映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

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ブラザー・ベア(2003)

目には目を、熊嫌いには熊を
人間の若者キナイが荒療治の末に知った真実の愛

本作は44作目のディズニー長編アニメ映画なのですが、ディズニーにしては地味な作品といえるでしょう。

ディズニーアニメの代名詞である〈ミッキー・マウス〉や〈くまのプーさん〉のような人気キャラクターものでも、『白雪姫』や『美女と野獣』のような、ヒーローとヒロインが登場するファンタジックな王道ラブストーリーでもありません。

本作が制作された2003年は、ピクサー社がアニメ界に革命を起こしたフル3DCGアニメが隆盛を極め、昔ながらの2Dで製作されるディズニーアニメは低迷期を迎えていました。(ただ、2000年初頭のディズニーアニメは、技術に加えて、キャラクター造詣やストーリーにも“難”があったように思うのですが……)

そんな中、2003年に制作された本作は、〈『ライオン・キング』(’94年)以来、ディズニーが10年ぶりに自然界に生きる動物たちの姿を描いた作品〉という宣伝文句でアピールしていたのですが、正直、私は、観る前はキャラクターにも、ストーリーのテーマにもあまり魅力を感じませんでした。

ところが、ところが……。実際に観てみると、とても素晴らしくて、本当に心を打たれました!

愛らしいキャラクターの登場する動物映画は子ども向けだと思われがちですが、ディズニーが再び動物の世界へ戻ってきたのは、そこが他者への理解や友愛の精神を伝えるのに一番ふさわしい場所だからでしょう。

驕りのために熊に変えられた人間の若者キナイが、荒療治の末に知った真実の愛が鮮明に浮かび上がります。

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【ストーリー】
キナイ(声/ホアキン・フェニックス)は強さに憧れる、相当に自信家の男です。太古の時代、成人した若者にはグレイトスピリット(精霊)から人生を導くトーテムを授けられますが、キナイは愛の象徴である熊のトーテムを与えられてがっかりします。
腹いせに強さを誇示しようと1頭の熊を追い回し、そのせいでしっかり者の長兄シトゥカが命を落としてしまいます。その後、復讐心に駆られて熊を殺したキナイは自然界の掟に背いたために、なんと熊に変えられてしまいます。

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写実的な氷の崖での熊との格闘シーンに続いて、芸術的なキナイの変身シーンへ。作品ごとに映像のグレードをアップさせるディズニー作品の中でも、これらの映像の素晴らしさは驚きに値します

さらに本作では視覚的にユニークな試みが行なわれています。始めはビスタサイズで幕を開けるものの、キナイが熊として目覚めるシーンからシネマスコープサイズに切り替わります。広大な大地でさ迷うキナイの気持ちを実感できるようにするためです。

熊に変わったキナイは母親とはぐれたひとりぼっちの子熊コーダと出会い、コーダの目的地であるサーモン・ランに向かいます。

旅のお供はほかにもユーモラスなヘラジカの兄弟、そしてキナイの次兄デナヒ。突然消えたキナイを熊に殺されたと思い込み、彼もまた復讐のために追ってきたのです。

コーダとの交流で人間の驕りを知り、反省したキナイ。だが事はそう簡単には終わりません。心優しいデナヒを狂わせたのも、コーダを傷つけたのも、愛を蔑ろにしたせいだと気づいたキナイはある決心をします。

結末はディズニーらしくありませんが、一番自然な形でしょう。兄弟愛というオーソドックスなテーマながら、切り口は斬新です。

リアルに徹した動物キャラクターはインパクトに欠けるものの、奇をてらわない着実性に好感が持てます。

作り込まれたフル3Dアニメにすっかりお株を奪われた2Dアニメですが、熊のように深い愛のある製作者たちと独自の道を歩み続けているのだという思いに至り、とても感動しました。

2003年の米アカデミー賞長編アニメ賞やアニー賞映画部門作品賞にノミネートされており、高評価を得ました。

でも、本作の完成後に、オーランドのウォルト・ディズニー・ワールド内にあったアニメスタジオはアニメ部門の不振を理由に閉鎖されてしまいました。

そして、ディズニーアニメも3D映画へ本格的に参入していきます……。


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