映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

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空白(2021)

他者への理解が希薄な現代社会に問う問題作
古田新太が狂気の父親に魂を吹き込む

現職政治家たちの不正に迫った『新聞記者』(‘19年)、実際に起きた祖父母殺人事件に着想を得た『MOTHER』(‘20年)など、衝撃的な社会派ドラマを手掛ける映画会社スターサンズが再び問題作を放ちました。

『ヒメアノ~ル』(’16年)、『愛しのアイリ―ン』(‘18年)の吉田恵輔監督がオリジナル脚本を手がけた本作は、ある女子高生の衝撃的な死を発端に、さまざまな性格、境遇、立場の人々が絡み合い、救いの見えない悲惨な物語が展開します。

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【ストーリー】
漁師の添田古田新太)は自分の価値観がすべての人間。怒りっぽく、攻撃的で、シングルファーザーとして育てる一人娘・花音(伊東蒼)にもキツく当たっていました。そんな添田に抑圧されたためか、大人しくて、自己主張できない花音は孤独でした。
ある日、「スーパーアオヤギ」で、店長の青柳(松坂桃李)からマニキュアを万引きした疑いをかけられた花音はとっさに逃げ出しますが、万引き被害に苦しめられていた青柳は花音を追い続けました。すると、追いつかれそうになった花音が道路に飛び出し、車にひかれて死亡してしまいます。
この“事故”はTVワイドショーの恰好のネタとなり、原因の一つとなった青柳の元へマスコミが殺到します。世間で青柳の行為の是非が議論されるなか、添田が動き出します。花音を失った悲しみは、万引きの疑いをかけた青柳への怒りへと変わり、店での“真実”を聞き出すために、執拗に青柳を追い詰めていきます。

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添田が求めるのは、青柳の謝罪ではなく、花音の無実。それは娘の名誉のためではなく、添田自身の名誉のために見えます。「子育ての失敗」=「自分の非」。添田の怒りは「自分の非」を隠すためのもの。「自分の非」を隠すのは、すなわち、「弱さ」を見せて、他人に攻撃されたくないから。自分を“絶対”と信じ、他人を攻撃する人間の典型です。

古田の演じる添田狂気的で恐ろしいですが、現実には彼ほどではないにせよ、根底に添田のような気質がある人は多いのではないでしょうか。

ほかにも、さしたる目標もなく、人生後ろ向きに生きてきた青柳や、強い正義感が押し付けがましいスーパーの女店員(寺島しのぶ)など、リアル過ぎるキャラクターたちに考えらせられることがたくさんあります。

タイトルの『空白』には、深い意味があります。花音と青柳との店でのやり取りがクライマックスまで明かされず、「空白」の時間として観る者の興味を持たせます。

また、青柳を追い詰めるのは添田だけではありません。「他者を理解する心」を持たない人々が横行する「空虚」な現代社が生んだ悲劇は、決して絵空事とは思えないはずです。


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