映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

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キッド(1921)

チャップリンが生み出したシュールな放浪者と
純真無垢な子どもが織りなす名作喜劇

山高帽にちょび髭、燕尾服もどきの上着にだぶだぶズボン。ステッキを片手にひょこひょこ歩く“小さな放浪者”は、稀代の喜劇王チャップリンが生み出した名物キャラクターです。

紳士的な身なりと思いきや、ズボンのお尻には大きな継ぎあてがあり、裾はボロボロ。靴も穴ぼこだらけです。そんな貧しさをもろともせず、一人で飄々と生き抜く“小さな放浪者”が、本作では捨てられた赤ちゃんを育てることになります。

今で言う“コミュ障”の気もありそうな、トラブルメーカー、“小さな放浪者”がシュールな笑いの果てに起こす感動のドラマは必見の価値ありです。

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【ストーリー】
恋人の芸術家に捨てられた若い女性(エドナ・パ―ヴィアンズ)は悩んだあげく、出産したばかりの男の子を立派な邸宅の前に止めてあった車の中に置き去りにします。しかし、「良い家庭で育ってくれれば……」という願いもむなしく、車は2人組の泥棒に盗まれてしまい、貧民街へたどり着きます。そして、泥棒たちは車の中にいた赤ちゃんを道端へ置き去りにしてしまいます。
そこへ、朝の散歩中の“小さな放浪者”(チャールズ・チャップリン)がやってきます。赤ちゃんを見つけた放浪者は、そばにいた乳母車の女性の“落とし物”だと思ったのか、女性に返そうとしますが、怒られてしまいます。困った放浪者は赤ちゃんを道端へ戻そうとしますが、警察官に見られてしまい、赤ちゃんを抱えたまま、うろうろ。通りがかりの老人に渡そうとしますが、うまくいきません。そんなこんなで、放浪者が赤ちゃんを引き取ることに。
それから5年、放浪者と5歳になった男の子、キッドはすっかり仲のいい親子になっていました。

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放浪者が赤ん坊を抱いて、右往左往するシーンから楽しいです。警官や乳母車の女性らの強気の姿勢に、小心者の放浪者は本当のことが言えず、オロオロするばかり。仕方なく赤ちゃんを家へ連れ帰りますが、マイペースに生きてきた放浪者が子どもを育てられるのでしょうか?

ところが、5年後、放浪者はニコニコしながら子どもを見つめる“優しいお父さん”になっていました。この時のチャップリンの本当に子どもが好きそうな笑顔がたまりません。

自分の方がキッドよりパンケーキを多く食べたり、キッドにこずるい商売の片棒をかつがせたり、町の乱暴者にすごまれてビビッたりと、放浪者の“せこい”行動で笑わせるドタバタ調の展開が続きますが、中盤からは親子の絆が試されます。

熱を出したキッドを往診した“ダメ医者”は放浪者から本当の父親ではないことを告白され、キッドを孤児院に入れようとします。それを必死に阻止しようとする放浪者。さらに、女優として成功したキッドの母親が現れて……

本作で、チャップリンは主演に加え、監督、脚本、製作、音楽の5役を務めています。とびきり明るいドタバタコメディに、“親子の別れと絆”という、ちょっぴり切ないヒューマンタッチを加え、心温まる感動作に仕上げました。

チャップリンが生み出した“小さな放浪者”は本作で長編映画デビューを飾り、以降、『黄金狂時代』(’25年)や『街の灯』(’31年)などの名作のリードキャラクターとなり、多くの人々に愛されました。

そして、特筆すべきは、本作が今からちょうど、90年前に作られたサイレント映画であること。まずは古い作品がいつまでも観られることに感謝したいです。昔のことを知るのは本当に貴重です。便利な道具や満足なお金が無い中でも、前向きに生きていた人々の姿には教えられることが多いでしょう。

映画の原点であるサイレント映画は、今の暮らしを見つめなおすきっかけを与えてくれるかもしれません。

チャップリンはトーキー映画が本格化しても、芸術性の高いサイレント映画にこだわり続けたそうです。そんなチャップリンの熱い思いが込められた映画でもあるのです。


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