李)の起こした事件の責任をとって辞職します。
その後、故郷の金沢へ帰った咲和子は、在宅医療専門の「まほろば診療所」で働き始めます。陽気な人柄で人々に慕われる院長・仙川(西田敏行)の方針は〈患者の生き方を尊重する〉医療で、積極的な治療をしない場合も。慌ただしい現場で、多くの命を救ってきた咲和子は患者に〈寄り添う〉だけの医療に戸惑います。

末期の肺がんを患いながら、最後まで自分らしく生きることを貫く芸者・理恵子(小池栄子)や、脊髄損傷で四肢麻痺となりながらも、新しい医療を求め、希望をもって生きるIT企業社長・江ノ原(伊勢谷友介)、老々介護で疲弊し、寝たきりの妻を愛しながらも治療に非協力的な並木(泉谷しげる)など、重い病気を抱えた人々の思いと生き様が、心優しい医師・咲和子というフィルターを通して描かれます。

死が溢れたストーリーは悲しく、切ないです。なかでも、がんが再発し、昔懐かしい咲和子へ会いにやってきた女流棋士・朋子(石田ゆり子)や、小児がんの8歳の少女・みゆ(若林萌)と両親のエピソードは辛いです。

不安と絶望を抱えながらも明るく振舞う朋子や、病気のために不自由な生活を受け入れながらも、せめて海へ行きたいと望むみゆ、そして、みゆに迫る死を受け入れられず、必死に新たな治療法を求める母親(南野陽子)など、3人の女優たちが三者三様の情感のこもった演技をみせており、身につまされ、〈もし自分や家族に起きたことなら〉と、考えずにはいられません。

辛い話もありますが、穏やかな仙川、気風のいい看護師・麻世(広瀬すず)、咲和子を慕い東京の病院を辞めてきた、ちょっぴり天然気質で麻世と良いコンビとなる野呂など、「まほろば」のスタッフの温かさに救われます。

そして、吉永小百合安定した演技はやはり見応えがあります。終末医療の現場に戸惑いながらも受け入れようとする咲和子の心の成長物語が、丁寧に紡がれます。吉永の特徴的な低音の語り口と落ち着いた佇まいには本当に惹きつけられ、その存在の大きさを改めて感じます。

そんな咲和子に試練が訪れます。病気に侵された父親(田中泯)が終末医療を望んだのです—―。

在宅医療の悲しくも温かい現場。誰もがたどり着く〈いのちの停車場〉を心地よいものにしていけたら……。そのためにはやはり家族や仲間、周囲の支えが必要なのでしょう。死という〈永遠の別れ〉を前に、人のつながりの大切さを実感しました。


いのちの停車場 [ 吉永小百合 ]

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吉永小百合の最新主演作が2023年9月1日より公開】

人生、山あり谷あり。それでも、前を向いて生きていく!
山田洋次監督ならではの温かい人情喜劇

movies.shochiku.co.jp

イングリッシュ・ペイシェント(1996)

不倫の愛を壮大な文芸ロマンへ昇華させた
名もなき“イギリス人の患者”の愛の物語

灼熱のエジプト・サハラ砂漠で燃え上がった禁断の愛。第2次世界大戦時代の北アフリカとイタリアを舞台に、人妻を愛した男の運命を描いたドラマチックなラブストーリーです。

イギリスの文学賞であるブッカー賞を受賞した同名小説を、アンソニー・ミンゲラ監督が脚本も手がけて映画化。米アカデミー賞では12部門にノミネートされ、作品賞を含む9部門でオスカーを獲得しました。

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【ストーリー】
第2次世界大戦下、砂漠を飛行中のプロペラ機がドイツ空軍に撃墜されてしまいます。操縦士の男(レイフ・ファインズ)は顔面が焼けただれ、瀕死の重傷を負いますが、アラブの遊牧民族ベドウィンに助けられ、一命をとりとめます。
やがて男は、看護師ハナ(ジュリエット・ビノシュ)のいるイタリアの野戦病院へ運び込まれます。大やけどを負い、顔と身体を包帯で巻かれた男は過去の記憶を失くし、名前が分かりませんでしたが、英語を話すことから、“イギリス人の患者(イングリッシュ・ペイシェント)”と呼ばれていました。
その後、野戦病院に危険が迫ったため、医師や看護師は患者たちを連れて、フィレンツェへ移動することに。しかし、イギリス人の患者は長い移動に耐えられそうもありません。そんな時、愛する人を次々に亡くし、失意の中にいたハナは、空襲で破壊され、廃墟となっていた修道院に留まり、患者を世話することにします。

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描かれるのは、“イギリス人の患者”の過去と現在の物語。患者を襲おうとするカナダ軍諜報部隊のカラバッジョウィレム・デフォー)が修道院に現れたことから、患者は徐々に過去の記憶を取り戻していきます。

患者の正体はハンガリー人のアルマシー伯爵。1930年代後半、アルマシーはリビア・エジプトでの考古学調査団に参加。そこで仲間のジェフリー・クリフトン(コリン・ファース)の妻キャサリン(クリスティ・スコット・トーマス)と出会い、愛するようになります。

始めはキャサリンにつれない態度をとっていたアルマシーですが、それは秘めたる愛の裏返し。キャサリンはアルマシーの気持ちをつかめず、戸惑っていましたが、サハラ砂漠で発掘された「泳ぐ人の壁画」が描かれた洞窟でのロマンチックな体験や、巨大な砂嵐に襲われた恐怖の一夜を経て、2人は激しく求め合うようになります。

過去のシーンでは、レイフ・ファインズ演じるツンデレなアルマシーが本当に魅力的です。独身貴族の優雅さ、キャサリンを一途に思う純粋さ、許されぬ愛に突き進む強引さ。アルマシーのさまざまな内面を巧みに表現するレイフ・ファインズ演技の上手さにほれぼれしてしまいます。

現在のシーンでは、緊迫した戦禍で、静かに育まれるハナの愛が描かれます。患者が話す激しい愛の物語に耳を傾けるハナは、修道院で黙々と地雷処理を行うシーク人のキップ(ナヴィーン・アンドリュース)に惹かれていきます。そして、キップも献身的なハナに心を開いていきます。

北アフリカとイタリアでの2つの愛の物語を丹念に描いていくため、たっぷり2時間42分の長尺です。不倫を題材にしており、昨今のご時世では、否定的に捉える人も多くなっているかもしれませんが、本作は許されぬ愛の切なさと、一途な愛の美しさに圧倒されます。

自信家のアルマシーが、なぜ名もなき“イギリスの患者”として死の淵にいることになったのか。その理由が描かれる壮大なクライマックスが圧巻です。

熱気あふれるアラブの街並みや、太陽が照りつける広大な砂漠など、エキゾチックな北アフリカの光景が魅惑的で、激しい愛に身をゆだねたくなるのも分かる気がします。

ストーリー、キャスト、映像すべてが秀逸。非現実的な愛の世界へと誘う文芸ロマン映画の名作です。


イングリッシュ・ペイシェント【Blu-ray】 [ レイフ・ファインズ ]

ハウルの動く城(2004)

老いの戸惑いも、戦争の苦しみも乗り越えて! 
恋する90歳のソフィー婆ちゃんの活躍に注目

戦争や高齢化社会など、世の中には憂慮すべき問題が溢れ、最良の解決策は当分見つかりそうにありません。

宮崎駿監督作『ハウルの動く城』は、これら厳しい現実を反映させながらも押し付けがましいメッセージはありません。“素直な心で感じてほしい”というのが監督の願いで、公開時に作品を宣伝するための資料は一切公開しないという徹底ぶり。

宮崎アニメだからといって過剰な期待も偏見も抱かず観てほしい。何を感じ、どう考えるか、自分自身の価値観が分かるから。

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【ストーリー】
主人公は邪悪な荒地の魔女に呪いをかけられ、90歳の老婆に変えられてしまった18歳の少女ソフィー(声・倍賞千恵子)。生真面目で消極的な彼女はひとまず人目を避けるため山に向かい、魔法使い
ハウル(声・木村拓哉)の住む動く城に迷い込んでしまいます。
ハウルは世間では美女の心臓を食べると恐れられていましたが、しわくちゃ婆さんになったソフィーにそんな噂は怖くありません。掃除婦という役割を見つけ、ハウルの城で暮らしはじめます。

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まずはソフィー婆ちゃんの活躍に注目です。老化したことで潔さと大胆さを身に付けたソフィーは、荒地の魔女の仕打ちに落ち込むどころか、怒りをエネルギーに変えて精力的に働きまくります。その意欲に満ちた態度は、自己中心的なハウルを始め、恐ろしい力を秘めた火の悪魔カルシファー、そして憎き荒地の魔女の心さえ溶きほぐします。

愉快痛快な老人力とも言うべきソフィーの言動がユーモアたっぷりに描かれます。だが、そこには老人だけが知りうる苦楽がしっかりと盛り込まれています。

愛すべきわがままな魔法使いたちとの生活をとおして愛の力も備えたソフィー。アニメ史上最高齢のヒロイン、ソフィーの物語はれっきとしたラブストーリーです。

ソフィーへの呪いを解く方法はハウルカルシファーの間に交わされた契約を解くこと。この謎を下敷きにしながら、ハウルとソフィーの愛が育まれていく様子が描かれます。

だが、戦争の激化とともにハウルの正体が明らかに。ミステリーとファンタジーを含んだラブストーリーの中で戦争の矛盾を突くことも決して忘れません。

少女と老婆、両方のソフィーを演じた倍賞千恵子すがすがしくも威厳ある声に心洗われる一方で、ハウルの声を演じた木村拓哉変身ぶりに驚かされます。日頃テレビで氾濫する彼のイメージはまったくありません。

人間にも物事にもすべて無限の可能性が存在します。目の前の悲劇に囚われず、可能性を信じて努力すればどんな現実でも変えられます。私はそんな勇気の出るメッセージをもらいましが、みなさんはどうでしょうか?


ハウルの動く城 【DVD】

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宮崎駿監督10年ぶりの最新作が2023年7月14日より公開】

www.ghibli.jp

M:I-2(2000)

タフなのに官能的なイーサン・ハントのミッション
ジョン・ウーマジックに彩られた、新生『スパイ大作戦

本作は2000年夏の注目作として華々しく公開されました。

1960年代の人気テレビシリーズ『スパイ大作戦』を人気スター、トム・クルーズ主演で映画化し、話題を呼んだ1作目『ミッション:インポッシブル』(’96年)にも並々ならぬプレッシャーがあったに違いありませんが、その大成功を受けて製作された第2作には、1作目以上の期待とプレッシャーがあったことでしょう。

そのプレッシャーをはねのけるために、〈あえて正攻法をとらないこと〉、〈敵、つまり観客の目を欺くこと〉という特別諜報部員の鉄則にならったかどうかは定かではありませんが、本作では、当時のアクション映画に新風を吹き込んだ香港映画界の雄ジョン・ウーを監督に迎え、髪を伸ばして野性味を加えたイーサン・ハントが、愛をかけた情熱的なミッションを遂行しています。

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【ストーリー】
本作で、特別諜報部員イーサン・ハント(トム・クルーズ)に与えられたミッションは、体内に入ると72時間後には全細胞を破壊し、死にいたらしめる恐るべき新種の病原菌、キマイラとそのワクチンをテロリストから奪還すること。イーサンはまず始めに、女盗賊ナイア(サンディ・ニュートン)とチームを組むよう指令を受けます。
その指令の目的はテロリストの正体がイーサンの元同僚の諜報部員ショーン(ダグレイ・スコット)であったことから、すべての戦術の手の内を知られたイーサンに残された方法として、ショーンの元恋人のナイアを囮に使うことでした。
しかし、すぐに相棒から恋人になったナイアを危険な敵陣に送り込んだイーサンは、愛する人を守るという人間としての任務も同時に遂行することになります。

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ロック・クライミング中のイーサン・ハントに任務が告げられる冒頭シーンでは、トムが実際に命綱1本で2千メートルの岩壁を登っており、その目の眩むような景観と、精悍なハントの姿からタフなアクション映画になる予感は十分です。

その期待に違わず、特殊任務であるキマイラをめぐる攻防は壮絶を極め、スローモーション映像を融合したカーチェイスやド派手な銃撃戦、疾走感溢れるバイクチェイス、マーシャルアーツによる一騎打ちの闘いなど、ジョン・ウー印のけれん味あふれるアクションシーンがてんこ盛り。前作でイーサンが見せた、冷や汗ものの宙づり侵入作戦も再び登場します。

しかし、CGによる特殊効果は少なく、冒頭同様ほぼトム自身がアクションをこなしています。

内容的には1作目でも踏襲されていたスパイものの醍醐味である、緻密なチームプレイや頭脳戦はありませんが、機密任務を遂行する1人のスパイの道ならぬ愛を描いた、甘く、官能的なトーンはぴったりとはまっています。ハントと恋に落ちるナイア役のサンディ・ニュートンの美しさにも魅せられます。

とにかく〈オリジナルのTVドラマや前作と比較しない〉ということが観る側に課せられた、第1の鉄則。ジョン・ウーの映像美学によって、新しく生まれ変わったミッションを心ゆくまで堪能しましょう。

ちなみに、本作は1作目を上回る大ヒットを記録、2000年の全世界映画興行収入第1位となりました。


M:I-2 スペシャル・コレクターズ・エディション【Blu-ray】 [ トム・クルーズ ]

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【27年続く人気シリーズとなったスパイアクション映画
 待望のシリーズ第7作が2023年7月21日より公開!】

missionimpossible.jp

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス(2022)

メタバースで知る、今の人生の大切さ
カオスなのになぜか泣ける異色のSFアクション映画

今年2023年度の米アカデミー賞作品賞受賞! ほかにも監督賞や主演女優賞など計7部門でオスカーを獲得。また、世界各国の賞レースを席巻し、300以上の賞を受賞(2023年6月現在)、全世界興収も1億ドルを突破するなど、驚異的な成功を収めている映画です。

でも、アカデミー賞作品賞「マジメな映画」という固定概念を持っていると、あまりのギャップに頭を抱えてしまうかもしれません。メタバース(並行宇宙)を舞台にしたストーリーはとんでもなくカオスで、「ラズベリー賞のまちがいじゃないの?」と思う人もいるでしょう。(「マジメな映画」が良いという訳でもありませんが(;^ω^))

私も「アカデミー賞作品賞」の冠に釣られて観に行ったクチです。なんたって、SF映画では初の作品賞受賞作というのですから、どんなに「良い映画なのかと……」。

結論から言うと、作品賞はちょっと持ち上げすぎに思えましたが、見たことのない異次元のメタバースを創造した製作者の発想力には本当に驚きました。おそらく製作者たちも、そんな王道の評価ではなく、B級カルト映画として、分かる人には分かる「唯一無二の迷宮世界」を楽しんでくれればいい、と思っていたのではないでしょうか。

そして、最たる驚きは、なんと泣けるのです! 面白いか、面白くないかはあなた次第。世間の評価は好き嫌い、賛否両論真っ二つに分かれていますが、映画の無限の可能性を感じさせる、この超斬新な映像世界には、ぜひ飛び込んでみてほしいです。私は悪くありませんでした。( ´艸`)

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【ストーリー】
コインランドリーを経営するエヴリン(ミシェル・ヨー)は店の税金問題に追われる中、家族とのトラブルも抱えることに。反抗期の娘ジョイ・ワン(ステファニー・スー)とは彼女のガールフレンドとの交際をめぐり衝突、中国からやってくるエヴリンの厳格な父ゴンゴン(ジェームズ・ホン)は介護が必要、夫のウェイモンド(キー・ホイ・クァン)は優しいけれど頼りになりません。そんなウェイモンドはこっそり離婚届けを用意していました。
その後、エヴリンがウェイモンドとゴンゴンとともに、IRS(アメリカの国税局)へ向かうとウェイモンドの顔つきが変わります。
IRSの女性監察官ディアドラ(ジェイミー・リー・カーティス)から書類の不備を指摘され、家へ帰ろうとするエヴリンに対し、“別宇宙の夫”に乗り移られたウェイモンドが「全宇宙にカオスをもたらす強大な悪を倒せるのは君だけだ」と言い出します。
すると、悪の手先が突然、IRSに現れ、追い詰められたエヴリンはマルチバースへジャンプしてしまいます。

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映画冒頭で、悩みだらけのエヴリンの生活が描かれます。領収書がちらばる雑然とした部屋で、イライラ度マックスのエヴリンを観ていると憂鬱な気分になってきます。

でも、IRSが突然、闘いの場となり、エヴリンが1つ目のメタバースへ向かうシーンから、カオスな世界へ「Go!!!」とばかりに、コメディタッチのSFアクションが怒涛のごとく展開されます。意味不明だったり、お下劣だったり、実にさまざまなメタバースが次々に登場し、何が何だか本当によく分からないのですが、これまでに観たことのない世界観を創り出せる独創性には素直に感心しました。

そんなよく分からないシーンの数々を通して描かれるのは、〈もしあの時、違う道を歩んでいたら?〉という人生に迷う人々の物語。エヴリンは親の反対を押し切り、駆け落ちまでしてウェイモンドと結ばれたのですが、もし彼と別れていたら? エヴリンは自分がカンフーアクション女優やスーパーシェフとして活躍するメタバースへジャンプします。

メタバースへ行く度に、カンフーのほかにも、さまざまな力を身につけたエヴリンは訳が分からぬまま、宇宙を救うヒーローに。敵として現れるのは、なぜかいつも娘ジョイ・ワンの別宇宙の人格である「ジョブ・トゥパキ」。また、ウェイモンドやゴンゴン、さらにはディアドラまでもメタバースではとんでもないキャラクターになっています。

ブラックホールのようなベーグル、『2001年宇宙の旅』の冒頭風の荒野にいる目玉の付いた岩など、謎めいたキャラクターがこれでもかと登場する、クセの強過ぎる世界観は途中まで本当に意味が分からないのですが、次第に意味がつながり、胸のすくような結末が訪れます。究極にばかげたことを貫いたからこそ生まれたメッセージは思いがけず心に沁み、私は泣いてしまいました(;^ω^)

映画が伝えるのは、「自分の殻を破り、多様性を認め、家族を大切にし、自分の人生を愛する」ということ。もし人生に後ろ向きになっていたら、どんな風に思われようとも、信念を貫いてこの映画を作り上げた製作者たちの勇気に刺激を受けるのでは。イマイチうまくいかない日常を送る私は背中を押され、一歩前に踏み出したくなりました。

そして、荒唐無稽なメタバースの世界をパワフルに駆け回ったキャストたちの頑張る姿にも胸が熱くなります。エヴリン役のミシェル・ヨーアカデミー賞主演女優賞、ウェイモンド役のキー・ホイ・クァンは同助演男優賞、ジョイ・ワン役のステファニー・スーは同助演女優賞を受賞。この快挙は、近年、とかく叫ばれる「多様性」の風潮が後押しした感も否めませんが、意味不明なキャラクターを演じ切った俳優たちは称賛されてもいいかもしれません。

特に冴えないおばさん感満載の衣装で、髪を振り乱し、傷だらけになりながら、メタバースの中で奮闘するミシェル・ヨーのがむしゃらな姿は思わず応援したくなります。

ちなみに私はおかっぱ頭の監察官ジェイドラが好きです。指がソーセージのように長くなったエヴリンとジェイドラのダンスシーンのシュールなこと。2人の意外な関係にも注目です。

感動はしたけれど、正直言えば、メタバースの設定がよく分からないので、ストーリーもイマイチ把握できていません(;^ω^)、おそらく、もっといろんな意味があるのでしょう。メタバースの謎を解くために、もう一度観てみたいと思います。新しい発見があるかな?


エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス【Blu-ray】 [ ミシェル・ヨー ]

A.I.(2001)

2人の巨匠のコラボレーションが注目された壮大なSFファンタジー
人間と感情のあるロボットたちが共存する未来社会の光景とは?

「人間は愛がなくては生きられない生物だ。それが人工知能A.I.)によって生まれたバーチャルな愛だとしても、愛し愛される対象を求める――」

原作はSF作家ブライアン・オールディスの短編『スーパートイズ』。子どものいない人間の家庭で、子どもの代用品として育てられる少年型アンドロイドが母親から真の愛情を手に入れるまでを描いた物語を、スタンリー・キューブリックが次回作として膨大なストーリーボードで肉付けし、スティーブン・スプルバーグがその遺志を受け継ぎ映像化しました。

映画史に残る2人の巨匠のコラボレーションに並々ならぬ興味が集まった、3部構成の壮大なSFファンタジーです。

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【ストーリー】
外見は完璧な8歳の少年のデイビッド(ハーレイ・ジョエル・オスメント)は愛するという感情を入力できる次世代型ロボットとして開発され、その高度な能力を試すために不治の病で冷凍保存された息子を持つ若い夫婦の子どもとして迎えられます。
母親のモニカ(フランセス・オコナー)はデイビッドを実子同様にかわいがりますが、現代医学で息子のマーティンが治癒し、再びモニカの元へ帰ってきたことからデイビッドの生活は一変します。
ロボットのデイビッドを心から愛せないと悟ったモニカは彼をロボットが徘徊する森の奥に置き去りにしてしまいます。
モニカに捨てられたデイビットはロボットの苛酷な現実を見せつけられながらも、ただひとつ母に愛されたいという願いを貫き、人間になるための旅をします。

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本作が公開されたのは21世紀が幕を開けた2001年、今から20年以上前のことです。ノストラダムスが予言した〈人類滅亡の危機〉も無事乗り越え(!)、100年に一度の新世紀に入る瞬間を目の当たりにして、感慨を抱いた人も多いのではないでしょうか?

また、人工知能の反乱を描いた『2001年宇宙の旅』の時代がついに到来した年でもありました。実際の世界は、映画ほどには進歩していませんでしたが、1999年にはペットロボット〈AIBO(アイボ)〉が発売され、人気を呼ぶなど、〈A.I.=人工知能〉を持つロボットと共存する新しい社会へと着実にむかっていく。そんな明るい希望に満ちていた時代だったような気がします。

そんな旬なタイミングでの、名匠スピルバーグによる映画化に期待せずにはいられませんでしたが、ふたを開けてみると、テーマ自体はロボットもののSFとしてはありがちな主従関係が明確な人間とロボットの共存する社会の理想と現実について説いた作品になりました。

そして、そんな未来社会を描くにあたって、常に浮き彫りにされるのは人間の傲慢さや非情さです。デイビッドのほか、旅の道連れとなるジゴロ・ロボットのジョー(ジュード・ロウ)と時代遅れのスーパートイ、テディ(声・ジャック・エンジェル)ら、さまざまなロボットたちにも過酷な運命が待ち受けており、正直いって、辛い物語です。

本作は、人間の愛の深さや愚かさについて再考させ、人工知能を作り出すことの責任について問う社会派ドラマになるはずだったのではと思います。

しかし、そのシンプルなメッセージは万人に対してストレートに伝わるものではなかったようです。

スピルバーグキューブリックの構想にほぼ忠実に脚本化したそうですが、ピノキオの童話を持ち出し、デイビッドがブルー・フェアリー(声・メリル・ストリープ)を捜しはじめたところからメルヘンタッチなスピルバーグが濃くなり、批評的には賛否両論に別れる結果となりました。


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グレイテスト・ショーマン(2017)

ミュージカル映画スペシャリストが結集
勇気と活力がわいてくる“史上最大のショー”

ラ・ラ・ランドで注目を集めた音楽チーム、ベンジ・パセック&ジャスティン・ポール、『レ・ミゼラブル』で圧巻の歌唱を披露したヒュー・ジャックマンや、『シカゴ』の脚本家ビル・ゴンドンなど、現代を代表する名作ミュージカル映画を生み出したスペシャリストたちが結集した本作は、まさにエンターテイメントのパワーに圧倒される、迫力満点のミュージカル映画となっています。

ミュージカル女優キアラ・セトルがひげの生えた巨漢の女性に扮し、「これが私!」と高らかに歌う「This Is Me」は、特に心に響きます。

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【ストーリー】
ジュー・ジャックマン演じる主人公のP.T.バーナムは19世紀半ばのアメリカで、ショービジネスの原点を築いた興行師。彼は、ひげの生えた女性や、低身長の成人男性など、“オンリーワンの個性”を持つ人々をパフォーマーにした、前代未聞のショーを発案し、大成功を収めます。

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ポップでファンタジックな『ラ・ラ・ランド』とは違い、アグレッシブなバーナムのサクセスストーリーを描いた本作は、ハードでダイナミックなナンバーが多く使われています。貧しい出自や特殊な容姿のためにさげすまれ続けたバーナムや、パフォーマーたちの心の叫びを、ヒュー・ジャックマンら実力派の俳優たちが渾身のパフォーマンスで伝えます。

上流階級への憧れから、さらなる成功を求めたバーナムは、大切やパフォーマーや最愛の家族を蔑ろにし、挫折を味わいますが、独特のアイデアで華麗に復活します。

差別や偏見、失敗の苦しみを乗り越えた、バーナムやパフォーマーたちが繰り広げる主題曲『ザ・グレイテスト・ショー(史上最大のショー)』は、見応えたっぷり。何かに悩んだり、落ち込んでいたりしたら、ぜひ見てほしい作品です。きっと勇気と活力がわいてくるはずです。


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