映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

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いのちの停車場(2021)

死という〈永遠の別れ〉の前に立ち止まる場所
悲しくも温かい在宅医療の現場を描く

“駅”は電車や人の往来をイメージさせますが、“停車場”からは電車や人がひっそりと佇む光景が浮かんできます。

本作でいう“停車場”とは、命が〈ふっと立ち止まる〉場所。そして、動き出した後に向かう先は“死”――。

高齢者医療専門病院の現役医師・南杏子の同名小説を、吉永小百合主演で映画化。古都・金沢を舞台に、小さな在宅医療専門医院のスタッフたちと終末期の患者たちとの“最後”の交流を静かに見つめています。

【ストーリー】
東京の救急救命センターで働いていた医師・白石咲和子(吉永小百合)は、命を優先したために病院の規定に反した医大卒業生・野呂(松坂桃李)の起こした事件の責任をとって辞職します。
その後、故郷の金沢へ帰った咲和子は、在宅医療専門の「まほろば診療所」で働き始めます。陽気な人柄で人々に慕われる院長・仙川(西田敏行)の方針は〈患者の生き方を尊重する〉医療で、積極的な治療をしない場合も。慌ただしい現場で、多くの命を救ってきた咲和子は患者に〈寄り添う〉だけの医療に戸惑います。

末期の肺がんを患いながら、最後まで自分らしく生きることを貫く芸者・理恵子(小池栄子)や、脊髄損傷で四肢麻痺となりながらも、新しい医療を求め、希望をもって生きるIT企業社長・江ノ原(伊勢谷友介)、老々介護で疲弊し、寝たきりの妻を愛しながらも治療に非協力的な並木(泉谷しげる)など、重い病気を抱えた人々の思いと生き様が、心優しい医師・咲和子というフィルターを通して描かれます。

死が溢れたストーリーは悲しく、切ないです。なかでも、がんが再発し、昔懐かしい咲和子へ会いにやってきた女流棋士・朋子(石田ゆり子)や、小児がんの8歳の少女・みゆ(若林萌)と両親のエピソードは辛いです。

不安と絶望を抱えながらも明るく振舞う朋子や、病気のために不自由な生活を受け入れながらも、せめて海へ行きたいと望むみゆ、そして、みゆに迫る死を受け入れられず、必死に新たな治療法を求める母親(南野陽子)など、3人の女優たちが三者三様の情感のこもった演技をみせており、身につまされ、〈もし自分や家族に起きたことなら〉と、考えずにはいられません。

辛い話もありますが、穏やかな仙川、気風のいい看護師・麻世(広瀬すず)、咲和子を慕い東京の病院を辞めてきた、ちょっぴり天然気質で麻世と良いコンビとなる野呂など、「まほろば」のスタッフの温かさに救われます。

そして、吉永小百合安定した演技はやはり見応えがあります。終末医療の現場に戸惑いながらも受け入れようとする咲和子の心の成長物語が、丁寧に紡がれます。吉永の特徴的な低音の語り口と落ち着いた佇まいには本当に惹きつけられ、その存在の大きさを改めて感じます。

そんな咲和子に試練が訪れます。病気に侵された父親(田中泯)が終末医療を望んだのです—―。

在宅医療の悲しくも温かい現場。誰もがたどり着く〈いのちの停車場〉を心地よいものにしていけたら……。そのためにはやはり家族や仲間、周囲の支えが必要なのでしょう。死という〈永遠の別れ〉を前に、人のつながりの大切さを実感しました。


いのちの停車場 [ 吉永小百合 ]

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