映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

人生に迷えるアラフィフ女性が、映画を通して人生について考える。ネタバレなしの映画レビューサイト。

ワールド・トレード・センター(2006)

オリバー・ストーン監督が静かに描く
9.11事件からの奇跡の生還劇

9.11事件で崩壊したワールド・トレード・センターに丸1日、生き埋めにされ、救出された2人の港湾局警察官がいたそうです。

オリバー・ストーン監督が奇跡の実話を映画化した本作では、警察官や彼らの家族を中心に、恐怖の1日に対峙する米国民の姿が描かれています。

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【ストーリー】
2001年9月11日、快晴のニューヨーク。港湾局警察に勤めるベテラン巡査部長のジョン・マクローリン(ニコラス・ケイジ)や、同僚のウィル・ヒメノ(マイケル・ペーニャ)など、警察官たちはいつもと同じように業務を開始しました。
すると、午前8時40分過ぎ、突如、ワールド・トレード・センターのタワー1(北棟)にアメリカン航空11便が、続いてタワー2(南棟)にもユナイテッド航空175便が激突するという衝撃的な事件が発生。ジョンら警察官たちは直ちにタワーへ向かい、上層階へ取り残された人々の避難誘導にあたっていました。
しかし、内部に多くの人々を残したまま、タワーが崩壊してしまいます。

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本作では、崩壊したタワーに閉じ込められたジョンとウィルの脱出劇が描かれます。

瓦礫に埋もれた2人は絶望的な状況でも望みを捨てず励ましあい、行方不明の彼らの安否を気遣う家族はひたすら待つだけの状況に苦しみながらも耐え抜きます。そして、海兵隊員や消防士たちは2次災害を恐れず救助作業を敢行しました。

2006年の公開当時、事件から5年での映画化は時期尚早との見方が多かったのですが、あの恐怖の1日は、米国民が懸命に命と向き合った日でもあったように思います。

暗闇のビルでひたすら救助を待つ2人の姿を軸にした物語は、正直言って、単調な面も否めませんが、鋭い社会批判が持ち味のストーン監督が、ただ静かに命を慈しむ姿勢がメッセージの重要性を物語ります。

眉間に深いしわを刻み、物憂げな表情が印象的なニコラス・ケイジが悲惨な現実に立ち向かうウィルを淡々と演じ、適役です。

奇跡の生還を果たしたジョンとウィルは本作のアドバイザーとして携わり、事実を忠実に撮影するよう進言し、さらにエキストラとして出演しているといいます。

あの日からすでに21年経ちますが、9月になると想像を絶する事件があったことを思い返さずにはいられません。この物語は、あの日、あのビルの中で起こった現実の中の一つに過ぎず、他にも多くの現実があったのだと思うと複雑な気もします。

理不尽で非人道的な攻撃は止めなければいけない。未だ人間同士の争いが軽々しく行われている今、強く思います。


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空白(2021)

他者への理解が希薄な現代社会に問う問題作
古田新太が狂気の父親に魂を吹き込む

現職政治家たちの不正に迫った『新聞記者』(‘19年)、実際に起きた祖父母殺人事件に着想を得た『MOTHER』(‘20年)など、衝撃的な社会派ドラマを手掛ける映画会社スターサンズが再び問題作を放ちました。

『ヒメアノ~ル』(’16年)、『愛しのアイリ―ン』(‘18年)の吉田恵輔監督がオリジナル脚本を手がけた本作は、ある女子高生の衝撃的な死を発端に、さまざまな性格、境遇、立場の人々が絡み合い、救いの見えない悲惨な物語が展開します。

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【ストーリー】
漁師の添田古田新太)は自分の価値観がすべての人間。怒りっぽく、攻撃的で、シングルファーザーとして育てる一人娘・花音(伊東蒼)にもキツく当たっていました。そんな添田に抑圧されたためか、大人しくて、自己主張できない花音は孤独でした。
ある日、「スーパーアオヤギ」で、店長の青柳(松坂桃李)からマニキュアを万引きした疑いをかけられた花音はとっさに逃げ出しますが、万引き被害に苦しめられていた青柳は花音を追い続けました。すると、追いつかれそうになった花音が道路に飛び出し、車にひかれて死亡してしまいます。
この“事故”はTVワイドショーの恰好のネタとなり、原因の一つとなった青柳の元へマスコミが殺到します。世間で青柳の行為の是非が議論されるなか、添田が動き出します。花音を失った悲しみは、万引きの疑いをかけた青柳への怒りへと変わり、店での“真実”を聞き出すために、執拗に青柳を追い詰めていきます。

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添田が求めるのは、青柳の謝罪ではなく、花音の無実。それは娘の名誉のためではなく、添田自身の名誉のために見えます。「子育ての失敗」=「自分の非」。添田の怒りは「自分の非」を隠すためのもの。「自分の非」を隠すのは、すなわち、「弱さ」を見せて、他人に攻撃されたくないから。自分を“絶対”と信じ、他人を攻撃する人間の典型です。

古田の演じる添田狂気的で恐ろしいですが、現実には彼ほどではないにせよ、根底に添田のような気質がある人は多いのではないでしょうか。

ほかにも、さしたる目標もなく、人生後ろ向きに生きてきた青柳や、強い正義感が押し付けがましいスーパーの女店員(寺島しのぶ)など、リアル過ぎるキャラクターたちに考えらせられることがたくさんあります。

タイトルの『空白』には、深い意味があります。花音と青柳との店でのやり取りがクライマックスまで明かされず、「空白」の時間として観る者の興味を持たせます。

また、青柳を追い詰めるのは添田だけではありません。「他者を理解する心」を持たない人々が横行する「空虚」な現代社が生んだ悲劇は、決して絵空事とは思えないはずです。


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アンタッチャブル(1987)

ハラハラドキドキしっぱなし!
とにかくカッコいい! 傑作ギャング映画

1920~30年代初期のシカゴを舞台に、強大な勢力を誇ったマフィアのボス、アル・カポネと、彼を逮捕しようとする捜査官たちとの壮絶な攻防を、ブライアン・デ・パルマ監督が1987年に映画化しました。

デ・パルマ監督は、スティーブン・キング原作の超常ホラー『キャリー』(’76年)、ヒッチコック監督の『サイコ』にオマージュを捧げたエロティックサスペンス『殺しのドレス』(‘80年)、アル・パチーノ主演のギャングアクション『スカーフェイス』(‘83年)など、カルト的な人気を博した作品で注目を集めていました。

本作は、長回しやスローモーション、分割画面や覗き風の視点など、独特の映像手法を多用し、“映像の魔術師”とも称されたデ・パルマ監督が真骨頂を発揮、けれん味あふれるシーンの数々にハラハラドキドキしっぱなしの傑作ギャング映画です。

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【ストーリー】
1920~30年代初期、禁酒法が施行されたアメリカでは、ギャングたちが酒の密売やカナダから酒を密輸し、莫大な利益を得ていました。アメリ財務省のエリオット・ネス(ケビン・コスナー)は連邦政府からギャング摘発チームの捜査主任に任命され、シカゴへ向かいます。赴任早々、酒密造摘発で手柄を立てようとしたものの、ギャングに買収された警察官が情報を漏らしたために失敗してしまいます。
その帰り道、失意の中にいたネスは初老の警官ジム・マローン(ショーン・コネリー)に出会います。その後、シカゴを牛耳るアル・カポネの逮捕に意欲を燃やすネスは、マローンや射撃の腕を見込んだ新米警官のジョージ・ストーン(アンディ・ガルシア)、カポネを脱税で逮捕することを提案した財務省の簿記係オスカー・ウィレス(チャールズ・マーティン・スミス)ら、信頼できる仲間を集め、独自の捜査に乗り出します。

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一筋縄ではいかない男たちが集まった作品は本当に見どころが満載です。

まずは豪華な俳優陣の競演。本作の主演に大抜擢されたケビン・コスナーは正義漢のネスを好演、一躍トップスターの仲間入りを果たしました。ジョルジオ・アルマーニのスーツをビシッと着こなしたケビンはスタイリッシュで、改めて見ると本当に“イイ男”です。

いぶし銀の名優ショーン・コネリーと変幻自在の怪優ロバート・デ・ニーロベテラン対決もワクワクします。そして、ニヒルなジョージをクールに演じたアンディ・ガルシアも本作で一躍脚光を浴びました。

カポネの買収工作に応じず、マフィアを追い詰めるネスたちのチームは、手出しのできない“アンタッチャブル”としてマフィアの報復を受けることに。両者による激しい銃撃戦が何度も繰り広げられますが、“嵐の前の静けさ”を効果的に取り入れたアクションシーンが実にハラハラドキドキして、痺れます。

有名なのはシカゴ・ユニオン駅で、ネスとストーンが逃亡するマフィアを待ち伏せするシーン。駅中央の大階段でネスがマフィアの到着を待っていると、女性が乳母車を押し上げながら階段を登っていきます。大変そうな女性を見かねてネスが乳母車を引き上げていると、そこへマフィアが到着。マフィアに気を取られたネスがなんと、乳母車を離してしまうのです。そこから始まるスローモーションによる銃撃戦は必見です。

乳母車が階段を下るなか、ネスやマフィアたちが容赦ない銃撃戦を繰り広げます。乳母車の中には、かわいい赤ちゃんがいます。正直言って、真夜中の12時に赤ちゃん連れの女性がいることに素朴な疑問が湧くのですが、緊迫感とカッコよさを追求したデ・パルマ監督の術中にまんまとはまり、息を詰めて見入ってしまいます。

また、マローンの自宅で起こるマフィアとマローンとの攻防はマフィアの視点で描かれ、ひたひたと忍び寄るマフィアの脅威が伝わってきます。ドラマチックな展開に驚かされるショーン・コネリーのアクションシーンは見せ場の一つです。

ロバート・デ・ニーロアル・カポネは何を仕出かすか分からない狂気がみなぎっています。そして、そんな恐るべきロバート的カポネに対峙するネオをスマートに演じていたケビン・コスナーも最後には感情を爆発させます。

静から動への転換で観る者を惹きつけるデ・パルマ監督の演出に、俳優たちも渾身の演技で応えています。

そして、映画のオープニングを飾るテーマ曲のカッコよさも語るべきでしょう。不穏な雰囲気を高める、重低音の不気味なメロディは、『ニュー・シネマ・パラダイス』('89年)も手がけたイタリアの作曲家エンニオ・モリコーネによるものです。


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リトル・マーメイド(1989)

伝統と革新が融合した画期的なディズニーアニメ
ディズニーが誇るセル画で製作された最後の作品

'89年にアメリカで公開されたディズニーアニメ第28作『リトル・マーメイド』(日本では‘91年公開)は、本作以降、『美女と野獣』(’90年)、『アラジン』(’92年)など、ディズニーアニメーションが大ヒットを連発したことから、《第2期ディズニー黄金時代》が幕を開けるきっかけになった作品です。

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【ストーリー】
海底の世界・アトランティカに暮らす16歳の人魚姫アリエルは地上の世界に憧れていました。ある日、好奇心から海上を航行していた船を覗き込んだアリエルは、同乗していた人間の王子・エリックに一目ぼれしてしまいます。
そんな中、嵐がやってきて、船が沈没し、エリックは海へ投げ出されてしまいます。アリエルは必死でエリックを助け、浜辺で介抱します。すると、アリエルの美しい歌声を聴いたエリックもまた、彼女に惹かれるのですが、他の人間が来たとたん、アリエルは慌てて姿を隠してしまいました。
それ以来、エリックに心を奪われたアリエルは、海の魔王アースラの誘いにのり、「自分の声と引き換えに3日間だけ人間になり、その間にエリックとキスを交わせるか」という賭けをすることに。
ついに念願の人間になれたアリエルはエリックに会いに行きますが……。

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原作はアンデルセンの『人魚姫』。お姫さまをヒロインにした、こてこてのディズニー映画ですが、人魚姫のアリエルはおてんばで好奇心旺盛なヒロインに生まれ変わり、ただ王子様を待っているだけのプリンセスではありません。

陽気な海の仲間たちに助けられながら、王子のハートを射止めようと奮闘するアリエルの物語はスマッシュヒットを記録。『美女と野獣』のベルや、『アラジン』のジャスミンといった、勇敢なディズニープリンセスが後に続きました。

そして、古典童話をエキサイティングなストーリーやファンタジックな映像で現代的にアレンジしたディズニーアニメは多くの女性たちの心を捉えました。本作の主題歌『アンダー・ザ・シー』がアカデミー賞グラミー賞を受賞するなど、本格的な音楽も大人も楽しめる作品になった理由でしょう。

そんなディズニーアニメ復活の立役者となった本作は、皮肉にもディズニーが誇る伝統的なセル画で製作された最後のディズニーアニメにもなりました。

監督・脚本はロン・クレメンツとジョン・マスカー。このコンビはのちに『アラジン』から始まる、CGを駆使した壮大なスケールのアニメーションへ向かっていきます。

背景の70%をしめるブルーに彩られた神秘的な海の底はシーンに合わせて巧みに表情を変えています。

今、改めて観ると、伝統的な手描きアニメがとても新鮮に、そして斬新に感じられます。


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リトル・マーメイド(吹替版)

キンキーブーツ(2018)

心に染みるストーリーを明るく、華やかに歌い踊る
傑作ブロードウェイ・ミュージカルがスクリーンに

「松竹・ブロードウェイシネマ」では、舞台の本場アメリカ・ブロードウエイミュージカルを映画館で楽しむことができます。

本作は、2013年にブロードウェイで上演され、トニー賞に輝いた大ヒットミュージカルです。

昨年2021年に「松竹・ブロードウェイシネマ」で公開され、全国各地の映画館で満員御礼の大ヒットとなったことから、今年2022年7月26日(火)の1日限定でアンコール上映されるそうです。※数日公開される映画館もあり。

笑いと涙、感動に溢れた最高のミュージカルが再び幕を開けます!

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【ストーリー】
イギリスの田舎町ノーサンプトンの老舗靴工場、プライス社の跡取り息子チャーリーはロンドンで恋人と新たな生活を始めようとしますが、父の急逝で帰郷し、やむなく工場を継ぐことに。ところが工場は倒産寸前で、昔ながらのスタッフたちを解雇せざるを得ない状況に頭を悩ませていました。
そんななか、ロンドンで活躍するドラァグクイーン、ローラに出会ったチャーリーは「私たちに合うハイヒールが無い」と嘆くローラの言葉に、新しい靴のアイデアをひらめきます。そして、周囲の戸惑いや反発を受けながらもローラをデザイナーに迎え、「危険でセクシーな女物の紳士靴 (キンキーブーツ)」の製作に乗り出します。

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イギリスの実話を基にしたストーリーは「自分らしさ」をテーマに、チャーリーとローラの友情や葛藤、心の成長が描かれています。

子どものころから、工場を継ぐことや、男らしく生きることなど、自分の意に反することを父親から求められていた2人が、唯一無二の靴、「キンキーブーツ」を作る過程で、自分のありのままの姿を認めて望みを貫こうとする姿に勇気づけられます。

また、伝統的な靴職人たちが進歩的なローラやドラァグクイーンの仲間たちの登場で、偏見を捨て、生き生きと変わっていく姿は普遍的な展開ながらも心を打たれます。

誰の心にも触れるだろう秀逸なストーリーを、とびきりゴージャスにアレンジしたミュージカルシーンは本当に素晴らしいです!

全楽曲を手がけるのはアメリカン・ポップの女王、シンディ・ローパー。キャラクターやシーンに合わせた多彩な楽曲を、俳優たちが渾身のパフォーマンスで盛り上げます。特にローラを演じたマット・ヘンリーは圧巻です!

ローラの複雑な内面の演技と、人気ドラァグクイーンにふさわしいダイナミックなダンスシーンを見事にこなしたヘンリーは本作で数々の賞に輝いています。そして、そんな難しいローラ役を2016年と2019年の日本公演で演じ、絶賛された三浦春馬さんの才能を惜しまずにはいられません。

本作の醍醐味は、熱唱する俳優たちをアップで捉えるなど、ドラマチックなカメラワークにより、観客席とは別の視点で臨場感が味わえること。観客の様子も映し出されており、本場ブロードウェイの “通”の観客たちがノリノリで楽しんでいる姿も微笑ましいです。国境や時間を超えたミュージカルファンの一体感に思わず感動してしまいます。

クライマックスの大団円まで、圧倒的に楽しいミュージカルをぜひスクリーンで味わってほしいです( ´艸`)。


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broadwaycinema.jp

グラン・ブルー(1988)

素潜りに命を賭ける男たちが生きる場所とは
神秘的な海の魅力をたっぷり伝える夏の定番

ニュー・シネマ・パラダイス』(’88年・日本公開は‘89年12月)、『ゴッドファーザー PARTIII』(‘90年・日本公開は’91年)、そして、この『グラン・ブルー』(’88年・日本でヒットしたのは’92年)。 ‘90年代初頭に日本で公開され、話題となったこれらの作品を観て、私は3作で印象的に描かれたイタリア・シチリア島に一気に惹かれました。

マフィアを生んだ人々の激しさと逞しさ、古き良き時代への郷愁を誘う町並みの美しさや温かさ、そして、真っ青な海や古代遺跡が遺る大地などワイルドな島の明るさや神秘性――。

時は今から30年前、当時、ボンビー大学生だった私にとって海外は未知の世界でしたが、映画を通して知ったシチリア島多面的な魅力にどっぷりハマり、いつかシチリア島へ行くことが夢になりました。(1999年にシチリア島をめぐりました!)

本作は実在するフリーダイバー、ジャック・マイヨールをモデルに、“海”に魅せられた潜水夫たちの友情や夢、愛などを描いたロマンティックな物語です。

シチリア島のほか、ギリシャや南フランスなど、ヨーロッパの海辺を旅しているようなオシャレな映像も見どころで、夏になると観たくなる作品です。

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【ストーリー】
1965年ギリシャ。のどかな海沿いの村で暮らすジャック・マイヨールは素潜りが得意で、海中に潜り、魚たちを見るのが大好きな少年でした。いばりん坊の友人エンゾはそんなジャックをライバル視していました。
1988年シチリア。フリーダイバーとなったエンゾ(ジャン・レノ)はジャック(ジャン=マルク・バール)を探すことにします。同じころ、ニューヨークで働く保険調査員のジョアンナ(ロザンナ・アークエット)が雪に覆われたアンデス山脈へ事故調査のためにやってきます。そこでジョアンナは氷結した湖中へ素潜りで向かうジャック・マイヨールに出会います。そして、危険な任務をこなすとは思えないような物静かな物腰のジャックに心を奪われます。 
その後、コート・ダ・ジュールへ戻ってきたジャックの前に、エンゾが現れます。フリーダイビングの世界チャンピオンとなったエンゾは、シチリア島タオルミーナで開催される無呼吸選手権でジャックに勝負を挑もうとしていたのです。
さらに、喧騒と“金”ばかりのニューヨークに嫌気が指したジョアンナは、ジャックが忘れられずタオルミーナへ向かいます。

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少年時代から素潜りの腕前を競い合ってきたジャックとエンゾの命を賭けたフリーダイビングの闘いが描かれます。

少年時代から心優しく、イルカをこよなく愛するウブなジャックと、少年時代以上に尊大になったのに、なぜかとってもお茶目なエンゾの凸凹コンビが良い味を出しています。

最初の対決はシチリア島のリゾート地・タオルミーナ。いばりん坊のエンゾが「マンマの作ったパスタ以外を食べたら、マンマに怒られる」とお茶目な面を見せた断崖のレストランは、映画のロケ地として人気になっています。(私は行けませんでした( ;∀;))

穏やかな笑みで人柄の良さがにじみ出る主人公のジャックも良いのですが、やはり注目はエンゾを演じたジャン・レノでしょう。本作はジャン・レノが『レオン』(‘94年)で世界的なブレイクを果たす前の作品ですが、やっぱり渋くて、カッコいい! トレードマークの丸メガネをかけ、ブリーフタイプの海パン姿も凛々しくて、セクシーな、海の男ジャン・レノは必見です! 

素潜り対決とともに描かれるのは、ジャックとジョアンナの愛の行方。内向的で、イルカにばかり関心がいくジャックが、エンゾの粗削りなアシストや、ジョアンナの大らかさに心を開き、成長していく姿が、雄大な海に漂っているかのような、ゆったりとしたテンポで紡がれます。明るく、チャーミングジョアンナを演じるロザンナ・アークエットは、柔らかな笑顔とコケティッシュな魅力で、映画に華を添えます。

酸素ボンベをつけず、無呼吸で100m以上もの深海をめざすフリーダイビングは過酷でありつつも、神秘的な世界を堪能できます。蒼に彩られた海中シーンは見応えたっぷりです!

ほかにも、ジャックがイルカと泳ぐシーンや、月夜に照らされた夜の海など、多様な海の魅力を存分に伝えた映像、さらに幻想的な海をイメージした荘厳な音楽やイルカの鳴き声など、映画全編に癒しが溢れています。

といっても、心臓に異常な負担のかかる素潜りには、人々の想像を超えた結末が用意されているのですが……。

監督・脚本はフランスのヒットメーカー、リュック・ベッソン。彼の作品では『レオン』(’94年)が好きな方が多いと思いますが、私は本作が一番好きです。


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明日の食卓(2021)

子育てを通して見えてくる人間の光と闇
誰にでも、どこか思い当たるリアルなドラマは必見

「息子を殺したのは、私ですか――」

ドキッとするようなキャッチコピーの付いた本作は、“石橋ユウ”という同姓同名の10歳の男の子を持つ3人の母親と、家族をめぐる物語。

年齢も住む場所も境遇も異なる、三者三様の子育てに励む母親たちの誰が、どんな理由で、自分の子どもを“傷つける”のでしょうか――。見ごたえあるドラマが幕を開けます。

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【ストーリー】
神奈川在住の43歳のフリーライター・石橋留美子(菅野美穂)はやんちゃ盛りの2人の息子に手を焼く毎日。10歳の長男・悠宇は反抗的で幼い弟とケンカばかり。フリーカメラマンの夫・豊(和田聰宏)は家庭を留美子に任せきりです。
そんなストレスのたまる日常を、留美子はブログ『鬼ハハ&アホ男児Diary』に綴り、せめてもの息抜きをしていました。
36歳の専業主婦・石橋あすみ(尾野真千子)は子どものために環境の良い静岡へ引っ越してきたばかり。夫・太一(大東駿介)の母・幸絵(真行寺君枝)が住む家の敷地内に瀟洒な家を建て、10歳の1人息子・優は素直な「いい子」に育ち、満ち足りた生活を送っていました。
大阪に住む石橋加奈(高畑充希)は30歳のシングルマザー。ローンを抱え、生活はぎりぎりですが、昼夜を問わず懸命に働き、10歳の1人息子・勇を大切に育てていました。

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映画は、これら3つの家族の生活を並行して描き、それぞれの家族に巣くう問題を明らかにしていきます。

仕事とワンオペ育児に疲れ切る留美子は反抗期の悠宇を頭ごなしに叱ってばかり。大人しい性格で、夫や姑に遠慮しているあすみは優に依存しています。貧困に苦しみながらも勇の前では明るく振舞う加奈の姿は勇を悩ませています。

みんな〈子どもを一番に思っている〉母親たちですが、その思いを子どもたちが正しく受け止めてくれるとは限りません。

無条件に慕い合うはずの母と子どもの思いがすれ違ってしまうのはなぜなのでしょうか?

ただ、一つ言えるのは、貧困や介護など大人が作り出した社会問題、そして、何より夫婦の関係が子どもたちに大きな影響を与えている、ということです。

親と子ども、どちら側の葛藤も共感できるストーリー展開にぐいぐい引き込まれます。そして、現代を象徴するような3つのタイプの母親像をリアリティたっぷりに演じた3人の女優たちの大熱演が光ります。

2016年に出版された椰月美智子の同名小説は、子育て世代を中心に大きな反響を呼びましたが、人間の心に宿る光と闇を鋭くえぐった本作は、誰にとっても、とても興味深い作品に仕上がっています。


明日の食卓 [ 菅野美穂 ]


明日の食卓(1) (角川文庫) [ 椰月 美智子 ]