蟹工船(2009)
『蟹工船』のような世界はもう無くなってほしい
“自分らしい働き方”を勝ち獲る労働者たちの闘争
小林多喜二が昭和初期に発表したプロレタリア文学の最高峰『蟹工船』が2009年、映画化されました。
長引く不況により、労働環境が激変していた2000年代後半、原作小説は若者を中心に多くの人々の支持と共感を集め、2008年末には流行語大賞候補になるほどの一大ブームとなりました。
そんな若者たちに向け、『アンラッキー・モンキー』の奇才SABU監督が映画化した本作は、大胆な解釈で現代的にアレンジされたSABU流『蟹工船』となっています。
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【ストーリー】
舞台は洋上で操行中の蟹工船・博光丸。船内の缶詰加工工場では若い労働者たちが、軍国主義の浅川監督(西島秀俊)の指揮の下、過酷な労働を強いられていました。一日中、同じ作業を繰り返し、休むこともままならず、気が緩めばすぐさま暴行を加えられる劣悪な労働環境で、絶望した労働者たちは集団自殺を決行するまで追い詰められますが、あえなく失敗してしまいます。
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“糞ダメ”と形容される陰惨な船内、貧困家庭に育った労働者たちの悲惨な境遇、凄惨な暴行シーンなど、気分を落ち込ませる描写ばかりが続きますが、SABU監督は独自のポップな感覚や軽妙なユーモアを交えて、原作が持つ退廃的なムードを払拭しています。黒光りする作業着を着た労働者たちはオシャレにさえ見えます。
無知や若さのために、理不尽な支配に屈していた労働者たちが、自由と希望の存在を知り、一致団結して立ち上がる筋立ては原作どおり。ただ、労働者たちの行動は労使交渉の原型に過ぎず、すでに現実で実践されています。それでも動かない組織にどう対抗したらいいのか? そこが知りたいところだったのですが……。
厳しい社会ですでに働く人々にとっては、若い労働者たちの姿はまだまだ青臭く、物足りないでしょう。
しかし、小難しくて、とっときにくいという理由で原作を敬遠していた人々には、理不尽な社会への闘争と希望を伝えた偉大な小説への絶好の導入部になるに違いありません。
2020年以降、新型コロナウイルスの脅威は働き方改革を急速に促しました。再び訪れた “自分らしい働き方”について考えるべき大事な時期、原作は触れておきたい作品なのだから。
とにかく『蟹工船』のような世界が無くなることを切に願います。。。
西島秀俊が狂気の鬼監督を熱演する一方、労働者たちには松田龍平、高良健吾、江本時生、滝藤賢一などが扮し、男たちの熱いドラマをひたむきに演じています。