映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

人生に迷えるアラフィフ女性が、映画を通して人生について考える。ネタバレなしの映画レビューサイト。

バレットモンク(2003)

ハリウッド映画界で奮闘するチョウ・ユンファ
三枚目の弾丸坊主(バレットモンク)に挑む

公開時、弾丸坊主〉という宣伝コピーには笑ってしまいましたが、『バレットモンク』とは実際にそういう意味なのだから仕方がありません。

弾丸さえ避ける無敵の力を持つ、主人公のチベット僧に扮するのは、香港ノワール映画『男たちの挽歌』シリーズ(’86~’89年)に主演し、香港映画界のトップスターとなったチョウ・ユンファ

ハリウッド映画界に進出しても、アクションスターとしての呪縛から逃れられないようですが、本作ではアクションもさることながら、彼が構築した不思議な味のあるキャラクターに惹きつけられます。

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【ストーリー】
チベット僧侶の間に代々伝わる奇跡の巻物は、三つの預言を成就し不死身の体と崇高な精神性を与えられた僧が守り続けています。60年間にわたりこの役目を務めた僧(チョウ・ユンファ)は後継者を探していました。巻物を狙うナチスの残党に追われ、ニューヨークにたどり着いた彼はスリの若者カー(ショーン・ウィリアム・スコット)と出会います。そして、線路に落ちた少女の救出に協力したカーの優しさを見抜き、彼を後継者と見込んで接近します。

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袈裟を彷彿させる茶色の上着に、バッグをたすきにかけた無名僧侶の風貌はまるでお上りさん。仏のような笑みを絶やさず、ストーカーのごとくカーにつきまとって邪険にされる姿はかなり気の毒です。

アクションシーンでは、華麗なワイヤースタントや得意の二丁拳銃さばきも披露しますが、本作のユンファは三枚目に徹しています。

巻物を狙うナチスの残党との闘いに発展する荒唐無稽なストーリーは、アメコミが原作と聞けば納得。自虐的な開き直りも感じられる作品ですが、ハリウッド俳優として険しい道程を進むユンファは、ちょっと気分転換したかったのかもしれません。

製作は『男たちの挽歌』のジョン・ウーが務めており、昔ながらの香港カンフー映画ファンなら、たまらない作品でしょう。


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アルマゲドン(1998)

世紀末の不穏な雰囲気を吹き飛ばす!
ハリウッドらしいデザスターアクション娯楽大作

「1999年7月、空から恐怖の大王が舞い降りて人類が滅亡する――」。小学生の時に『ノストラダムスの大予言』を知った私は、1999年になるまで、実はちょっぴり怖かったです(;^_^A。

また、ヨハネ黙示録に示された「ハルマゲドンが襲来し、世界を滅亡させる」という終末思想も盛り上がり、私は「ハルマゲドン」という曰くありげな響きにも、かなりの恐怖を覚えました(;^_^A

そんな不穏な20世紀末を目前にした1998年、デザスター(災害)アクション映画『アルマゲドン』が満を持して公開されました。地球に小惑星が激突するのを阻止すべく、立ち上がった8人の勇敢な男たちの姿を描いたハリウッド大作です。
※『アルマゲドン』は「ハルマゲドン」の英語読み。

地球の滅亡という衝撃的なテーマにふさわしく、製作費1億3千8百万ドルをかけた壮大なスケール作品となりましたが、タイムリーな話題に乗っかり、ただただ最新鋭のアクションシーンを見せたいだけのハリウッド映画かと思いきや、胸を熱くする人間ドラマも盛り込まれており、大ヒットの記録ととともに、記憶にも残る娯楽作となりました。

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【ストーリー】
宇宙で小惑星が爆発し、無数の隕石群が火の玉となって降り注ぎ、ニューヨークを壊滅させました。そして、その18日後には巨大な小惑星が地球を直撃し、世界中を壊滅させてしまうことが判明。それを阻止するには小惑星の地中240メートル下まで穴を掘り、核爆弾を仕掛け小惑星の軌道を逸らすしかありませんでした。そんな人類を救うミッションを命じられたのが、石油採掘のプロフェッショナル、ハリー・スタンパー(ブルース・ウィルス)でした。
ハリーはNASAの頭でっかちの宇宙飛行士ではなく、ともに石油発掘場で働く7人の仲間たちを、命を懸けたミッションの遂行者に選びました。そして、NASA内部からの反発をよそに8人の石油採掘人たちと6人のスペースシャトルの操縦士たちは宇宙へ旅立って行きます。

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CG技術が格段に進歩した1990年代後半、ハリウッドでは、『ディープ・インパクト』(’96年)、『ツイスター』(’97年)、『ボルケーノ』(’97年)など、デザスター(災害)パニックアクション映画がブームになりました。本作もそれらの中の1本ですが、けた違いのスケールで、大きな話題を集めました。

小惑星激突による地球滅亡、という前代未聞の災害に見舞われる本作では、地球を救うヒーローに選ばれたハリーのほか、人間くさいキャラクターたちが物語を熱く盛り上げています。

ハリーを始め、ガテン系の石油採掘員たちは我が道を行く自由人。命がけのミッションを前にして、「税金をただにしてくれればやる」なんて、軽口を叩きあっています。

しかし、表面では陽気にふるまっていても、実は家族を幸せにできないことに対する後ろめたさに長年苛まれている者も。ハリーもその一人で、一人娘のグレイス(リブ・タイラー)を思うあまりに、彼女とこっそり付き合っていた部下のA.J.(ベン・アフレック)にきつく当たってしまいます。この複雑な父心が熱いドラマを生み出します。

“ハイテクのNASA”対“ローテクの労働者たち”という構図も見どころの本作品。労働者の代表、無骨なハリーを演じたブルース・ウイリスがさすがの存在感です。個性的な7人の石油採掘員には、ビリー・ボブ・ホーソンや、スティーブ・ブシェーミピーター・ストーメアらインデペンデント映画界の実力者に加え、当時は注目株の若手俳優だったベン・アフレックやクライブ・オーウェンが扮しており、今観ると、とても贅沢な共演陣です。

製作はアクション映画のヒットメーカージェリー・ブラッカイマー、監督は『バッド・ボーイズ』(’95年)、『ザ・ロック』(’96年)のマイケル・ベイ。後に悪名高き『パール・ハーバー』(’01年)を生み出したコンビによる、このアクション大作は、実はゴールデン・ラズベリー賞で作品賞を含む7部門にノミネートされてしまいました。(そのうち、ブルースが最低男優賞、ベン&リブが最低カップル賞を受賞しました……。)

確かに一般人の石油採掘人たちが宇宙活動をこなしてしまうという、ご都合主義的で、ツッコミどころ満載の展開ですが、意表を突き、そして、思わず胸が熱くなるクライマックスシーンが本作を記憶に残る映画にしていると思います。

エアロ・スミスが歌う主題歌『I Don't Want to Miss a Thing』もバラードの名曲で、大団円のラストシーンを盛り上げました。

ニューヨーク、上海、パリに炎の塊となって降り注ぐステロイド小惑星)の脅威、そして一瞬にして焼き尽くされた大都市の無惨な光景は、CG映像とはいえ、衝撃的です。

決して絵空事ではない地球の未来の映像からは、地球規模から考えると私たちの営みがほんのちっぽけなことでしかないことを思い知らされます。そして、突如、地球を守る使者になった石油採掘員たちからは、この世に蔓延しているおごりを捨て、勇気を持つことの大切さを教えられます。

ただし、全世界の危機を救うアメリカ人たちを、世界中の人々が固唾をのんで見守る光景は、アメリカ礼賛がすごすぎて閉口しますが……( ´艸`)。

20世紀末に生まれた、ハリウッドらしい“豪快な”娯楽作は、21世紀になり、さらに不穏になった今観ると、実は平和で明るい未来に向けた映画なのだと、感慨深いです。


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ドライブ・マイ・カー(2021)

祝! 米アカデミー賞作品賞ノミネート
村上春樹の小説世界を完全再現
喪失感からの再生を丁寧に描く


村上春樹の小説の魅力は、ままならない不条理な世の中で、戸惑い、苦悩しながらも、自分らしい生き方を見い出す人々の姿を描き、さりげなく人生に希望を抱かせてくれるところではないでしょうか。

村上春樹の同名短編小説を映画化した本作も、深い悲しみを秘めながら生きる主人公が、さまざまな境遇の人々との出会いを通して再生する姿をゆったりとしたテンポで描いていきます。

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【ストーリー】
物語冒頭、舞台俳優・劇作家として活躍する家福(西島秀俊)と、脚本家の妻・音(霧島れいか)との満ち足りた生活が描かれます。
激しい営みを交わした家福と音はその後、音の語る謎めいた寝物語を聞きながら、幸せそうに余韻に浸ります。そして、愛車のサーブで仕事場へ向かう家福は車中で音の吹き込んだセリフに合わせて、芝居のけいこをするのが習慣です。
そんな音を大切に思う家福がある日、音のショッキングな秘密を知ってしまいます。しかし、その真意を聞き出せず、悶々とするなかで、音が急逝してしまいます。
2年後、家福はサーブで広島へ向かっていました。彼は広島の演劇祭で上演する『ワーニャ伯父さん』の演出を依頼され、数日間、滞在することになっていたのです
けいこ場から離れたホテルに滞在する家福には専属ドライバーが付くことになっていましたが、家福はこれを拒否します。古いサーブは扱いにくい上、車中ではまだ音の音声テープを聞くのが習慣だったからです。
しかし、主催者側の提案でテストドライグの末、運転技術に長けた若い女性、みさき(三浦透子)に運転を任せることにします。

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リアルとファンタジーが交錯した不思議な村上ワールドの映像化に挑んだのは、『寝ても覚めても』の若き俊英・濱口竜介監督。喪失感にさいなまれる家福の心を癒す道程を丁寧に描き、上映時間2時間59分の長尺となりましたが、どこへ物語が飛んでいくか分からない浮遊感はまさに小説の世界そのもの。小説ではなく、映像のページをめくっているような不思議な感覚に、素直に身をゆだねるのも悪くありません。

元々、大部分を韓国・釜山で撮影することになっていたそうですが、コロナ禍のために国内での撮影に変更。多面性を持つ広島の街並みや、クライマックスの舞台となる北海道の大雪原など、キャラクターの心の機微を表現したかのような雄弁なロケーションも見どころとなっています。

包容力のある西島秀俊、陰のある三浦透子、妖艶な霧島れいか、そして、物語のキーパーソンとなる自由奔放な若手俳優・高槻を演じた岡田将生など、熱烈なファンの多い村上ワールドのキャラクターたちを全身全霊で演じたかような俳優たちの静かな熱演も光ります。

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日本映画では史上初めて、アカデミー賞の作品賞にノミネートされるという快挙を果たしました。“村上春樹原作の映画化”と言えば、相当期待値は上がりますが、その期待に見事にこたえ、これ以上ないくらいの結果を出しました。

アカデミー賞の受賞式は3月27日(日本時間では28日)。映画好きとしては、ワクワクしながら待ちたいです!


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スキャナー・ダークリー(2006)

麻薬が生み出す妄想世界の恐怖を描く
キアヌ・リーブス主演のフルCG長編アニメ

CGアニメ技術が急速に発達した2000年代、世界中のアニメスタジオが“世界初”をめざし、斬新さを追求したCGアニメ映画を続々と作り出しました。

本作はフルCG長編アニメーションですが、キアヌ・リーブスを主演に迎え、ほかにもロバート・ダウニー・Jr.やウィノナ・ライダーが出演しています。

本物の俳優が演じた実写映像をコンピュータで着色していく「ロトスコープ」という手法を用いて、本物そっくりのCGアニメ俳優が生み出されました。

奇抜なポップアート風の映像と、人生について語る哲学的なストーリーで話題を呼んだ『ウェイキング・ライフ』(’01年)のほか、『ビフォア・サンセット 恋人たちのディスタンス』(‘95年)、『6才のボクが、大人になるまで』(’14年)など、実験的な作品ながら。高い評価を受けるクリエーター、リチャード・リンクレイター監督がユニークな映画を作り上げました。

フィリップ・K・ディックの人気小説『暗闇のスキャナー』をアニメ化しようという斬新な試みでもあります。これだけの俳優が揃うならば本物の演技が見たいところですが、麻薬が生み出す妄想世界の恐ろしさをリアルに実感させるために、俳優の幻が演じているような感覚を与える映像は悪くありません。

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【ストーリー】
近未来、カリフォルニア郊外の一軒家で3人の麻薬常用者が共同生活を送っていいます。家主のフレッドは実はボブ・アークター(キアヌ・リーブス)という名の覆面麻薬捜査官であり、居候のジム(ロバート・ダウニー・Jr.)とチャールズ(ロリー・コクレーン)の行動を監視し、アメリカに蔓延している強力なドラッグ物質Dの出所ルートを調べる潜入捜査を行なっていました。みずからもDを服用したフレッドが脳に異変を感じはじめたころ、上司のハンクから「ボブ・アークターを監視しろ」という不可解な命令を受けます。
しかし、捜査オフィスの監視カメラで自分も含めた3人の生活を監視すると意外な事実が浮かび上がります。

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麻薬で命を縮めたディックの原作は、麻薬中毒患者の不毛な日々と悲劇的な末路を描くことが目的で、近未来SFは単なる体裁に過ぎない節があります。

原作に忠実な映画版でも、麻薬中毒者たちの与太話を淡々と描き出します。麻薬の一番の犠牲者ボブを演じたキアヌ・リーブスは相変わらず悩める男がよくはまります。お調子者でありながら抜け目のないジム役のロバート・ダウニー・Jr.はうさんくさい雰囲気を漂わせるのが本当にうまいです。実際の俳優の巧妙な演技を完璧に表現したCG映像に驚かされます。

麻薬に飲み込まれて行く人間の愚かさを滑稽に描きながら、最後に麻薬根絶の必要性を高らかに訴えます。

体に虫が湧く幻覚に悩まされる中毒患者や、ボブが捜査オフィスで着用する変幻自在のスクランブルスーツなど、強烈な映像はいくらCG技術が発達したとはいえ、実写映画では土台無理です。

奇をてらうだけでなく、意味のあるアニメ化です。


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ヤクザと家族 The Family(2021)

家族を一途に求めたヤクザの哀しき20年
生き辛い世の中だからこそ見つめ直したい家族の絆

政府の闇に斬り込むというタブーに挑み、日本アカデミー賞作品賞を受賞した社会派ドラマ『新聞記者』の制作チームが再結集。犯罪と暴力、さらには死とも隣り合わせの裏社会、ヤクザの世界で生きざるを得なかった男の姿を通し、家族の絆について考えさせます。

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【ストーリー】
第1章は1999年。19歳の山本賢治綾野剛)は荒れていました。元証券マンの父はバブル崩壊後に覚せい剤に手を出し、死亡。母もすでになく、身寄りのない賢治は悪友の細野(市原隼人)らとその日暮らしを送っていたのです。
ある日、行きつけの焼き肉店にいた賢治たちは、柴咲組組長・柴咲博(舘ひろし)をチンピラの襲撃から救います。その後、賢治は細野らと父の仇とばかりに覚せい剤の売人を襲いますが、侠葉会のヤクザたちに捕まり、殺されそうになってしまいます。
しかし、賢治らは博の名刺のおかげで解放されます。一命をとりとめた賢治は柴咲組に迎え入れられ、自暴自棄になっていた自分を救ってくれた博に心の救いを得ます。そして、2人は父と子の契りを交わし、賢治はヤクザの世界へ足を踏み入れたのでした。

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序盤から凄惨な暴力シーンが連続し、ヤクザの世界の狂気と恐怖を存分に知らしめます。バブル崩壊という負の社会に飲み込まれ、家庭環境に恵まれなかった賢治が、唯一手を差し伸べてくれたヤクザの世界に、家族のような繋がりを感じたとしても無理はないかもしれません。

3部構成の物語は続いて、第2章の2005年と第3章の2019年の賢治とヤクザの世界を描き出します。

第2章は持ち前の一本気を武器にヤクザの世界で男をあげつつあった賢治の活躍とホステスの由香(尾野真千子)とのささやかな愛、そして抗争に巻き込まれた挙句の逮捕という、賢治が辿る転落劇を、迫力のアクションと情感あふれるドラマで見せます。

そして、見どころは第3章の2019年。この映画がヤクザ映画として革新的なのは、今のヤクザの世界を描こうとしたことでしょう。

14年の刑期を終えて出所した賢治が直面するのは、ヤクザにとって非情な現実社会。暴対法の影響で柴咲組は衰退し、組を抜けた細野は結婚して、父親になっていましたが、ヤクザの過去を必死に隠しながら生きていました。

細野は「ヤクザを辞めても、人間として扱ってもらえるまでに5年はかかる」という“5年ルール”の厳しさを口にします。それは由香との愛を取り戻し、新しい家族を求めて更生しようとした賢治にも否応なく襲いかかります。

SNSを通した人間の好奇と悪意、半グレ集団という狡猾な若者たちの暗躍など、今の社会にはびこる狂気を絡ませた終盤は、誰もが生き辛い世の中で、家族という“安らかな居場所”を求めるヤクザたちの不器用な姿が哀しく映ります。

激動の20年間を辿る賢治を繊細に演じた綾野剛を始め、迫真の演技でリアリティ溢れるヤクザの世界を見せてくれた舘ひろし豊原功補ら俳優陣の力演が光っています。


ヤクザと家族 (角川文庫) [ 藤井 道人 ]

初雪の恋 ヴァージン・スノー(2007)

日韓の若手スターたちが初々しい高校生に扮した
心が洗われる、ピュアで古風な初恋物語

NANA』(’05年)の宮崎あおいと韓流映画『王の男』(’05年)のイ・ジュンギがW主演を務めた日韓合作映画です。

当時、日韓の映画界で目覚しい活躍を見せていた実力派の若手俳優が京都とソウルを舞台に切ないラブストーリーを繰り広げています。

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【ストーリー】
父親の仕事の都合で京都に住むことになった韓国人の高校生ミン(イ・ジュンギ)は偶然立ち寄った神社で、怪我の手当てをしてくれた巫女姿の女の子、七重(宮崎あおい)に一目ぼれします。
転校した高校で、偶然にも七重と同級生になったミンは七重に猛アタック。始めは、積極的にアプローチするミンに戸惑っていた七重も、やがてミンのひたむきさと誠実さに触れて心を開き、二人は恋人同士になります。
しかし、幸せの真っただ中で突然、七重が姿を消してしまいます。

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デビュー作『ホテルビーナス』(’04年)や一躍脚光を浴びた『王の男』、クールな高校生を演じた『フライ・ダディ』(’07年)など、内面に苦悩や葛藤を抱えた男性を演じてきたイ・ジュンギにとって、快活で熱いミンのような明るい役は本作が初めて。

物語前半では、屈託のない笑顔をはじけさせ、恋にときめく男子高校生をはつらつと演じて新しい顔を見せています。

一方、清楚で奥ゆかしい京女の七重を演じる宮崎あおいは、表情豊かに七重の喜びや悲しみを表現。愛らしい顔立ちにも魅せられ、観る者の目を釘付けにする名演を随所で見せます。

南禅寺や嵐山など、古都・京都のしっとりとした情景の中で育まれる初恋は、古風でまるで夢物語のよう。若い2人の出会いと別れ、そして再会を描いたシンプルな物語ですが、韓国の新人ハン・サンヒ監督は、情感あふれるシーンをちりばめて、好きなのに離れてしまった2人の切ない恋の世界へと誘い込みます。

終幕、すれ違いを繰り返してもなお、「初雪の日は恋人と一緒に」という、韓国の恋人たちの愛の証であるロマンティックな風習に最後の願いを託すミンと七重の姿が切々と胸に迫ります。

純愛の切なさと美しさを見事に描き出し、心が洗われる物語です。


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オリジナル・サウンドトラック「初雪の恋 ヴァージン・スノー

ハチ 約束の犬(2009)

日本が誇る忠犬ハチ公がハリウッドへ
心優しい秋田犬と温かい人々の姿が心に沁みる

大正時代、東京・渋谷駅の片隅で帰らぬ主人を9年もの間、じっと待ち続けた秋田犬のハチ。渋谷駅ではその姿が銅像として残されるほど、日本で長年、愛され続けてきた忠犬ハチ公の逸話が、2009年、ハリウッドで映画化されました。

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【ストーリー】
ひょんなことから、秋田犬の仔犬がアメリカへ配送されてしまいます。アメリカの東海岸の郊外ベッドリッジに住む大学教授のパーカー(リチャード・ギア)は、駅のホームに取り残された秋田犬の仔犬を見つけます。そして、愛犬を亡くした悲しみの癒えない妻ケイト(ジョアン・アレン)の反対を押し切り、飼うことにします。
仔犬の首輪に漢字の「八」の字が刻印されていたことから、パーカーは仔犬を「ハチ」と名付けます。パーカーの愛をたっぷり受けて育ったハチは、毎朝、パーカーを駅まで見送り、午後5時になると迎えに行くのが習慣でした。
しかし、パーカーが大学の講義中に突然、他界してしまいます。以来、パーカーの死がわからないハチは駅でパーカーを待ち続けるのでした。

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日本を代表する秋田犬アメリカの地に違和感なく交わるかどうか注目されましたが、リチャード演じるパーカーがハチとの絆を築いていく前半から胸に熱いものが込みあげます。

ハチを心から愛するパーカーと、パーカーの愛を静かに受け止めるハチ、さらに仲睦まじい2人を温かく見守る町の人々など、純朴なキャラクターたちにどっぷり感情移入してしまいます。

そして、何といっても、昼も夜も、雪の日でも、駅の改札口をつぶらな瞳で見つめ、ただひたすらにパーカーを待ち続けるハチの姿はやっぱり涙を誘います。年齢ごとにハチを演じた3匹の秋田犬たちが貫禄たっぷりに名演を見せています。

主演を務めたリチャード・ギアが脚本に感動して、共同製作を手がけ、ギアの盟友ラッセ・ハルストレム監督を抜擢。『ギルバート・グレイプ』(’93年)、『ショコラ』(’00年)など、田舎町を舞台に、しみじみとした、味わい深い人間ドラマを手掛けてきたハルストレム監督は奇をてらったハリウッド映画とは一線を画す、穏やかで心が洗われる会心のリメイクを作り上げました。


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HACHI 約束の犬(字幕版)