映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

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ドライブ・マイ・カー(2021)

祝! 米アカデミー賞作品賞ノミネート
村上春樹の小説世界を完全再現
喪失感からの再生を丁寧に描く


村上春樹の小説の魅力は、ままならない不条理な世の中で、戸惑い、苦悩しながらも、自分らしい生き方を見い出す人々の姿を描き、さりげなく人生に希望を抱かせてくれるところではないでしょうか。

村上春樹の同名短編小説を映画化した本作も、深い悲しみを秘めながら生きる主人公が、さまざまな境遇の人々との出会いを通して再生する姿をゆったりとしたテンポで描いていきます。

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【ストーリー】
物語冒頭、舞台俳優・劇作家として活躍する家福(西島秀俊)と、脚本家の妻・音(霧島れいか)との満ち足りた生活が描かれます。
激しい営みを交わした家福と音はその後、音の語る謎めいた寝物語を聞きながら、幸せそうに余韻に浸ります。そして、愛車のサーブで仕事場へ向かう家福は車中で音の吹き込んだセリフに合わせて、芝居のけいこをするのが習慣です。
そんな音を大切に思う家福がある日、音のショッキングな秘密を知ってしまいます。しかし、その真意を聞き出せず、悶々とするなかで、音が急逝してしまいます。
2年後、家福はサーブで広島へ向かっていました。彼は広島の演劇祭で上演する『ワーニャ伯父さん』の演出を依頼され、数日間、滞在することになっていたのです
けいこ場から離れたホテルに滞在する家福には専属ドライバーが付くことになっていましたが、家福はこれを拒否します。古いサーブは扱いにくい上、車中ではまだ音の音声テープを聞くのが習慣だったからです。
しかし、主催者側の提案でテストドライグの末、運転技術に長けた若い女性、みさき(三浦透子)に運転を任せることにします。

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リアルとファンタジーが交錯した不思議な村上ワールドの映像化に挑んだのは、『寝ても覚めても』の若き俊英・濱口竜介監督。喪失感にさいなまれる家福の心を癒す道程を丁寧に描き、上映時間2時間59分の長尺となりましたが、どこへ物語が飛んでいくか分からない浮遊感はまさに小説の世界そのもの。小説ではなく、映像のページをめくっているような不思議な感覚に、素直に身をゆだねるのも悪くありません。

元々、大部分を韓国・釜山で撮影することになっていたそうですが、コロナ禍のために国内での撮影に変更。多面性を持つ広島の街並みや、クライマックスの舞台となる北海道の大雪原など、キャラクターの心の機微を表現したかのような雄弁なロケーションも見どころとなっています。

包容力のある西島秀俊、陰のある三浦透子、妖艶な霧島れいか、そして、物語のキーパーソンとなる自由奔放な若手俳優・高槻を演じた岡田将生など、熱烈なファンの多い村上ワールドのキャラクターたちを全身全霊で演じたかような俳優たちの静かな熱演も光ります。

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日本映画では史上初めて、アカデミー賞の作品賞にノミネートされるという快挙を果たしました。“村上春樹原作の映画化”と言えば、相当期待値は上がりますが、その期待に見事にこたえ、これ以上ないくらいの結果を出しました。

アカデミー賞の受賞式は3月27日(日本時間では28日)。映画好きとしては、ワクワクしながら待ちたいです!


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