映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

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マジェスティック(2001)

明日を見つめて生きる活力を与えてくれる感動作
ショーシャンクの空に』のダラボン監督が描いた3つ目の希望の物語

「未来に望みをかけること」、それが希望を持つということでしょう。でも、実際のところ、厳しい現実の中で希望を持つという行為は簡単ではありません。とくに個人の力では抗いがたい社会体制が作り出した理不尽な掟により、手中に収めた人生の輝きを突然奪われた人々にとっては――。

本作はスティーブン・キングのベストセラー小説『ショーシャンクの空に』『グリーンマイル』を映画化し、“希望”という概念を見事に描き出したフランク・ダラボン監督が三たび、希望をテーマにした感動作です。

ダラボン監督にとって初のオリジナル脚本である本作は戦争により希望を失った人々が主人公。社会体制に抗うことなく屈していた人々がたったひとつの出会いに希望を見出し、再生に向かう姿は、前2作にも増して、明日を見つめて生きる活力を与えてくれることでしょう。

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【ストーリー】
第二次大戦後間もない1951年、共産主義者の嫌疑をかけられ赤狩りの対象となったハリウッドの新進脚本家ピーター(ジム・キャリー)はキャリアを絶たれる危機にやけになり、自動車事故を起こしてしまいます。
吊り橋から車もろとも川に転落したピーターは田舎町ローソンの海岸に打ち上げられ、散歩中の老人に助けられたものの記憶を失っていました。自分が誰だか思い出せずに不安になるピーターをよそに、町の人々は皆彼のことを“ルーク”と呼び、「町の英雄が帰ってきた」と喜びあいます。
ルークとは町の若者で、第二次世界大戦でみずからの命を顧みずに8名の戦士を助けて名誉勲章を受けたものの、その後行方不明になっていました。ピーターはルークの父ハリー(マーティン・ランドー)までもが息子と信じ込むほどそっくりだったのです。
戦争で町の若者62人を失って以来、悲しみに沈んでいた人々はルークの奇跡的な帰還に活気を取り戻していきます。
その一方で、記憶のないピーターは釈然としないまま、ハリーの家で暮らしていました。そんなとき、都会で弁護士の勉強をしていたルークの婚約者アデル(ローリー・ホールデン)が帰郷します。
アデルもピーターをルークと信じて疑わず、かつてと変わらぬ愛でルークを支え、またピーターも美しく聡明なアデルに魅かれていきます。
やがてハリーは息子を失った悲しみから閉めてしまった映画館「マジェスティック」の再建に乗りだします。町を完全に輝かせるために――。

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簡単に言えば、流れ者が自分の意志とは裏腹に正義を働くヒーロー物語。流れ者がヒーローにはおよそそぐわないキャラクターであればあるほどクライマックスは盛り上がります。

川から海へ流れ出てローソンの浜辺にたどり着いたピーターはまさに流れ者といえますが(そんなジョークはわきに置いていて……)、脚本家時代のピーターは野心家の自己中心的な青年で、流れ者ヒーローにぴったりのキャラクターです。

ジム・キャリーにとってはもはや定番ともいえるシニカルなキャラクターですが、本作では冒頭のワンカット、しかも顔のクローズアップだけでピーターの性格を表現しており、演技派としてさらに新境地を開いたと感じました。

ジムの演技力がすべての冒頭シーンは挑戦的な演出だったに違いありませんが、次第にその意図が具体的な効果を発揮します。

映画全編で印象的なのはキャラクターの表情です。ルークに間違えられたピーターはもちろん、町の人々も実は複雑な思いを抱いてルークを迎えいれていました。そんなセリフでは語られない心のひだを伝えるために、キャラクターの顔のクローズアップが多用されています。とくにルークの帰還に沸き立つローソンの町の人々の喜ぶ顔がたまりません。マーティン・ランドーを始めとする、深いしわが刻み込まれた老優たちの顔に浮かぶ味わい深い表情に熱いものが込み上げます。

素朴な田舎町の善良な町民たちとの交流の中でピーターもまた心が癒され、他人を思いやる心を持つようになります。

ピーターと町民が相互作用し合い、互いの鬱屈した現状を打開するという展開は清々しいハッピーエンドを導くものの、そのクライマックスには厳しい現実を生き抜くための試練が用意されています。

戦争が残した負の代償に苦しみ翻弄される人々の物語を、偽物ヒーローという喜劇的な要素で味付けした脚本は、ダラボン監督の高校時代の旧友で、脚本家出身のダラボンとその時代をともに過ごしたマイケル・スローンが手がけています。

赤狩りによる言論抑制を行なったハリウッド映画界を戦うべき敵と捉え、制作会議シーンでは製作者側の映画作りに対する姿勢を徹底的に皮肉るなど、風刺劇としてもかなりの出来です。

ちょうど本作が公開される前年の2000年、脚本家組合とハリウッド映画界は賃金体系の改善を求めてストライキを行なう構えを見せるまでに悪化していました。そんな状況から、本作を観て、何より希望を抱き、爽快な気分を味わうのは“ハリウッドの脚本家たち”かもしれない、と思ったことを覚えています。

マジェスティック (字幕版)

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