映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

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望み(2020)

それぞれの「望み」に戸惑い、
翻弄される家族の姿が涙を誘う

原作は、読書家のためのブックレビューサイト「ブクログ」のアンケートで、読者満足度100%を獲得した、ミステリー作家・雫井脩介のベストセラー小説です。

絶望の中に芽生えた一縷の「望み」。しかし、それは決して叶ってほしくはない「望み」でした……。

ある日、突然、子どもが犯罪に巻き込まれた両親が抱いた、究極の「望み」が切なく、哀しい。

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【ストーリー】
建築家で頼りがいのある父・一登(堤真一)、仕事と家庭を両立させる優しい母・貴代美(石田ゆり子)、難関高校の合格を目指す快活な娘・雅(清原果那)。埼玉県の瀟洒な家で何不自由なく、幸せに暮らす石川家だが、一つ心配事がありました。それは高校生の息子・規士(岡田健史)が練習中の怪我でサッカー部を辞めて以来、夜遊びをするようになったこと。
サッカー選手の夢を失い、反抗的になった息子に、戸惑いながらも毅然と接する一登と、心配する貴代美。思春期の子供を持つ家庭なら直面するような家族の問題は、ある夜、近所の高校生が殺害されたことで深刻な様相を帯びます。
その夜以来、規士が帰ってこないのです。

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加害者らしき2人の男は逃走し、しかも、被害者の高校生は規士と友達であることが判明します。すると、家の前にマスコミが押しかけ、雑誌記者の内藤(松田翔太)が取材にやってきます。そして、SNSには、規士の犯行説や、「被害者はもう1人いる」などの書き込みが溢れかえります

行方不明の規士の身を案じる石川家の人々の心を、世間の悪意や憎悪がむしばんでいきます。

息子の無実を信じる一登と、加害者家族の末路を恐れる雅は、規士が「被害者」であることを望み、規士に生きていてほしい貴代美は規士が「加害者」であることを望みます。

どちらも決して叶ってほしくない「望み」ですが、望まざるを得ません。そんな悲惨な状況は、信じられない事件や、SNSでの誹謗中傷が日常的になってしまった不穏な現代、誰の身に起きても不思議ではない、と思わせます。

原作に込められた魂の叫びを、俳優陣が迫真の演技で訴えます。重厚な演技で存在感を発揮する堤真一、ひたむきな母心を多彩な表情で表現した石田ゆり子、兄への揺れる思いを涙ながらに語る清原果那、そして、期待の若手俳優・岡田健史の抑えた演技も印象的です。

人間ドラマを丁寧に描く堤幸彦監督が真骨頂を発揮。今だからこそ、考えたいテーマが詰まった力作です。


望み [ 堤真一 ]