映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

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グラン・トリノ(2008)

クリント・イーストウッド監督・主演の名作
誇り高き孤独な老人が見せる男の生き様


ミスティック・リバー』(’03年)、『ミリオンダラー・ベイビー』(‘04年)での、自らの信念のために主人公たちが選択した、やるせない結末を観て、私はすっかりクリント・イーストウッドの監督作にはまってしまいました。

善悪では割り切れない、奥深い人間の感情。例え間違っていること、いけないことと分かっていても、尊厳や威厳、正義や愛のために選ばれた死の数々に深く考えさせられました。

本作の主人公は、朝鮮戦争で勲章をもらうほどの活躍をし、アメリカが誇る自動車メーカー、フォードの工場で50年間働いた、“ザ・アメリカン”な老人、ウォルト・クラコウスキー。

フォード社の伝説の名車であり、今ではビンテージカーとして人気の’72年型“グラン・トリノ”を大切に所有する彼は、いつしか旧い価値観に囚われた、気難しい老人になっていました。

それは、“正しく生きる”ことを心がけてきたためだったのですが、彼が頑なに信念を貫いてきた理由は何だったのでしょうか? 複雑な人間心理を考え抜いて、たどり着いたと思われる本作の結末にも驚かされます。

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【ストーリー】
舞台はアメリカ・デトロイト。物語はウォルト(クリント・イーストウッド)の妻の葬儀シーンから始まります。ウォルトはトヨタの車に乗る息子や、へそピアスの孫娘を見て、あからさまに不機嫌になります。自分の価値観を軸に生きるウォルトは頑固で偏見がひどく、2人の息子たちも、会えば皮肉を言うウォルトとは距離を置いています。
彼の唯一の理解者だった妻の最期の願いは「ウォルトが懺悔すること」でしたが、ウォルトは懺悔を勧めるヤノビッチ神父(クリストファー・カーリー)にも辛辣な言葉を放ちます。
今や東洋人が多く住むようになったデトロイト。ウォルトは隣に東洋人一家が引っ越してきたことも気に入りません。
一方、ウォルトの隣に住むモン族のタオ(ビー・ヴァン)は庭いじりの好きな心優しい少年ですが、ギャングの従兄に目を付けられていました。
ある日、ギャングたちからウォルトの愛車グラン・トリノを盗むよう強要されたタオはウォルトの家に忍び込みますが、ウォルトに見つかり、銃を向けられてしまいます。
しかし、このことがタオをギャングたちから救うことになり、ウォルトはタオ一家と親しい近隣の東洋人たちから、熱烈なお礼を受けることになります。
次から次へと来るお礼の貢物に、最初は迷惑がっていたウォルトでしたが、タオの姉スー(アーニー・ハー)に誘われたホームパーティでの触れ合いを契機に、モン族の人々の無垢な温かさを受け入れるようになります。

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『ミリオンダラー~』に続き、他人を寄せ付けない孤独な老人を演じるイーストウッドが本当に良い味を出しています。

礼儀や常識を欠いた息子一家や、他人を傷つけるギャングたちといった、許せない人々に出会った時に見せる、微妙なしかめ面など、終始、仏頂面の中にウォルトの心の変化を滲ませ、ウォルトという人物への興味を掻き立てます。

ギャングの脅しにひるまない、強くて聡明なスーに心を開いたウォルトは、彼女の依頼でタオが強く生きられるように手を尽くすことに。信頼を得るための良い悪態の付き方や、建築現場での仕事など、フランクはタオに昔気質の“男らしさ”を教え込みます。

しかし、前向きに仕事に取り組もうとするタオに、再びギャングたちが襲いかかります。正義漢のフランクはタオを守ろうとしますが、彼が「正しい」と信じて取った行動がタオ一家に悲劇をもたらします。

かつてアメリカに繫栄をもたらしたフォード社の“グラン・トリノ”が象徴するのは、アメリカの正義と誇りなのでしょう。それらを大切に守り抜いてきたフランクは、実はそうしなければならない哀しい理由がありました。フランクが他人に心を閉ざした原因も、そこにあったのです。

朝鮮戦争への出兵、フォード社での仕事など、アメリカの敷いたレールに乗ってきた人生は正しかったのか? ギャングとの対決に挑むクライマックスシーンで、フランクが見せた男の矜持イーストウッドの出した、深すぎる“答え”に痺れます。

エンドロールに流れる、イーストウッドが作詞に参加した、哀愁漂う主題歌も静かに胸に迫ります。

私は心の痛くなるようなシーンがあるので辛くなるのですが、本当に大好きな作品です。


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グラン・トリノ (字幕版)