映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

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男はつらいよ 50 お帰り寅さん

令和の時代に帰ってきた“寅さん”
世代を超えて観てほしい名作喜劇

テキ屋をしながら日本中を旅する、“フーテンの寅”こと、車寅次郎の恋と家族との触れ合いを笑いたっぷりに描いた人情喜劇『男はつらいよ』。1969(昭和44)年~1997(平成9)年まで、実に49作製作された国民的人気映画シリーズが50周年を迎えた2019年に、なんと50作目を発表しました。

22年ぶりの新作は、寅次郎の甥・満男(吉岡秀隆)を中心に、新撮された現在の登場人物たちの日常が、4Kデジタルで修復された寅さんシリーズの映像とともに紡がれます。

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【ストーリー】
満男が亡き妻の7回忌法要のために、中学3年生の娘・ユリ(桜田ひより)と柴又帝釈天の実家を訪れるところから物語は始まります。

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草団子屋「車家」は新しいカフェに生まれ変わりましたが、母・さくら(倍賞千恵子)と父・博(前田吟)はその裏手にある昔のままの住居に暮らしています。

破天荒で自由人の寅次郎に振り回されながらも温かく見守ってきた2人は、寅さんシリーズの重要な要。本作では、寅次郎のせいでこじれそうになった、2人の結婚に至るまでの、おかしくもドラマチックなエピソードが挿入されます。

大ベテランとなった2人の若かりし日の姿が新鮮。ほかにも、寅次郎と丁々発止の掛け合いを見せたタコ社長、車屋のおいちゃん、おばちゃんなど、今は亡き名優たちの懐かしい姿が鮮やかによみがえります。

現在の満男は、サラリーマンを辞めて念願の小説家となったものの、次回作の執筆に乗り切れず、また、周囲にはそれとなく再婚を促されるなど、もやもやした日々を送っていました。そんな満男の前に、結婚の約束までした初恋の人・イズミ(後藤久美子)が現れます。現在、海外で夫と2人の子ども暮らすイズミは仕事のために来日していたのです。

2人が久々の再会を喜ぶ一方で、イズミは自分と母を捨てた病気の父・一男(橋爪功)に会うか悩んでいました。満男はそんなイズミに付き添い、彼女の父が暮らすケアセンターへ向かいます。

1989年『男はつらいよ ぼくの伯父さん』に登場して以来、シリーズ終盤の5作に出演していた後藤久美子が23年ぶりに女優復帰を果たしたことも大きな話題。父は愛人に走り、スナック勤めの母・礼子(夏木マリ)は男を連れ込む始末。そんな身勝手な両親に悩むイズミの問題に、現代的な側面を加えた中盤は見応えたっぷりです。

最近は“毒親”と言われるようですが、どうしようもない親との葛藤と和解というテーマに、わが身を振り返り、考えさせられる人も多いのではないでしょうか?

昔と変わらぬ美貌の後藤久美子は、たどたどしい演技もそのままですが、喜怒哀楽を全身で表した演技には気迫がこもっています。出演シーンも多く、本作への真摯な思いが伝わってきます。

イズミとのほろ苦い再会を経験した満男は、時折思い出す寅次郎の元気な姿と深い言葉にも励まされ、新たな一歩を踏み出します。

高度成長期の昭和時代、風のように軽々と生きる寅次郎は、人々の憧れや希望だったのでしょう。それは令和になっても変わりません。『男はつらいよ』をリアルタイムで観ていなくても、寅次郎の一挙一動に大笑いし、すぐに虜になるはずです。

渥美清という偉大な喜劇役者を始め、マドンナ役を演じた女優たちなど、日本映画を支えた名優たちの姿が次々によみがえる演出に胸が熱くなります。

名優たちが足跡を刻んだ『男はつらいよ』は、本当に稀有で貴重な日本映画といえるでしょう。おそらく “最後”の寅さんシリーズになるのではないでしょうか?
ぜひ世代を超えて、多くの人々に楽しんでほしいです。

シリーズ全盛の頃は、夏休みとお正月映画の定番作品として人気を誇りました。コロナ禍で自粛生活が続きそうな今年のお正月、懐かしい昭和に浸りながら、思い切り笑ってください!


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