映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

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華氏119

トランプ大統領誕生がアメリカをどう変えるか?
稀代のドキュメンタリー映画監督、マイケル・ムーア渾身の一作

2020年11月3日はアメリカ大統領選。アメリカ国内外を問わず、この日を待ち望んでいた人は多いのではないでしょうか?

2016年11月9日、ドナルド・トランプが大統領選に勝利しましたが、大方の予想どおり、就任直後から、彼の独断的な行動の数々は、アメリカはもとより、世界に混乱をまき散らしていました。

この作品は2018年、多くの人々が“ありえない”と思っていたはずのトランプ大統領の誕生から2年の時を経て公開されたドキュメンタリー映画。製作は『ボーリング・フォー・コロンバイン』『シッコ』など、病めるアメリカの原因をつくった当事者たちにアポなし突撃取材を敢行し、アメリカの社会問題に深く切り込んできたマイケル・ムーア監督です。彼は、投票日前からトランプの当選を予想し、来たる暗黒時代を危惧していましたが、その声は届きませんでした。

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【ストーリー】
公職未経験のビジネスマン、しかも破天荒な言動で知られた、“要注意人物”トランプがなぜ大統領になれたのでしょうか。アメリカ人の士気を低めた民主党予備選の顛末や、得意の舌戦で富裕層の共和党議員を攻撃し、労働者層の支持を集めたトランプの巧妙な選挙戦など、トランプ大統領を生んだ政治的背景が、ムーア独自のブラックユーモアを交えたシニカルな語り口で明かされます。

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さらにムーアは、トランプ大統領を生んだ原因として、アメリカ市民を悩ますさまざまな地域の問題を取り上げます。ミシガン州では、トランプの旧友である実業家リック・スナイダーが州知事に当選し、権力を乱用していました。とくにムーアの故郷でもあるフリントでは、彼が金儲けで支援した公共事業の民営化により、人災的な水質汚染が発生し、子どもたちに深刻な被害が出たようです。

激しくなる一方の市民からの抗議に追い詰められた知事は、当時の大統領オバマに助けを求めます。市民は“弱者のヒーロー”オバマに期待しますが、市民との対話集会でオバマはフリントの水を飲むパフォーマンスを見せます。これには市民ならずとも、民主党への失望を抱かざるを得ません。

そんな政治家たちの性根や、奇行満載のトランプの言動を紹介した後に見せるのは、腐敗した権力と闘うために立ち上がった市民たちの姿。「誰もやらないなら私がやろう」と議員に立候補する労働者、低賃金への抗議ストライキを決行する教師や学校関係者、学校内での銃乱射事件に怒り、銃規制を強く訴えるフロリダ州の高校生たち……。

批判をしているだけでは、物事は解決しません。より良い未来を築くために、一致団結して行動するアメリカの人々の姿に素直に感動します。明るい希望を抱かせるラストが清々しい!

それにしても、実業家時代のトランプとテレビ共演していたり、彼の元側近スティーブン・バノンから支援を受けていたりと、ムーア監督の意外なつながりが本作に絶妙な “味”をもたらしています。

ムーアが注目された『ロジャー&ミー』で描かれた、ゼネラル・モーターズの大量解雇問題に続き、彼の故郷フリントに悲惨な出来事が起こったのは、残念なつながりでしたが、何といっても痛快なつながりは、『華氏119』といってもタイトルです。そのネタ元は、9.11からイラク戦争へと進んだブッシュ政権の闇を暴いた、自身の代表作『華氏911』。どちらもアメリカ大統領が主人公という点にもにやりとさせられます。

アメリカを良くしたい」という思いが、この偶然の産物をもたらしたのでしょうか? 運や縁を“持ってる”ムーア監督は、まさに稀代のドキュメンタリー映画監督といえるでしょう。

トランプと対峙する荒療治を乗り越えて、アメリカがより良くなることを切に願いたい、と公開時は思ったのですが……。

あれから2年、コロナウィルスの影響もあり、さらに世界中が先の見えない混とんとした状況に陥っているなか、めぐってきたアメリカ大統領選。その結果のもたらす意味は、今まで以上に大きいような気がします。


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