カーズ
ピクサーアニメの人気シリーズ第1弾
愛嬌たっぷりの車たちの素朴な生き方が胸に染みる
2006年に公開されたピクサーアニメ第7作『カーズ』では、車たちの世界が描かれました。
公開時は前作『Mr.インクレディブル』でCGアニメにおける最難関、人間の造形に挑んだことで、ピクサーをさらに発展させる次の挑戦課題が注目されるなか、〈なぜ車?〉との思いがありました。
でも、そんな疑念はここに登場する車たちのさまざまな〈走り〉=〈生き方〉を見つめるうちに消えました。
カーマニアやカーレースファンという新規観客層にも、従来のピクサーアニメのファンや、笑いと感動を求める人にも存分に楽しめる作品です。
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【ストーリー】
真っ赤な車、ライトニング・マックィーンは新人ながらもレーシング・スポーツの最高峰ピストン・カップでチャンピオン候補に名乗りを上げる若き天才レーサー。勝気な性格と天才ゆえの奢りから人気実力ともにトップになることしか眼中にありません。助言をくれる仲間の必要性など微塵も感じず、自分の力だけを頼りに戦ってきましたが、ひょんなことから寂れた田舎町ラジエーター・スプリングスに迷い込み、仲間の大切さを知ります。
一方、ルート66沿いにあるラジエーター・スプリングスはかつて旅の中継点として栄えていましたが、高速道路の開通でその役割を終え、今では地図にも載っていません。町に住む車たちは見捨てられた町で淡々と生活するだけでしたが、マックィーンの登場で変わっていきます。
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独りよがりの風来坊が田舎町に住む素朴な人々との触れ合いでその高慢な鼻をへし折られて改心します。しかし、風来坊の率直な言動は希望を失っていた人々の心に潤いを与え、やがて両者はかけがえのない存在になる――、というストーリーは人間世界のドラマで何度も語られました。
先を急ぐだけの人生を見直すきっかけ、進歩への警鐘、ストーリーテリングの巧みなピクサーらしい感動的なクライマックスが用意されているものの、本作で心を捉えるのは完璧に車に息を吹き込んだ映像技術でしょう。
フロントガラスが目で、バンパー部分を口にした車たち。子供の落書きみたいな単純明快な顔立ちですが、さまざまな苦労を背負った彼らは、実に多彩な表情を見せ、どっぷり感情移入させられます。
とくに絆を深めた町の車たちとマックィーンとの別れのシーン。人気レーサーとしての活躍を願ってマックィーンを送り出す車たちの寂しげな表情に胸が締めつけられました。
『トイ・ストーリー』の生みの親、ジョン・ラセターにとって6年ぶりの監督作(公開時)。映画最大の見どころとなるエキサイティングなカーレースシーンは、車とオモチャが大好きというラセター監督にとっては最高に遊べる舞台。楽しくてたまらないというようなラセターの弾む心が感じられます。
ただし、製作前に「車好きのためだけの映画にしてはいけない」という夫人の助言があったそう。これまでのピクサー作品の創作の原点はみずからの趣味や経験からなのですが、それを独りよがりにならずに描けるところが、ピクサー作品が多くの人に愛される理由なのだと感じました。
生意気なマックィーンにレースや生き方を指南する町のリーダーで伝説のレースカー、ドック・ハドソンの声をいぶし銀のポール・ニューマンが演じているのが何とも粋です!