映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

人生に迷えるアラフィフ女性が、映画を通して人生について考える。ネタバレなしの映画レビューサイト。

トイ・ストーリー3(2010)

満を持して登場したシリーズ第3弾
子どもを思うオモチャたちの健気な姿に感動!

今や人気ジャンルとして、映画界にとって絶対的な存在となったフルCG長編アニメーションですが、そのルーツは1995年、ピクサースタジオが製作した『トイ・ストーリー』(’95年)から始まりました。

それから15年後に登場した本作を観て、他のスタジオが続々と参入し、次々にフルCG長編アニメが作られるなか、映像革命を成し遂げ、映画史にその名を残す『トイ・ストーリー』はやはり別格の存在だと感じました。

前作『トイ・ストーリー2』(‘99年)から11年の時を経て、ついに製作されたシリーズ第3作は、第1作が登場したのと同じ位の驚きと感動に満ちていました。

冒頭、おなじみのオモチャたちの登場シーンが粋で楽しいです。各オモチャたちには趣向を凝らした見せ場が用意され、ワクワクするのと同時に、「懐かしい」という感慨で胸が熱くなります。

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【ストーリー】
木製カウボーイ人形のウッディやアクショントイのバズ・ライトイヤーらは元気いっぱいに遊んでいます。けれど、これはビデオの中の昔の姿。大好きなアンディは大学生になり、オモチャ遊びをとっくに卒業。オモチャたちは家を巣立つアンディが自分たちを連れて行ってくれるか心配していました。
ところが、アンディが選んだのはウッディだけ。しかも他のオモチャたちはとんだ手違いからゴミ捨て場に出されてしまいます。慌てたウッディの機転で清掃車行きを免れたオモチャたちはまたまた手違いから、今度は保育園に寄付されてしまいます。「家に帰ろう」と説得するウッディに対し、アンディに捨てられたと思い込んだオモチャたちは、遊んでくれる子どもたちがいる保育園で暮らすことに決めました。

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10年以上のブランクを生かしたストーリーが素晴らしいです。子どもが成長し、オモチャ遊びを卒業した時、オモチャはどうなるのか。おそらく捨てるか、誰かにあげるか、邪魔にならない所に放置しておくのではないでしょうか。

誰もが経験しつつも、大して気にも留めずに解決していた些細な問題を、本作では大切に扱っています。

見捨てられたオモチャたちによる波乱の冒険はユーモラスですが、かなり切ないです。オモチャたちが抱く大切な人へのピュアな思いは、豊かな心を失いがちな大人の琴線に間違いなく触れます。子どもたちには友情や絆の大切さがしっかり伝わるでしょう。

個性溢れるオモチャたちによるギャグも快調。笑いと涙がたっぷり詰まった名作シリーズです。

当初、『トイ・ストーリー』シリーズは本作で最後の予定だったそうですが、多くの熱い声をうけて、本作からさらに9年後の2019年、シリーズ第4弾『トイ・ストーリー4』が製作されました。

本作同様、子どもたちと遊びたくて仕方がないオモチャたちの切ない思いをテーマに、明るくも悩めるオモチャたちの友情と冒険を描いた第4作も抜群に面白いです!

そして、2022年7月1日より、『トイ・ストーリー』の人気主要キャラクター、硬派なオモチャバズ・ライトイヤーを主人公にしたスピン・オフ映画『バズ・ライトイヤーが絶賛公開中です!


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万引き家族(2018)

人とつながるためには何が必要?
是枝裕和監督が冷徹に見つめた絆の物語

この家族のつながりは、生きるための“金”か、人を思いやる“情”か、家族なら当然あるはずの“絆”か?

ショッキングなタイトルが表わすとおり、本作の主人公一家は日常的に万引きを行い、生活の糧にしています。しかも、父親が幼い息子にやらせているのです。

一体、どうして、こんな家族関係が生まれたのか? 『誰も知らない』('04年)、『そして父になる』('13年)など、シビアな家族の姿を題材にし、世界的な評価を高めてきた是枝裕和監督が原作・脚本・編集を手がけた問題作は、家族問題に留まらず、<人と人とのつながり>について問いかけ、さらに多くの人々の共感を呼び、第71回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルム・ドールに輝きました。

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【ストーリー】
舞台は東京下町。父・治(リリー・フランキー)と息子・祥太(城桧吏)はスーパーマーケットで万引きした帰り道、団地の外廊下に幼い女の子・ゆり(佐々木みゆ)が独りでいるのを見つけます。外は冷え込んでおり、見かねた治はゆりを家へ連れてきてしまいます。
古びた一軒家には、治の妻・信代(安藤サクラ)、治の母・初枝(樹木希林)、信代の腹違いの妹・亜紀(松岡茉優)が待っていました。彼女たちはゆりに驚きながらも、盗品のカップラーメンで夕食を囲みます。信代が誘拐犯もどきの治の行動を突っ込んだり、初枝がゆりを優しくあやしたりと、それぞれが思い思いの言動をとる夕食はとても賑やかで、和気あいあいとしています。
深夜、治と信代はゆりをこっそり自宅へ送り届けますが、ゆりがいた部屋から男性の怒鳴り声を聞いた信代はゆりを再び連れ帰り、そのまま一緒に暮らすことにします。

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冒頭の夕食シーンでは、万引きを悪びれもしない、あっけらかんとした家族たちの様子が描かれます。飄々とした治や、現実的で辛辣な信代、穏やかだけど、したたかそうな初代、そして、無気力・無関心な亜紀らの軽口を交えたやり取りはとても自然で、こんな“ちょい悪”家族はいそうな気もしてきます。

しかし、この家族には生きていくには当然とも言えますが、なんとも厳しいルールがあります。それはだれもが収入を出さなければいけないということ。治はボヤキながらも日雇いで工事現場へ、信代はクリーニング工場でアクセク働いています。初代は年金から、そして、まだ働けない祥太は万引きをして、自分の役割を果たしているのです。(なぜか亜紀だけは免除されています)

まさに“金”でつながっているような家族です。しかも、祥太は「小学校に行くやつは自分で勉強ができないからだ」という治の話を信じ、小学校へ通っていません。また、治の「店にあるものはまだ誰のものでもないから、盗みじゃない」という話も黙って受け入れています。

しかし、治がそう祥太に話した理由が後半で明らかになります。ほかにも、家族がゆりの面倒をみたり、亜紀が家に生活費をいれなかったり、祥太が治を“お父さん”と呼ばなかったりする家族の謎めいた言動の一つ一つが伏線だったことに気づく後半の展開にうならされます。

そして父になる』に続き、難しい父親役を自然体で演じるリリー・フランキー、社会の暗部を鋭く指摘する信代に説得力を持たせた安藤サクラ、投げやり生きる亜紀を演じた松岡茉優は際どい風俗シーンにも挑戦しています。そして、訳あり家族をより意味深なものにする樹木希林の存在感はさすがの一言です。

さらに、理不尽な大人の世界で生きようとする健気な2人の子ども、祥太とゆりを演じた子役たちもとてもいいです。

是枝監督が実際に起こった、親の死亡届を出さずに年金を不正受給していた家族の事件に着想を得たストーリーは、社会の底辺でひっそり生きるしかない人々の物語。決して幸福ではない運命を背負ってしまった家族が求めたものは、“自分を否定しない”人たちとのつながりでした。

家族・親子・夫婦・恋人・友人・同僚……、悩んでも、煩わしくても、求めてしまう人とのつながり。そこに“本物の絆”はあるのだろうか。ふと、自分の人間関係を見直してみたくなりました。


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レナードの朝(1990)

再び朝が迎えられる日々に感謝したい
名優たちが入魂の演技で紡ぐ感動作

30年もの間、“意識”を奪われて生きていた難病患者レナードの束の間の “目覚め”を描いた珠玉のヒューマンドラマです。

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【ストーリー】
1969年、極端に人づきあいが苦手で、研究ばかりしていたセイヤー医師(ロビン・ウイリアムズ)がニューヨーク・ブロンクスの慢性神経症患者専門の療養型病院で働くことになります。
この病院には嗜眠性脳炎の患者たちが長期入院していました。話しかけても反応がなく、自分の意思で動くこともできず、じっと車椅子に座っているだけの患者たちにセイヤー医師は戸惑います。
しかし、セイヤー医師は患者たちに反射神経が残っていることを発見し、患者たちの意識を回復させようと試みます。そして、未承認のパーキンソン病の新薬に有効性を感じたセイヤー医師は30年にわたり入院する最も重症な患者レナード(ロバート・デ・ニーロ)に治験を始めます。

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映画のストーリーは、イギリスの神経学者オリバー・サックスが自身の臨床経験を著した原作『Awakenings』を基に創作されたフィクションで、1969年の夏にたった一度だけ起きた奇跡の出来事として描かれています。

映画はレナードの少年時代の回想から始まります。物静かな少年レナードは右手の機能が失われ、字が書けなくなる異変に襲われます。自宅で療養することになったレナードはいつか友だちと再び遊べる日を望みながらも、症状が悪化し、20歳で完全に体の機能を失ってしまいます。それから30年……。静かに寄り添う老いた母親の傍らで、レナードは虚ろな目で宙を見つめるばかりでした。

映画の序盤は、病気の過酷な現実を突きつけます。レナードのほかにも、意識障害により、自分では何もできない状態でいる患者たちの姿に、〈こんな病気があるのか〉と驚くとともに、〈もし自分だったら〉と考えずにはいられません。

治験が成功し、レナードが目覚めた時は本当に感動します。再び取り戻した日常生活を無邪気に楽しむレナードの姿はもちろん、彼の回復を心の底から喜ぶ母親やセイヤー医師、そして病院の看護師たちの優しさに胸が熱くなります。

レナードに続き、新薬を投与された嗜眠性脳炎の患者たちが次々に目覚め、病院はにわかに活気づき、笑顔が溢れます。ただし、うれしいことばかりではありません。知らぬ間に長い年月が過ぎていたことを知った患者たちは残酷な現実を嘆きます。それでも、再び取り戻した生きる喜びをかみしめ、前向きに生きようとします。

しかし、幸せな時は長くは続きません。薬が効かなくなったレナードに、再び異変が表れます。脳や体の動きが制御できなくなってきたレナードは、再び眠りにつく時を恐れながらも、自分らしさを示そうとします。

そんなレナードらしさが出るのは、彼が初めて恋を経験するエピソード。レナードと同じ病気の父を見舞うポーラ(ペネロープ・アン・ミラー)に惹かれたレナードは、思い切って声をかけ、病院の食堂で話し合う仲になります。彼女に会う日はジャケットに着替え、髪の毛を整えて、一人前の男性として精いっぱい振舞うレナードでしたが、自分の未来が分かった時、ある決断を下すのです。そうして生まれた名シーンは必見です。健気なレナードと、彼の決意を優しく受け止めるポーラの姿に涙が止まりません!

名優ロバート・デ・ニーロが圧倒的な演技力でレナードへ感情移入を誘います。一方、献身的なセイヤー医師を誠実に演じたロビン・ウィリアムズは『いまを生きる』(’89年)に続く、ハートフルなヒューマンドラマで見事コメディ俳優から脱皮しました。

レナードが限りある時間の中で教えてくれたのは、朝、目覚めることの喜びと、愛する人たちと過ごすことの幸せ。これらが当たり前のようでいて、当たり前でないのは、多くの人が感じていることだと思いますが、例え良いことばかりでなくても、“生きている今”を大切にしたいと思える作品です。


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ジュラシック・パークIII(2001)

スピルバーグからジョー・ジョンストン監督へ
ノンストップアクションとほのぼの感が楽しい第3弾

遺伝子操作で再生された恐竜と人間との闘いを、最先端の視覚効果技術を実現させ、大ヒットを記録した娯楽大作『ジュラシック・パーク』。1993年にスティーブン・スピルバーグ監督が手掛けた1作目から、実に29年となる今年2022年にはシリーズ6作目が公開される大人気シリーズです。

本作は1作目から8年後に公開されたシリーズ第3作。画期的なCGにより、忠実に再現された恐竜の迫力にただただ驚かされた1作目は、観客のみならず、映画製作者たちのアドレナリンをも刺激し、CGの飛躍的な発展に貢献しましたが、第3作では科学的根拠に基づいた、よりリアルな恐竜を完成させると同時に、謎に満ちた恐竜の神秘性をも表現しています。

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【ストーリー】
12歳の少年エリック(トレヴァー・モーガン)と母親の友人のベン(マーク・ハレリック)はコスタリカ沖でパラセーリングを楽しんでいました。空高く舞い上がる水上パラシュートに繋がれた2人が霧を突き抜けると、眼下にある高速艇の乗員が1人残らず消えていました。そして、漕ぎ手を失った高速艇の進路にはあのイスラ・ソルナ島がありました。
その8週間後、助手のビリー(アレッサンドロ・ニヴォラ)とともに恐竜の研究を続けていた古生物学者のアラン・グラント博士(サム・ニール)のもとへ、事業家のポール(ウィリアム・H・メイシー)とその妻アマンダ(ティア・レオーニ)が現われます。
2人は飛行機をチャーターし、恐竜が生息するというイスラ・ソルナ島上空をめぐるツアーのガイドをグラントに依頼します。グラントは研究資金の援助の見返りとして、島を上空から見学するだけという約束でポールたちに同行することにしましたが、約束に反して飛行機は島に着陸してしまいます。
実は夫婦はエリックの両親で、パラセーリング中に消息不明となったエリックを捜しに来たのでした。もちろん、事業家というのもウソでしたが、少年の命には代えられず、グラント博士は忌まわしい記憶を頼りにサイトBの奥へと向かいます。

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前2作を監督したスティーブン・スピルバーグが製作総指揮に専念することになり、『ロケッティア』『ジュマンジ』など、ファミリー向けのほのぼの系SFアドベンチャーに定評のあったジョー・ジョンストンが監督に大抜擢されました。

しかし、ジョンストン監督に超大作を託された気負いはまるで感じられません。のっけから体長13メートルの巨大肉食恐竜スピノサウルスで先制パンチを食らわせ、モンスターパニック映画としての期待を高め、全11種類に増えた恐竜を矢継ぎ早に見せます。

とはいえ、恐竜捕獲を目的とした前2作と比べると、恐竜の怒りもぐんと鎮まっているかのようにアクションシーンの迫力はやや控えめになりました。それはファミリー向けに徹した配慮だとも言えますが、やはりジョンストン的な穏やかな視点がなせる技でしょう。

そんなジョンストン監督の真骨頂はクライマックスの翼竜プテラノドンとの戦いで発揮されます。霧に煙った谷間で繰り広げられるバトルシーンのファンタスティックな情景は見ごたえがあります。

物語の舞台は2作目『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』(’97年)に登場したイスラ・ソルナ島のサイトB。1作目でジュラシック・パークの恐怖を体験した生物学者グラント博士が再び主人公です。

歳を重ねて気骨さを増したというグラント博士役にサム・ニールが再登板しているのはうれしい限り。息子の危機に敢然と立ち向かう元夫婦に扮したのは『ファーゴ』のウィリアム・H・メイシーと『ディープ・インパクト』のティア・レオーニ。アクション作には縁遠い2人のややぎこちない姿も緊迫感とほのぼの感を与えています。

親子愛を描いたシンプルなストーリーで94分の短尺となりましたが、恐竜たちをテンポの良い演出で見せ、息もつかせぬノンストップアクションの醍醐味を存分に味わうことができます!


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きっと、うまくいく(2009)

人生の成功を手に入れるには?
学歴社会に物申す、とびきり楽しいインド映画

2010年のインド映画興行収入第1位を記録したコメディタッチのヒューマンドラマ。インド国内のアカデミー賞で作品賞を含む16部門に輝くなど、高い評価を受けています。

エンジニアを目指す若者たちが集まるインド屈指の難関工科大学を舞台に、学歴偏重の競争社会の弊害を、緩いユーモアを交えつつも力強く訴えた痛快な作品です!

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【ストーリー】
ファルラーン(R・マドハヴァン)は飛行機が飛び立つ寸前、ある知らせを受けて、慌てて飛行機を降ります。そして、大学時代の親友のラージュー(シャルマン・ジョーシー)の家へ駆けつけます。ラージューも、その知らせを受けて、寝起き姿のまま飛び出し、2人は10年ぶりに母校の工科大学ICEへ向かうことに。
彼らを呼び出したのは同窓生のチャトル(オミ・ヴァイディア)でした。今や大企業の副社長となったチャトルは「自分が一番成功している」と得意気ですが、その成功を見せつけたい相手のランチョー(アーミル・カーン)の姿はありませんでした。
ランチャーはチャトルにとっては憎きライバルでも、ファルラーンとラージューにとっては無二の大親友。そうして、3人は大学を卒業以来音信不通のランチョーを探しに行くことにします。

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映画の中心になるのは、大学時代の日々。大学時代に何があったのか? ファルラーンたちがランチョーに会いたい理由が徐々に明らかになっていきます。

IT先進国のインドで、エンジニアになることは成功の証。ファルラーンは親の期待に応えるため、ラージューは貧困に苦しむ実家を助けるため、難関工科大学のICEに入学しますが、学生たちは厳しい教育者のヴィールー学長(ボーマン・イラーニー)の下、支配的な教師たちに理不尽な扱いを受けることになります。

しかし、ランチョ―だけは屈せず、理系らしい明晰な頭脳と、子どものようにピュアな探求心、そして、生きていく上で大切な信念で窮地を切り抜けていきます。

ランチョ―の信念とは、「きっと、うまくいく」ということ。理不尽な状況に置かれたチョ―は、「うまーくいーくー」と小声で唱えるのです。映画の中では、Aal Izz Well”(アール・イーズ・ウェルとは、“all is well”の視覚方言)と言っているそうですが、実際に唱えてみると心が軽くなる言葉です。

インド映画特有のミュージカルシーンがあり、インターミッションを挟んだ2部構成で、3時間弱の長尺となりました。その中には、おかしくも、切ない学生時代のエピソードが満載されています。

ちょっぴり不思議君のようなランチョーの破天荒ぶりや、そんなランチョ―とファルラーンやラージューが親友になるきっかけ、チャトルがランチョーを敵視する理由、ランチョーの恋、大学生たちの夢と悩みなどが、コミカルに描かれていますが、鋭い社会風刺も込められています。

底意地の悪いヴィールー学長の酷い仕打ちにより、エンジニアとしての未来を閉ざされた大学生の中には自死を考える者も……。笑えないエピソードの後に見せるランチョーの姿に痺れます。

学歴偏重の競争社会を真っ向から否定するランチョ―が事あることに訴えるのは、「点を取るための勉強ではなく、学識を身に付けること。優秀なら、成功は付いてくる」。近年、IT産業で急速な発展を遂げ、世界で存在感を示すインドですが、その一方で、鬱になる学生が増え、90分の1人の学生が自殺をしているといいます。今やインドは世界1位の自殺大国なのだそうです。

そんなインドの闇をあぶり出した本作品。“社会での成功”を上回る“大切なもの”とは何なのか? 果たして現在のランチョ―はどうなっているのか? 膨大なエピソードの末にたどり着くラストシーンには思わずニヤリとしてしまいます。


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人数の町(2020)

何も考えず、「人数」として生きれば楽?
恐ろしくも魅惑的な「町」を描くリアル・ファンタジー

ディストピア・ミステリーと呼ばれる本作品。ディストピアとはユートピア(理想郷)とは正反対の世界、つまり暗黒世界の意味です。

「人数の町」とは、人が「人間」としてではなく、「人数」として存在するだけの町。そこは社会のしがらみも、人間同士の軋轢もない“気楽”な世界ですが、自我や理性を捨て、「人数」としての役目を全うすることが求められます。

そんな“不条理”、いや、考えようによっては“魅力的”な町へやってきた若者・蒼山を通して、現代人が抱える闇を描き出しています。

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【ストーリー】
借金取りから暴行を受けていた蒼山(中村倫也)は、黄色いツナギを来た男(山中聡)に助けられます。男は蒼山のことを“チューター”と呼び、「“居場所”を用意してやる」と話しました。
男に誘われるまま、不気味なバスに乗った蒼山は、とある「町」にたどり着きます。そこでは簡単な労働と引き換えに衣食住が保証され、深く考えなければ、気の合う仲間たちと楽しく、穏やかに暮らすことができました。
簡単な労働とは、ネットへの書き込みや、別人を装っての選挙の投票、デモへの参加など、単なる「頭数」になることでした。それが問題行為や犯罪であっても気にしません。「町」へ帰ればバレないのだから……。

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不気味な設定だけに、「町」の謎や住民たちの秘密が徐々に明らかになる過程がスリリングで引き付けられます。

中村倫也が得意のひょうひょうとした雰囲気を醸しだし、不思議な物語世界へ自然に誘います。

「町」の暮らしを堪能する謎めいた美女(立花恵理)や、失踪した妹を探すために仕方なくやってきた紅子(石橋静河)などと接するうちに、社会のレールから脱落した蒼山が選んだ道とは?

厳しい社会で「人間」として生きるか、愉楽の世界で「人数」として生きるか? 本当にどこかにあるかもしれない「町」の生活を疑似体験し、自分の人生について考えてみるのもいいでしょう。

第1回木下グループ新人監督賞・準グランプリ受賞作。突飛な舞台設定を巧妙に練り上げたのは、監督・脚本の荒木信二。これまで多くのCMやMVを手掛けてきましたが、本作で長編映画監督デビューを果たしました。


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アントブリー(2006)

いじめっ子はアリの生活を体験すべし!
小さなアリたちが秩序と思いやりの心を説く

ピクサー・スタジオが『トイ・ストーリー』(’95年)で成功させたフルCG 長編アニメーションは画期的な技術で、映像革命とも呼ばれています。

以来、本家のピクサーはもちろん、スピルバーグが創設者の1人でもある映画製作会社ドリームワークスの『シュレック』(’01年)、ブルー・スカイ・スタジオ製作『アイス・エイジ』(‘02年~)など、さまざまな生き物を擬人化したフルCG長編アニメが本当にたくさん登場しました。

シリーズ化されるほどの大ヒット作もあれば、そうでない作品もありますが(こちらの方が圧倒的に多いです)、“アリ”の生活を体験する少年のアドベンチャーを描く本作は、正直、どれほどの方が観たいと思ったでしょうか……(;^_^A。

しかしながら、アリだからこそ伝えられるメッセージがありました!

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【ストーリー】
10歳の少年ルーカス(声/ザック・ニーカス)は引っ越してきたばかりで、友だちができず、挙句の果てに近所のガキ大将にいじめられる始末。そこでルーカスはいじめっ子にからかわれたうっぷんを庭のアリ塚を壊すことで晴らしていましたが、アリにとっては生命の危機にほかなりません。怒ったアリたちは魔法の秘薬でルーカスをアリのサイズにして、巣穴へ連れ込んでしまいます。ルーカスが元の体に戻れる条件は、秩序やチームワークを重んじるアリの習性を身に付けることでした。

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“ブリー”とは英語で“いじめ”のこと。その気はなくても、弱い者への八つ当たりは立派ないじめです。いじめられっ子が相手を変えて、いじめっ子になってしまう、という、人間の心に巣くう身勝手な部分をさりげなく、えぐり出します。

「ルーカスみたいな人はいませんか」と、キュートなCGキャラクターが結構、耳の痛い話をしてくれます。

アリや昆虫たちとのユニークなアドベンチャーを通して伝えるのは、秩序や仲間を思う心の大切さ。子どもはもちろん、大人もぜひ観てほしい作品です。

トム・ハンクスが『ポーラー・エクスプレス』(’04年)に続いて製作を手がけたフルCG長編アニメーションで、声優には、ニコラス・ケイジ(アリの魔術師ゾック)、メリル・ストリープ(女王アリ)、ジュリア・ロバーツなど、豪華スターが顔を揃えています。


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