映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

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人数の町(2020)

何も考えず、「人数」として生きれば楽?
恐ろしくも魅惑的な「町」を描くリアル・ファンタジー

ディストピア・ミステリーと呼ばれる本作品。ディストピアとはユートピア(理想郷)とは正反対の世界、つまり暗黒世界の意味です。

「人数の町」とは、人が「人間」としてではなく、「人数」として存在するだけの町。そこは社会のしがらみも、人間同士の軋轢もない“気楽”な世界ですが、自我や理性を捨て、「人数」としての役目を全うすることが求められます。

そんな“不条理”、いや、考えようによっては“魅力的”な町へやってきた若者・蒼山を通して、現代人が抱える闇を描き出しています。

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【ストーリー】
借金取りから暴行を受けていた蒼山(中村倫也)は、黄色いツナギを来た男(山中聡)に助けられます。男は蒼山のことを“チューター”と呼び、「“居場所”を用意してやる」と話しました。
男に誘われるまま、不気味なバスに乗った蒼山は、とある「町」にたどり着きます。そこでは簡単な労働と引き換えに衣食住が保証され、深く考えなければ、気の合う仲間たちと楽しく、穏やかに暮らすことができました。
簡単な労働とは、ネットへの書き込みや、別人を装っての選挙の投票、デモへの参加など、単なる「頭数」になることでした。それが問題行為や犯罪であっても気にしません。「町」へ帰ればバレないのだから……。

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不気味な設定だけに、「町」の謎や住民たちの秘密が徐々に明らかになる過程がスリリングで引き付けられます。

中村倫也が得意のひょうひょうとした雰囲気を醸しだし、不思議な物語世界へ自然に誘います。

「町」の暮らしを堪能する謎めいた美女(立花恵理)や、失踪した妹を探すために仕方なくやってきた紅子(石橋静河)などと接するうちに、社会のレールから脱落した蒼山が選んだ道とは?

厳しい社会で「人間」として生きるか、愉楽の世界で「人数」として生きるか? 本当にどこかにあるかもしれない「町」の生活を疑似体験し、自分の人生について考えてみるのもいいでしょう。

第1回木下グループ新人監督賞・準グランプリ受賞作。突飛な舞台設定を巧妙に練り上げたのは、監督・脚本の荒木信二。これまで多くのCMやMVを手掛けてきましたが、本作で長編映画監督デビューを果たしました。


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