そして父になる(2013)
実の子どもか、育ての子どもか
親と子が互いに抱くピュアな愛に涙が止まらない
本作を映画館で観たとき、近くにいた40代の女性が早々に泣き始め、物語が半分程過ぎた頃、隣にいた30代の男性が声を殺して泣いていました。その後、2人は涙を流し続けました。そして、終盤には映画館のあちこちですすり泣く声が響きました。
もしも6年間育てた息子が他人の子供だったとしたら……。子どもを持つ人は我が事のように心を痛め、子どもがいない人は自分を育ててくれた親の愛を思い返すでしょう。
「赤ちゃん取り違え」というショッキングな事件を題材にした本作は “親子の絆”について考えさせます。
誰もが自分の子どもや親を思い、切なくなる物語は、日本のみならず世界からの共感を得、2013年度のカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞しました。
******
【ストーリー】
一流大学を卒業し、大手建設会社に勤める野々宮良多(福山雅治)は専業主婦のみどり(尾野真千子)と一人息子の慶多(二宮慶多)と都心の高級マンションで暮らしていました。
一方、群馬で電気店を営む斎木(リリー・フランキー)と妻のゆかり(真木よう子)は長男・琉晴(黄升炫)を筆頭に3人の子供たちや年老いた父親と倹しくも賑やかに暮らしています。
ある日、6歳の慶多と琉晴が産まれた病院で取り違えられていた事が判明します。2組の両親は困惑しながらも、子どもたちが“本当の家族”と暮らすべきかどうか、摸索するために交流を始める。
******
実の子か育ての子か、という苦渋の選択を迫られる親の姿が、野々宮夫妻を中心に描かれます。
自分の力で人生を勝ち取ってきたエリートの良多は、この重い命題にも心ない態度を見せますが、そこには彼自身が未熟な父に翻弄された苦い過去が関係していました。
嫌いな父に反発しつつも、「血は争えない」ことを実感する野々宮の一言で、2組の親はついに“交換”を決断します。
脚本も手掛けた是枝裕和監督は、事件の発覚から交換後の生活まで、4人の親と2人の子どもの6者6様の反応をリアリティたっぷりに描写しました。
4人の俳優陣の迫真の演技もさることながら、2人の子役の自然な演技が涙を誘います。冒頭の30代の男性は、不安な表情の慶多が出るたびに顔を覆って泣いていました。
一番、父親然としている野々宮が、実は一番子供のことを分かっていませんでした。野々宮のような父親は現実にたくさんいるのかもしれません。
2組の家族が過酷な試練の末に気付いたのは、子どもは“かけがえのない存在だ”ということ。そんな当たり前のことにしみじみと感じ入ります。
家族のことをじっくりと考える大切な機会を与えてくれる秀作です。