映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

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ポセイドン(2006)

オリジナル版の魂も海の底へ消えたのか?
名作『ポセイドン・アドベンチャー』のリメイク版


リメイク作品がオリジナル作品を超えることはなかなか難しいです。それでも、製作者たちはリメイク作品に果敢に挑戦します。

オリジナルとなる『ポセイドン・アドベンチャー』は1972年に製作されたパニックアクションの元祖と呼ばれ、未見ならぜひ観ることを薦めたい名作です。

本作の結果は一体どうだったのでしょうか?

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【ストーリー】
晦日の夜、豪華客船「ポセイドン号」には、4000人を超える多くの客が乗り、盛大なパーティが行われていました。
しかし、新年を迎えた直後、ポセイドン号は突如現れた異常波浪による巨大な波の直撃を受け転覆してしまいます。まっ逆さまに転覆したポセイドン号から数名の乗客が脱出しようと試みますが、海上にあるのは船底という状態で、出口などわかるはずもなく、なんとか見つけた行く手にはいくつもの危機が待ち受けます。

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オリジナル版では、脱出の過程で、人々が懸命な努力もむなしく命を落とす数々のシーンが見どころとなりますが、そこにはご都合主義の死はひとつもありません。以降、ハリウッドの十八番となるパニックアクション映画にいかにその要が欠落しているか。このリメイク版ではオリジナルの肝である極限下の人間ドラマを期待していましたが……。

脱出を導く正義漢の元ニューヨーク市長、孤独を抱えた中年男性、幼い少年、自分本位のギャンブラー、道案内役のウェイターなど、オリジナル版を彷彿させるキャラクターもいますが、登場人物はまったく新しい設定です。

ストーリー展開も然り。大筋は同じですが、枝葉のエピソードはまったく違います。大晦日の夜の華やかなパーティが一転、シャンデリアのきらめくボールルームがまっ逆さまになり、人々が落下していく惨劇、その後繰り広げられる脱出賛成派と反対派の争い、脱出を拒み留まった者たちの悲劇、そして水や炎が容赦なく襲う脱出遂行者たちの受難など、オリジナルを知っていれば、思い当たるシーンは数々ありますが、描き方があまりに味気ないのです。

CG技術により危機的状況の迫力は満点で、オリジナル版を知らなければ、パニックアクション映画として十分に楽しめますが、オリジナルファンには物足りないでしょう。

オリジナルには死ぬ一歩手前の極限状態に置かれた人々のリアルな反応が丁寧に描かれ、ひとつの判断違いも許されない彼らの緊張や恐怖がひしひしと伝わってきました。

この映画の脱出劇で描かれるべきは、ヒロイックな行動への賞賛ではなく、生き延びるためとはいえ、不可能に挑戦することに伴う代償や犠牲です。オリジナルで描かれた犠牲は大きな衝撃でしたが、リメイク版では痛くも痒くもないように思えます。

映像は迫力がありますが、かの名作が無益で凄惨な死の洪水を捉え続ける、パニックアクションの典型に留まったのはとても残念です。


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