映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

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明日の食卓(2021)

子育てを通して見えてくる人間の光と闇
誰にでも、どこか思い当たるリアルなドラマは必見

「息子を殺したのは、私ですか――」

ドキッとするようなキャッチコピーの付いた本作は、“石橋ユウ”という同姓同名の10歳の男の子を持つ3人の母親と、家族をめぐる物語。

年齢も住む場所も境遇も異なる、三者三様の子育てに励む母親たちの誰が、どんな理由で、自分の子どもを“傷つける”のでしょうか――。見ごたえあるドラマが幕を開けます。

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【ストーリー】
神奈川在住の43歳のフリーライター・石橋留美子(菅野美穂)はやんちゃ盛りの2人の息子に手を焼く毎日。10歳の長男・悠宇は反抗的で幼い弟とケンカばかり。フリーカメラマンの夫・豊(和田聰宏)は家庭を留美子に任せきりです。
そんなストレスのたまる日常を、留美子はブログ『鬼ハハ&アホ男児Diary』に綴り、せめてもの息抜きをしていました。
36歳の専業主婦・石橋あすみ(尾野真千子)は子どものために環境の良い静岡へ引っ越してきたばかり。夫・太一(大東駿介)の母・幸絵(真行寺君枝)が住む家の敷地内に瀟洒な家を建て、10歳の1人息子・優は素直な「いい子」に育ち、満ち足りた生活を送っていました。
大阪に住む石橋加奈(高畑充希)は30歳のシングルマザー。ローンを抱え、生活はぎりぎりですが、昼夜を問わず懸命に働き、10歳の1人息子・勇を大切に育てていました。

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映画は、これら3つの家族の生活を並行して描き、それぞれの家族に巣くう問題を明らかにしていきます。

仕事とワンオペ育児に疲れ切る留美子は反抗期の悠宇を頭ごなしに叱ってばかり。大人しい性格で、夫や姑に遠慮しているあすみは優に依存しています。貧困に苦しみながらも勇の前では明るく振舞う加奈の姿は勇を悩ませています。

みんな〈子どもを一番に思っている〉母親たちですが、その思いを子どもたちが正しく受け止めてくれるとは限りません。

無条件に慕い合うはずの母と子どもの思いがすれ違ってしまうのはなぜなのでしょうか?

ただ、一つ言えるのは、貧困や介護など大人が作り出した社会問題、そして、何より夫婦の関係が子どもたちに大きな影響を与えている、ということです。

親と子ども、どちら側の葛藤も共感できるストーリー展開にぐいぐい引き込まれます。そして、現代を象徴するような3つのタイプの母親像をリアリティたっぷりに演じた3人の女優たちの大熱演が光ります。

2016年に出版された椰月美智子の同名小説は、子育て世代を中心に大きな反響を呼びましたが、人間の心に宿る光と闇を鋭くえぐった本作は、誰にとっても、とても興味深い作品に仕上がっています。


明日の食卓 [ 菅野美穂 ]


明日の食卓(1) (角川文庫) [ 椰月 美智子 ]