映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

人生に迷えるアラフィフ女性が、映画を通して人生について考える。ネタバレなしの映画レビューサイト。

エネミー・ライン(2001)

和平の見えない世界情勢を風刺した
ユニークなハリウッド的戦争映画

数多あるハリウッド製戦争映画に眉をひそめたくなるのは、悲劇的な史実をエンターテイメント化して見せるからです。それならばと、新しいタイプの戦争を作り出してしまったのが本作品。

舞台は旧ユーゴスラビア紛争が解決し、和平協定が結ばれていると想定した未来のボスニア。平和維持活動中の米兵士が図らずもエネミーライン(敵の前線)に入り込んだことから起こる戦争を、趣向を凝らしたアクションで描くとともに、複雑な政治情勢や、戦争介入を繰り返す米軍内部へ深く切り込んでいます。

社会派アクションとでも形容しようか。いつかどこかで起こり得る戦争へ警鐘を鳴らす、ユニークな視点で捉えられた戦争映画です。

******

【ストーリー】
バルカン半島沖で平和維持活動を行なう米海軍の原子力空母の戦闘パイロット、バーネット(オーウェン・ウィルソン)は偵察飛行中、不審レーダーを追跡して偵察区域外のボスニア上空へ向かいますが、突然ミサイルで撃墜され、敵陣へ墜落してしまいます。
犯人のセルビア人民軍に追われるバーネットは米軍に救助を要請しますが、協定を破るエネミーライン(敵の前線)に入ることで和平が崩れることを懸念したNATO軍の妨害にあい、自力で安全地帯まで行くよう諭されます。

******

バーネットのエネミーラインからの脱出を困難にしたのは、敵のセルビア兵士の存在だけでなく、和平維持に務める米軍サイドの思惑もありました。

救うべきは1人の自国の兵士の命か、再び戦争が始まればその犠牲になると思われる大勢の人々の命か。いかにも強国アメリカらしい壮大な発想を、繊細な人間ドラマと細部まで緻密に計算されたアクションで引き締めています。

孤軍奮闘するのはバーネットだけではありません。空母内で彼の救助をめぐり、NATO軍や指揮官としての己の立場と葛藤するレイガート司令官(ジーン・ハックマン)も然りです。

オフビートなコメディでならしたオーウェン・ウィルソンが、孤独な戦いを明敏な頭脳と強靱な精神力で制するバーネット役で新境地を開拓する一方で、レイガート役のジーン・ハックマン重厚な存在感を示しています。

冒頭で、バーネットの退役をめぐり、軍人としての価値観の違いを示した2人が、無線を通した会話のみで信頼関係を築く姿もストーリーの重要な核になります。

地雷原を疾走したり、虐殺された人々で埋まった泥沼を這いつくばったり、まるで障害物レースのような逃走劇の果てに、悲惨な民族紛争の傷痕平和維持をめぐる多国籍軍の醜い内紛などが見えてきます。

CMクリエーターとして活躍していたジョン・ムーアの監督デビュー作。手持ちキャメラで緊迫感を伝え、スローモーションで死に行く者の驚愕の表情を捉え、微速度撮影によりアクションの衝撃度を体感させるなど、単に派手というだけではない、ドラマチックな演出が冴え渡ります。

ハリウッドが得意とする娯楽アクションを逆手にとり、21世紀になっても一向に和平への糸口がつかめない世界情勢を風刺したユニークな戦争映画です。

********************************************************************

本作の公開から20年以上経った今、ロシアのウクライナ侵攻により、戦争の兆しが見えています。文明が飛躍的に進歩した21世紀に、これほど戦争が身近になるなんて! 平和の祭典オリンピックの意義は何だったのでしょうか? 今、この瞬間も戦禍の中で怯えている人々がいるかと思うと、本当にいたたまれません。他国が一丸となり、早急に平和的に解決してくれることを祈るばかりです。


エネミー・ライン [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]


エネミー・ライン (字幕版)