潜水艦という密室を舞台にしたサスペンスアクション映画
ジョナサン・モストウ監督が仕掛けた独創的な展開にしびれる
鋼鉄の艦内、その巨大な姿を覆い隠すダークグリーンの海中、さらに常に攻撃態勢を整え、不気味にうごめく敵の潜水艦。二重三重の包囲網が内部にいる人間の精神を徐々に抑圧していきます……。
潜水艦映画の代名詞にもなった『Uボート』(’81年)を彷彿させるシチュエーションが展開する『U-571』。
上昇すれば敵の潜水艦の機雷の餌食となり、潜航すれば全員圧死という潜水艦の弱点が手に汗握るサスペンスを生み出しています。
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【ストーリー】
第2次大戦下、ドイツ軍が圧倒的なパワーでひとり勝ちを収める北大西洋上の戦いにおいて、アメリカ海軍はあるミッションを企てます。
それは、故障で味方の救助艦を待つため停泊しているドイツ軍の最新鋭潜水艦U-571に、味方を装って奇襲をかけ、独軍暗号機〈エニグマ〉を奪うというものでした。
ミッションには、実力がありながらも、ダルグレン大佐(ビル・パクストン)に認められずにジレンマを抱くタイラー大尉(マシュー・マコノヒー)を始め、エメット大佐(ジョン・ボン・ジョビ)、クロフ軍曹(ハーベイ・カイテル)らベテラン海兵士と無線技師、機関助手ら戦闘経験のない青年兵などが集められました。
綿密な計画で遂行された奇襲作戦は無事成功したかに見えました。しかし、アメリカ軍部隊の乗ってきた潜水艦S-33がドイツ軍の救助潜水艦により破壊されてしまい、部隊はU-571に逃げ込むことに。
そうして、操作も分からない、壊れかけたドイツ軍潜水艦U-571からの壮絶な脱出作戦が始まります。
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失敗作が少ないと言われる潜水艦映画には、海中と艦内というごく限られた空間しかないハンディを独創性で補った秀作が多いです。
U-571は偽装潜水艦であるために大海原で敵からも味方からも存在を隠さなければならないという状況はちょっぴり滑稽な気もしますが、独創性はピカ一でしょう。
第2次大戦中に実際に行なわれたエニグマ強奪計画という史実をモチーフにしたリアリティや、勝利に向かって邁進することと自らの信念との間にジレンマを感じていた若きタイラー大尉の人間ドラマは滑稽な状況を補ってあまりあります。
長編映画監督デビュー作『ブレーキ・ダウン』(’97年)で“スピルバーグの再来”と評されたジョナサン・モストウ監督が2作目にして、製作費120億円の大作を任されましたが、ずば抜けた独創性を切れ味鋭い演出で見せます。モストウ監督は企画からかかわり、共同脚本も務めています。
舞台になったU-571は実物大の潜水艦レプリカがマルタ島に建造され、モストウ監督直々の要望で『Uボート』の艦内セットを造形したゴエス・ウェイドナーが本作でもセットデザインを手掛けています。