映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

人生に迷えるアラフィフ女性が、映画を通して人生について考える。ネタバレなしの映画レビューサイト。

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス(2022)

メタバースで知る、今の人生の大切さ
カオスなのになぜか泣ける異色のSFアクション映画

今年2023年度の米アカデミー賞作品賞受賞! ほかにも監督賞や主演女優賞など計7部門でオスカーを獲得。また、世界各国の賞レースを席巻し、300以上の賞を受賞(2023年6月現在)、全世界興収も1億ドルを突破するなど、驚異的な成功を収めている映画です。

でも、アカデミー賞作品賞「マジメな映画」という固定概念を持っていると、あまりのギャップに頭を抱えてしまうかもしれません。メタバース(並行宇宙)を舞台にしたストーリーはとんでもなくカオスで、「ラズベリー賞のまちがいじゃないの?」と思う人もいるでしょう。(「マジメな映画」が良いという訳でもありませんが(;^ω^))

私も「アカデミー賞作品賞」の冠に釣られて観に行ったクチです。なんたって、SF映画では初の作品賞受賞作というのですから、どんなに「良い映画なのかと……」。

結論から言うと、作品賞はちょっと持ち上げすぎに思えましたが、見たことのない異次元のメタバースを創造した製作者の発想力には本当に驚きました。おそらく製作者たちも、そんな王道の評価ではなく、B級カルト映画として、分かる人には分かる「唯一無二の迷宮世界」を楽しんでくれればいい、と思っていたのではないでしょうか。

そして、最たる驚きは、なんと泣けるのです! 面白いか、面白くないかはあなた次第。世間の評価は好き嫌い、賛否両論真っ二つに分かれていますが、映画の無限の可能性を感じさせる、この超斬新な映像世界には、ぜひ飛び込んでみてほしいです。私は悪くありませんでした。( ´艸`)

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【ストーリー】
コインランドリーを経営するエヴリン(ミシェル・ヨー)は店の税金問題に追われる中、家族とのトラブルも抱えることに。反抗期の娘ジョイ・ワン(ステファニー・スー)とは彼女のガールフレンドとの交際をめぐり衝突、中国からやってくるエヴリンの厳格な父ゴンゴン(ジェームズ・ホン)は介護が必要、夫のウェイモンド(キー・ホイ・クァン)は優しいけれど頼りになりません。そんなウェイモンドはこっそり離婚届けを用意していました。
その後、エヴリンがウェイモンドとゴンゴンとともに、IRS(アメリカの国税局)へ向かうとウェイモンドの顔つきが変わります。
IRSの女性監察官ディアドラ(ジェイミー・リー・カーティス)から書類の不備を指摘され、家へ帰ろうとするエヴリンに対し、“別宇宙の夫”に乗り移られたウェイモンドが「全宇宙にカオスをもたらす強大な悪を倒せるのは君だけだ」と言い出します。
すると、悪の手先が突然、IRSに現れ、追い詰められたエヴリンはマルチバースへジャンプしてしまいます。

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映画冒頭で、悩みだらけのエヴリンの生活が描かれます。領収書がちらばる雑然とした部屋で、イライラ度マックスのエヴリンを観ていると憂鬱な気分になってきます。

でも、IRSが突然、闘いの場となり、エヴリンが1つ目のメタバースへ向かうシーンから、カオスな世界へ「Go!!!」とばかりに、コメディタッチのSFアクションが怒涛のごとく展開されます。意味不明だったり、お下劣だったり、実にさまざまなメタバースが次々に登場し、何が何だか本当によく分からないのですが、これまでに観たことのない世界観を創り出せる独創性には素直に感心しました。

そんなよく分からないシーンの数々を通して描かれるのは、〈もしあの時、違う道を歩んでいたら?〉という人生に迷う人々の物語。エヴリンは親の反対を押し切り、駆け落ちまでしてウェイモンドと結ばれたのですが、もし彼と別れていたら? エヴリンは自分がカンフーアクション女優やスーパーシェフとして活躍するメタバースへジャンプします。

メタバースへ行く度に、カンフーのほかにも、さまざまな力を身につけたエヴリンは訳が分からぬまま、宇宙を救うヒーローに。敵として現れるのは、なぜかいつも娘ジョイ・ワンの別宇宙の人格である「ジョブ・トゥパキ」。また、ウェイモンドやゴンゴン、さらにはディアドラまでもメタバースではとんでもないキャラクターになっています。

ブラックホールのようなベーグル、『2001年宇宙の旅』の冒頭風の荒野にいる目玉の付いた岩など、謎めいたキャラクターがこれでもかと登場する、クセの強過ぎる世界観は途中まで本当に意味が分からないのですが、次第に意味がつながり、胸のすくような結末が訪れます。究極にばかげたことを貫いたからこそ生まれたメッセージは思いがけず心に沁み、私は泣いてしまいました(;^ω^)

映画が伝えるのは、「自分の殻を破り、多様性を認め、家族を大切にし、自分の人生を愛する」ということ。もし人生に後ろ向きになっていたら、どんな風に思われようとも、信念を貫いてこの映画を作り上げた製作者たちの勇気に刺激を受けるのでは。イマイチうまくいかない日常を送る私は背中を押され、一歩前に踏み出したくなりました。

そして、荒唐無稽なメタバースの世界をパワフルに駆け回ったキャストたちの頑張る姿にも胸が熱くなります。エヴリン役のミシェル・ヨーアカデミー賞主演女優賞、ウェイモンド役のキー・ホイ・クァンは同助演男優賞、ジョイ・ワン役のステファニー・スーは同助演女優賞を受賞。この快挙は、近年、とかく叫ばれる「多様性」の風潮が後押しした感も否めませんが、意味不明なキャラクターを演じ切った俳優たちは称賛されてもいいかもしれません。

特に冴えないおばさん感満載の衣装で、髪を振り乱し、傷だらけになりながら、メタバースの中で奮闘するミシェル・ヨーのがむしゃらな姿は思わず応援したくなります。

ちなみに私はおかっぱ頭の監察官ジェイドラが好きです。指がソーセージのように長くなったエヴリンとジェイドラのダンスシーンのシュールなこと。2人の意外な関係にも注目です。

感動はしたけれど、正直言えば、メタバースの設定がよく分からないので、ストーリーもイマイチ把握できていません(;^ω^)、おそらく、もっといろんな意味があるのでしょう。メタバースの謎を解くために、もう一度観てみたいと思います。新しい発見があるかな?


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