グラン・ブルー(1988)
素潜りに命を賭ける男たちが生きる場所とは
神秘的な海の魅力をたっぷり伝える夏の定番
『ニュー・シネマ・パラダイス』(’88年・日本公開は‘89年12月)、『ゴッドファーザー PARTIII』(‘90年・日本公開は’91年)、そして、この『グラン・ブルー』(’88年・日本でヒットしたのは’92年)。 ‘90年代初頭に日本で公開され、話題となったこれらの作品を観て、私は3作で印象的に描かれたイタリア・シチリア島に一気に惹かれました。
マフィアを生んだ人々の激しさと逞しさ、古き良き時代への郷愁を誘う町並みの美しさや温かさ、そして、真っ青な海や古代遺跡が遺る大地などワイルドな島の明るさや神秘性――。
時は今から30年前、当時、ボンビー大学生だった私にとって海外は未知の世界でしたが、映画を通して知ったシチリア島の多面的な魅力にどっぷりハマり、いつかシチリア島へ行くことが夢になりました。(1999年にシチリア島をめぐりました!)
本作は実在するフリーダイバー、ジャック・マイヨールをモデルに、“海”に魅せられた潜水夫たちの友情や夢、愛などを描いたロマンティックな物語です。
シチリア島のほか、ギリシャや南フランスなど、ヨーロッパの海辺を旅しているようなオシャレな映像も見どころで、夏になると観たくなる作品です。
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【ストーリー】
1965年ギリシャ。のどかな海沿いの村で暮らすジャック・マイヨールは素潜りが得意で、海中に潜り、魚たちを見るのが大好きな少年でした。いばりん坊の友人エンゾはそんなジャックをライバル視していました。
1988年シチリア。フリーダイバーとなったエンゾ(ジャン・レノ)はジャック(ジャン=マルク・バール)を探すことにします。同じころ、ニューヨークで働く保険調査員のジョアンナ(ロザンナ・アークエット)が雪に覆われたアンデス山脈へ事故調査のためにやってきます。そこでジョアンナは氷結した湖中へ素潜りで向かうジャック・マイヨールに出会います。そして、危険な任務をこなすとは思えないような物静かな物腰のジャックに心を奪われます。
その後、コート・ダ・ジュールへ戻ってきたジャックの前に、エンゾが現れます。フリーダイビングの世界チャンピオンとなったエンゾは、シチリア島のタオルミーナで開催される無呼吸選手権でジャックに勝負を挑もうとしていたのです。
さらに、喧騒と“金”ばかりのニューヨークに嫌気が指したジョアンナは、ジャックが忘れられずタオルミーナへ向かいます。
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少年時代から素潜りの腕前を競い合ってきたジャックとエンゾの命を賭けたフリーダイビングの闘いが描かれます。
少年時代から心優しく、イルカをこよなく愛するウブなジャックと、少年時代以上に尊大になったのに、なぜかとってもお茶目なエンゾの凸凹コンビが良い味を出しています。
最初の対決はシチリア島のリゾート地・タオルミーナ。いばりん坊のエンゾが「マンマの作ったパスタ以外を食べたら、マンマに怒られる」とお茶目な面を見せた断崖のレストランは、映画のロケ地として人気になっています。(私は行けませんでした( ;∀;))
穏やかな笑みで人柄の良さがにじみ出る主人公のジャックも良いのですが、やはり注目はエンゾを演じたジャン・レノでしょう。本作はジャン・レノが『レオン』(‘94年)で世界的なブレイクを果たす前の作品ですが、やっぱり渋くて、カッコいい! トレードマークの丸メガネをかけ、ブリーフタイプの海パン姿も凛々しくて、セクシーな、海の男ジャン・レノは必見です!
素潜り対決とともに描かれるのは、ジャックとジョアンナの愛の行方。内向的で、イルカにばかり関心がいくジャックが、エンゾの粗削りなアシストや、ジョアンナの大らかさに心を開き、成長していく姿が、雄大な海に漂っているかのような、ゆったりとしたテンポで紡がれます。明るく、チャーミングなジョアンナを演じるロザンナ・アークエットは、柔らかな笑顔とコケティッシュな魅力で、映画に華を添えます。
酸素ボンベをつけず、無呼吸で100m以上もの深海をめざすフリーダイビングは過酷でありつつも、神秘的な世界を堪能できます。蒼に彩られた海中シーンは見応えたっぷりです!
ほかにも、ジャックがイルカと泳ぐシーンや、月夜に照らされた夜の海など、多様な海の魅力を存分に伝えた映像、さらに幻想的な海をイメージした荘厳な音楽やイルカの鳴き声など、映画全編に癒しが溢れています。
といっても、心臓に異常な負担のかかる素潜りには、人々の想像を超えた結末が用意されているのですが……。
監督・脚本はフランスのヒットメーカー、リュック・ベッソン。彼の作品では『レオン』(’94年)が好きな方が多いと思いますが、私は本作が一番好きです。