映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

人生に迷えるアラフィフ女性が、映画を通して人生について考える。ネタバレなしの映画レビューサイト。

タワーリング・インフェルノ(1974)

超高層ビル火災の恐怖を壮大なスケールで描く
人気ハリウッドスターのヒーローっぷりにも注目

超高層ビル火災の恐怖を描いたパニックアクション映画の金字塔といえる作品です。

本作の2年前に製作された、転覆した豪華客船からの脱出劇を描いたパニックアクション映画『ポセイドン・アドベンチャー』(’72年)とともに、‘80年代は何度もテレビで放映されており、小学生だった私は本当に火事が怖くて仕方がなかった記憶があります。今でも、タイトルを聞いただけでも、真っ赤な炎に包まれた巨大ビルが浮かび、ゾワッとしてしまいます。

CG技術が発達した今から見ると、合成シーンが明らかだったりもするのですが、‘70年代の技術力で、ダイナミックかつドラマチックな映像を生み出し、観る者を楽しませようとしたハリウッド映画陣たちの心意気が感じられるのもいいです。

逃げ場を奪う炎を前にした人々のさまざまな人間ドラマを、ハラハラドキドキのアクションシーンとともに見せるストーリー展開の面白さもさることながら、本作を見応えあるものにしたのは、ハリウットの往年のスター、ポール・ニューマンスティーブ・マックイーンの豪華競演でしょう。

当時、2人はライバル関係にあったとか。クールなニューマンと、ワイルドなマックイーン。若かりしスター俳優たちのアクションシーンはとってもカッコいいです!実写撮影で生み出されたスペクタクルな火災シーンも、ぜひ映画館のスクリーンで観たかった、と思います。

******

【ストーリー】
サンフランシスコの新名所、地上138階の超高層ビル「グラスタワー」が落成式を迎えました。ビルは観光客や落成式の落成式典の関係者など、多くの人々が次々に訪れ、賑わいを見せています。建築家のダグ・ロバーツ(ポール・ニューマン)も婚約者スーザン(フェイ・ダナウェイ)とともにやってきました。
夜のパーティに向けて、スタッフが入念な準備をしている中、電気系統の異常が発生します。配線を調べたロバーツは自分の設計したのとは異なる配線工事がされていたことを発見。ビル建設の責任者ウィリアム・シモンズ(リチャード・チェンバレン)を問い詰めますが、認めようとはしません。
そして、来賓300人を集めたパーティが135階のボールルームで始まります。一方、81階の物置室でボヤ火災が発生します。誰にも気づかれないまま、火災は広がり、ついに中央保安室の保安係主任ハリー・ジャーニガン(O・J・シンプソン)が気づき、ロバーツらが駆け付けたときには部屋は火の海でした。ドアを開けた衝撃で、ダグの同僚ウィル・キディングズが火に包まれ、大やけどを負ってしまいます。
ロバーツはパーティをすぐに中止し、ビルから人を退避させるよう、ビルの社長ジェームズ・ダンカン(ウィリアム・ホールデン)に知らせますが、ジェームズは消防隊がすぐに消し止めるとして、まったく聞こうしません。
そんななか、消防隊が到着し、チーフのマイケル・オハラン(スティーブ・マックイーン)指揮の下、消火と救助活動が開始します。

******

ロバーツがビルの社長や責任者の不正な工事を暴いたり、ビルの80階以上の居住部分に住む富豪の未亡人リゾレット・ミュラージェニファー・ジョーンズ)が知り合いの親子を招いたり、パーティでは一見、紳士的な老人ハーリー・クレイボーンフレッド・アステア)と良いムードになったり、広報部長のダン・ビグロー(ロバート・ワグナー)がパーティをさぼって、秘書のローリー(スーザン・フラネリー)と秘密の情事を楽しんでいたりと、さまざまな立場の人々が集まるビル内部の様子が丁寧に紹介されます。

消防隊が駆け付けたのは、映画が始まってから40分後。車からマックイーンが現れる瞬間はいつも「待ってました!」と思ってしまいます。

映画はなんと(!)2時間45分の長尺なので、これからアクションシーンの連続です。81階で火災が起きたため、逃げられなくなった135階のパーティ会場での混乱を軸に、さまざまなサバイバルが繰り広げられます。

ストーリーの中盤では、ポール・ニューマンが体を張ったスリル満点のアクションを見せてくれます。一方、消防士たちに指示するだけのマックイーンは控えめにも思えましたが、彼の見せ場はクライマックスに来ます。

地上135階からの脱出劇がどんな展開を迎えるか。本当に最後まで波乱のドラマが続き、見応えがあります。

それにしても、今から45年以上前の作品ですが、「138階のビル」なんて、やっぱりアメリカのスケールはけた違いですね! ちなみに、映画公開の前年の1973年に開業したニューヨークの貿易センタービルは110階建てでした。


タワーリング・インフェルノ【Blu-ray】 [ スティーヴ・マックイーン ]


タワーリング・インフェルノ (字幕版)

ゴールデン・リバー(2018)

最強の殺し屋兄弟の欲望と再生の旅路
サスペンスフルなストーリー展開で惹きつける出色の西部劇

ジョン・C・ライリーホアキン・フェニックスジェイク・ギレンホールなど、アカデミー賞常連の実力派俳優が豪華競演を果たし、2018年のヴェネチア国際映画祭で、銀獅子賞(最優秀監督賞)に輝いた作品です。

ゴールドラッシュのアメリカを舞台に、殺し屋の兄弟が辿る壮絶な旅路が描かれます。

******

【ストーリー】
1851年のアメリカ、オレゴン。兄イーライ(ジョン・C・ライリー)と弟チャーリー(ホアキン・フェニックス)は、最強と恐れられる殺し屋「シスターズ兄弟」として、辺り一帯を取り仕切る提督の依頼を受け、悪事の限りを尽くしていました。
そんな2人の新たな仕事は、連絡係のモリス(ジェイク・ギレンホール)が捜し出すウォーム(リズ・アーメッド)という男を始末することでした。

******

2人がモリスを追って、サンフランシスコへ南下する道中で、キャラクターの違いがくっきりと浮かび上がります

傲慢で血の気が多いチャーリーと、そんな弟をボヤキながらも世話を焼く、実はロマンティストなイーライ。とりとめのないバカ話や激しいケンカ、時にはドジも犯す2人は残虐なのに、可笑しみが感じられます。

さらに、2人が道を外れたのは、非情な父親の存在があったことも分かり、悲惨な過去を共有する兄弟の強い絆が伝わってきます。

一方、モリスはひょんなことからウォームと知り合いになり、「砂金を採りに行く」というウォームと行動を共にします。化学者であるウォームは、「金を見分ける“予言者の薬”を作る化学式を発見したことから提督に狙われている」と告白します。提督はその化学式を奪うために、シスターズ兄弟を向かわせていたのです。

砂金で手に入れた金で「野蛮な世界を終わらせ、理想郷を作りたい」という、志の高い化学者ウォームと出会ったことで3人の悪党たちが変わっていきます――

理想と欲望、それぞれの思惑のために4人は手を組むことに。そして、いよいよウォームの薬を使い、砂金を採る晩、金を手に入れることで、未来を変えたいと望んだ男たちに衝撃的な出来事が起こります。

原作は、イギリスのブッカー賞最終候補に残ったパトリック・デヴィッドの『シスターズ・ブラザーズ』。監督は、カンヌ映画祭常連のフランスの名匠ジャック・オーディアール

悪人たちの駆け引きが横行するサスペンスフルなストーリー展開、血みどろの銃撃戦が繰り広げられる西部劇ならではの迫力のアクション、そして狂気と悲哀を滲ませるチャーリー役のホアキン・フェニックスを始めとする、完成度の高い演技を披露した俳優陣など、すべての要素がうまく絡み合った、出色の西部劇です。


ゴールデン・リバー【Blu-ray】 [ ホアキン・フェニックス ]

グラン・トリノ(2008)

クリント・イーストウッド監督・主演の名作
誇り高き孤独な老人が見せる男の生き様


ミスティック・リバー』(’03年)、『ミリオンダラー・ベイビー』(‘04年)での、自らの信念のために主人公たちが選択した、やるせない結末を観て、私はすっかりクリント・イーストウッドの監督作にはまってしまいました。

善悪では割り切れない、奥深い人間の感情。例え間違っていること、いけないことと分かっていても、尊厳や威厳、正義や愛のために選ばれた死の数々に深く考えさせられました。

本作の主人公は、朝鮮戦争で勲章をもらうほどの活躍をし、アメリカが誇る自動車メーカー、フォードの工場で50年間働いた、“ザ・アメリカン”な老人、ウォルト・クラコウスキー。

フォード社の伝説の名車であり、今ではビンテージカーとして人気の’72年型“グラン・トリノ”を大切に所有する彼は、いつしか旧い価値観に囚われた、気難しい老人になっていました。

それは、“正しく生きる”ことを心がけてきたためだったのですが、彼が頑なに信念を貫いてきた理由は何だったのでしょうか? 複雑な人間心理を考え抜いて、たどり着いたと思われる本作の結末にも驚かされます。

******

【ストーリー】
舞台はアメリカ・デトロイト。物語はウォルト(クリント・イーストウッド)の妻の葬儀シーンから始まります。ウォルトはトヨタの車に乗る息子や、へそピアスの孫娘を見て、あからさまに不機嫌になります。自分の価値観を軸に生きるウォルトは頑固で偏見がひどく、2人の息子たちも、会えば皮肉を言うウォルトとは距離を置いています。
彼の唯一の理解者だった妻の最期の願いは「ウォルトが懺悔すること」でしたが、ウォルトは懺悔を勧めるヤノビッチ神父(クリストファー・カーリー)にも辛辣な言葉を放ちます。
今や東洋人が多く住むようになったデトロイト。ウォルトは隣に東洋人一家が引っ越してきたことも気に入りません。
一方、ウォルトの隣に住むモン族のタオ(ビー・ヴァン)は庭いじりの好きな心優しい少年ですが、ギャングの従兄に目を付けられていました。
ある日、ギャングたちからウォルトの愛車グラン・トリノを盗むよう強要されたタオはウォルトの家に忍び込みますが、ウォルトに見つかり、銃を向けられてしまいます。
しかし、このことがタオをギャングたちから救うことになり、ウォルトはタオ一家と親しい近隣の東洋人たちから、熱烈なお礼を受けることになります。
次から次へと来るお礼の貢物に、最初は迷惑がっていたウォルトでしたが、タオの姉スー(アーニー・ハー)に誘われたホームパーティでの触れ合いを契機に、モン族の人々の無垢な温かさを受け入れるようになります。

******

『ミリオンダラー~』に続き、他人を寄せ付けない孤独な老人を演じるイーストウッドが本当に良い味を出しています。

礼儀や常識を欠いた息子一家や、他人を傷つけるギャングたちといった、許せない人々に出会った時に見せる、微妙なしかめ面など、終始、仏頂面の中にウォルトの心の変化を滲ませ、ウォルトという人物への興味を掻き立てます。

ギャングの脅しにひるまない、強くて聡明なスーに心を開いたウォルトは、彼女の依頼でタオが強く生きられるように手を尽くすことに。信頼を得るための良い悪態の付き方や、建築現場での仕事など、フランクはタオに昔気質の“男らしさ”を教え込みます。

しかし、前向きに仕事に取り組もうとするタオに、再びギャングたちが襲いかかります。正義漢のフランクはタオを守ろうとしますが、彼が「正しい」と信じて取った行動がタオ一家に悲劇をもたらします。

かつてアメリカに繫栄をもたらしたフォード社の“グラン・トリノ”が象徴するのは、アメリカの正義と誇りなのでしょう。それらを大切に守り抜いてきたフランクは、実はそうしなければならない哀しい理由がありました。フランクが他人に心を閉ざした原因も、そこにあったのです。

朝鮮戦争への出兵、フォード社での仕事など、アメリカの敷いたレールに乗ってきた人生は正しかったのか? ギャングとの対決に挑むクライマックスシーンで、フランクが見せた男の矜持イーストウッドの出した、深すぎる“答え”に痺れます。

エンドロールに流れる、イーストウッドが作詞に参加した、哀愁漂う主題歌も静かに胸に迫ります。

私は心の痛くなるようなシーンがあるので辛くなるのですが、本当に大好きな作品です。


グラン・トリノ【Blu-ray】 [ ビー・ヴァン ]


グラン・トリノ (字幕版)

ディパーテッド(2006)

ハリウッド屈指の男優たちが結集した
マフィアと警察とのスリリングな攻防戦

シリーズ化もされている人気香港映画『インファナル・アフェア』(‘02~’03年)が2006年、装いも新たにハリウッド映画化されました。

ギャング・オブ・ニューヨーク』(”02年)、『アビエイター』(”04年)に続いて、3度目のタッグを組むマーティン・スコセッシ監督と主演のレオナルド・ディカプリオに加え、マット・デイモンジャック・ニコルソンマーク・ウォールバーグなど、渋い男優陣の激突が見どころのギャング映画です。

******

【ストーリー】
舞台はマサチューセッツ州ボストン南部、通称サウシー。フランク・コステロジャック・ニコルソン)率いるマフィアに牛耳られた街は麻薬が蔓延し、警察はコステロ一味を撲滅させるために、日々、過激な闘いを続けていました。
そんな不毛な闘いに終止符を打とうする警察はコステロ一味を内部から崩壊させるため、新人警官ビリー(レオナルド・ディカプリオ)に潜入捜査を命じます。
一方、コステロも新人警官コリー(マット・デイモン)をスパイとして、警察に送り込み、何度も逮捕を逃れます。
コリーとビリーは、素性を隠しながら、任務をこなしますが、やがて互いの元へ潜入スパイを送り込んでいたマフィアと警察が、ともにスパイの影に気づき、スパイを探し始めます。

******

スパイ探しのスリル感がたまらない犯罪サスペンスの傑作として名高い香港版に対して、ハリウッド版はスパイとして生きるふたりの若者の人物描写に力を入れ、過酷な運命に翻弄される男たちのドラマに仕上げました。

悲痛な過去を背負ったスパイを演じるレオナルド・ディカプリオと、マット・デイモン、マフィアの非情さを見せ付け、スパイ探しの緊張感を高めるジャック・ニコルソンら、俳優陣がとにかく良いです。

香港版のプロットと見せ場のアクションをさらに衝撃的なものにしたスコセッシ監督の演出手腕も冴えわたっています。

スコセッシ監督は本作で初めて米アカデミー賞の作品賞と監督賞を受賞。それまで何度もノミネートされながらオスカーに手の届くことのなかった名匠の悲願の受賞に、会場ではスタンディングオベーションが起こりました。

リメイク作品として初めてオスカーを受賞した作品にもなりました。常々、ハリウッド映画のリメイクものの多さに否定的な声も聞かれるなか、ハリウッド屈指の熱い男たちが集まった本作は、そんな声を黙らせる圧巻の出来映えです。


ディパーテッド【Blu-ray】 [ レオナルド・ディカプリオ ]


ディパーテッド (字幕版)

美女と野獣(1991、2002)

《他者への優しさ》を知る、未熟な野獣の心の成長に共感
美しい映像とストーリーで魅了する名作ディズニーアニメ

心の醜い野獣と、愛に溢れる聡明な美女ベルのラブストーリーはいつまでも色褪せません

アニメ史上初めてアカデミー作品賞にノミネートされたディズニーアニメ映画『美女と野獣』(’91年)は、『リトル・マーメイド』(’89年)から始まるディズニー第2次黄金期を象徴する作品です。

でも、その評価がディズニーアニメの枠に留まることの無いことは、今さら語るまでもないでしょう。

本作の公開当時、大学生だった私は女友達4人と映画館へ観に行き、4回泣きました。途中から気づいた友人に映画を観終わった後、爆笑され、かなり後まで笑い種にされました( ´艸`)が、愛を知らない野獣の“いじらしさ”に、とにかく涙が止まらなかったのです。

******

【ストーリー】
美しくも傲慢な王子は、一晩の宿を求めた老婆の願いを、彼女の醜い容姿のために断り、追い返してしまいます。すると老婆は美しい魔女へと姿を変え、人を見かけで判断した王子を醜い野獣へと変えてしまいます。彼が元に戻るためには、冷たい心を溶かし、「真実の愛」を知ることが必要でした。
一方、とある街に、発明家の父モーリスと暮らすベルは美しく、聡明で父親思いの女性でした。ある日、発明大会へ出かけたモーリスが誤って野獣の城に迷い込み、野獣に捕えられてしまいます。すると、ベルは父を救い出すために、父の身代わりとなり、野獣の城へ残る決心をします。
こうして、心優しい美女ベルは恐ろしい野獣と2人で暮らすことになります。

******

醜い心のために、醜い野獣にされてしまった王子は、世捨て人のように孤独な日々を送っていましたが、それでも改心することはなく、ベルにも横暴な態度を取ります。

ベルはそんな野獣に我慢ができず、城を飛び出しますが、森の中でオオカミに襲われそうになってしまいます。オオカミがベルを襲おうとしたとき、飛び出してきたのは野獣でした。

ベルを心配し、傷だらけになりながらも、オオカミと戦い抜いた野獣。危険を顧みず、なりふり構わず、ただベルを救おうとする野獣は本当にカッコよかった――
そして、彼の行為が“優しさ”から来ることを、当の野獣が気づいていないところがいじらしくて、泣けてきます。

そんな不器用な野獣が、彼の優しさに気づいたベルと少しずつ距離を縮めていく中盤は、微笑ましくも、ベルの愛に応えようとする野獣のひたむきな姿に泣けました。

さらに、魔女の呪いで、ティーポットや置き時計などの家財道具に変えられてしまった城の家臣たちにも泣かされました。愛らしい風貌をした彼らはとってもお茶目で、ユーモラスなのですが、根底には野獣を信じる優しさがありました。野獣の改心を健気に待つ家臣たちの“いじらしさ”もたまりません!

ベルを我が物にしようとする、ハンサムだが下品な自惚れ屋、ガストンが加わったラブストーリーは波乱の連続で、アクションシーンもスリリングで見応えたっぷりです。クライマックスでの、野獣とガストンとの死闘は、心から野獣を応援せずにはいられません

こんなにも涙腺を刺激されたのは、キャラクターの表情が素晴らしいからでしょう。優しい気持ちを持ち始めた野獣の、困ったような不安げな表情。孤独の哀しみを強がることで押し殺してきた野獣の、なんといじらしいこと! 未熟な野獣が少しずつ心を成長させていく姿は、私の心に深く刺さりました。

本作が多くの人の心を捉えるのは、《他人への優しさや思いやりの心》が溢れているからでしょう。

****************************************************

映画公開から11年後の2002年にリバイバル上映された『美女と野獣』には、大きなスケールの舞台が用意されました。

‘91年製作のオリジナルにデジタル処理を施した映像の鮮明さと、前作ではカットされた7分間のミュージカルナンバー『ヒューマン・アゲイン』の復活が目玉となり、2002年1月1日より全世界同時公開された劇場版は、ラージスクリーンフォーマット版として、アイマックスシアターで上映されました。

陰鬱さと獰猛さの中に深い孤独と絶望を滲ませる野獣の姿が物語のキーになりますが、鮮明な映像の効果は野獣の造型に最も発揮されています。美しい恐怖が加わり、より重厚で芸術性の高いアニメ作品となりました。


美女と野獣 (字幕版)


美女と野獣 MovieNEX [ ペイジ・オハラ ]

そして父になる(2013)

実の子どもか、育ての子どもか
親と子が互いに抱くピュアな愛に涙が止まらない

本作を映画館で観たとき、近くにいた40代の女性が早々に泣き始め、物語が半分程過ぎた頃、隣にいた30代の男性が声を殺して泣いていました。その後、2人は涙を流し続けました。そして、終盤には映画館のあちこちですすり泣く声が響きました。

もしも6年間育てた息子が他人の子供だったとしたら……。子どもを持つ人は我が事のように心を痛め、子どもがいない人は自分を育ててくれた親の愛を思い返すでしょう。

「赤ちゃん取り違え」というショッキングな事件を題材にした本作は “親子の絆”について考えさせます。

誰もが自分の子どもや親を思い、切なくなる物語は、日本のみならず世界からの共感を得、2013年度のカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞しました。

******

【ストーリー】
一流大学を卒業し、大手建設会社に勤める野々宮良多(福山雅治)は専業主婦のみどり(尾野真千子)と一人息子の慶多(二宮慶多)と都心の高級マンションで暮らしていました。
一方、群馬で電気店を営む斎木(リリー・フランキー)と妻のゆかり(真木よう子)は長男・琉晴(黄升炫)を筆頭に3人の子供たちや年老いた父親と倹しくも賑やかに暮らしています。
ある日、6歳の慶多と琉晴が産まれた病院で取り違えられていた事が判明します。2組の両親は困惑しながらも、子どもたちが“本当の家族”と暮らすべきかどうか、摸索するために交流を始める。

******

実の子か育ての子か、という苦渋の選択を迫られる親の姿が、野々宮夫妻を中心に描かれます。

自分の力で人生を勝ち取ってきたエリートの良多は、この重い命題にも心ない態度を見せますが、そこには彼自身が未熟な父に翻弄された苦い過去が関係していました。

嫌いな父に反発しつつも、「血は争えない」ことを実感する野々宮の一言で、2組の親はついに“交換”を決断します。

脚本も手掛けた是枝裕和監督は、事件の発覚から交換後の生活まで、4人の親と2人の子どもの6者6様の反応をリアリティたっぷりに描写しました。

4人の俳優陣の迫真の演技もさることながら、2人の子役の自然な演技が涙を誘います。冒頭の30代の男性は、不安な表情の慶多が出るたびに顔を覆って泣いていました。

一番、父親然としている野々宮が、実は一番子供のことを分かっていませんでした。野々宮のような父親は現実にたくさんいるのかもしれません。

2組の家族が過酷な試練の末に気付いたのは、子どもは“かけがえのない存在だ”ということ。そんな当たり前のことにしみじみと感じ入ります。

家族のことをじっくりと考える大切な機会を与えてくれる秀作です。



そして父になる



そして父になる Blu-rayスタンダード・エディション

インソムニア(2002)

24時間日の沈まない明るい世界が
人間の心の闇を明らかにする

『バッドマン・ビギンズ』(‘05年)、『ダークナイト』(’08年)、『インターセプション』(‘10年)、『TENET テネット』(’20年)など、作品ごとに面白さの度合いを増してくるクリストファー・ノーラン監督は、新作が最も楽しみな監督の1人という人も多いのではないでしょうか?

私は、最新技術を駆使した、挑戦的でトリッキーな映像世界と、人間の精神世界をかき乱すような複雑なストーリー展開に、毎回、ドップリはまってしまいます。

本作は監督の出世作であるサスペンスミステリーメメント』(’00年)の次作として発表された作品です。

インソムニア』とは“不眠症”のこと。犯人捜しのミステリーを軸に、追い詰められた人間の恐怖心を描き出した心理サスペンスドラマです。

******

【ストーリー】
24時間太陽が沈まない町、アラスカのナイトミュートで17歳の少女の変死体が発見されます。その死体は髪を洗われ、爪を切られた形跡がありました。この猟奇殺人事件の捜査にやって来たLA.市警のベテラン、ドーマー警部はやがて不眠症に悩まされます。

******

それがいつまでも照りつける太陽のせいなのか、心に宿った罪の意識のせいなのか。判別不能の恐怖が次第にドーマーの正気を奪っていきます。

メメント』の独特な語り口と映像センスで注目されたノーラン監督が、観る者を追い詰められたドーマーの心の中へと引きずり込みます。

捜査中に誤って同僚を射殺してしまい、現場工作して罪を逃れようとする主人公ドーマーにアル・パチーノ。その不正行為を目撃し、ドーマーに自分の罪を見逃すように持ちかける、ふてぶてしい猟奇殺人犯ウィルにロビン・ウィリアムズ。大胆な取引が交わされた事件の真相を暴く純朴な女性警官にヒラリー・スワンク

これらの今では本当に貴重なアカデミー俳優たちの激突も見どころです。


インソムニア [DVD]