映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

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ヤクザと家族 The Family(2021)

家族を一途に求めたヤクザの哀しき20年
生き辛い世の中だからこそ見つめ直したい家族の絆

政府の闇に斬り込むというタブーに挑み、日本アカデミー賞作品賞を受賞した社会派ドラマ『新聞記者』の制作チームが再結集。犯罪と暴力、さらには死とも隣り合わせの裏社会、ヤクザの世界で生きざるを得なかった男の姿を通し、家族の絆について考えさせます。

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【ストーリー】
第1章は1999年。19歳の山本賢治綾野剛)は荒れていました。元証券マンの父はバブル崩壊後に覚せい剤に手を出し、死亡。母もすでになく、身寄りのない賢治は悪友の細野(市原隼人)らとその日暮らしを送っていたのです。
ある日、行きつけの焼き肉店にいた賢治たちは、柴咲組組長・柴咲博(舘ひろし)をチンピラの襲撃から救います。その後、賢治は細野らと父の仇とばかりに覚せい剤の売人を襲いますが、侠葉会のヤクザたちに捕まり、殺されそうになってしまいます。
しかし、賢治らは博の名刺のおかげで解放されます。一命をとりとめた賢治は柴咲組に迎え入れられ、自暴自棄になっていた自分を救ってくれた博に心の救いを得ます。そして、2人は父と子の契りを交わし、賢治はヤクザの世界へ足を踏み入れたのでした。

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序盤から凄惨な暴力シーンが連続し、ヤクザの世界の狂気と恐怖を存分に知らしめます。バブル崩壊という負の社会に飲み込まれ、家庭環境に恵まれなかった賢治が、唯一手を差し伸べてくれたヤクザの世界に、家族のような繋がりを感じたとしても無理はないかもしれません。

3部構成の物語は続いて、第2章の2005年と第3章の2019年の賢治とヤクザの世界を描き出します。

第2章は持ち前の一本気を武器にヤクザの世界で男をあげつつあった賢治の活躍とホステスの由香(尾野真千子)とのささやかな愛、そして抗争に巻き込まれた挙句の逮捕という、賢治が辿る転落劇を、迫力のアクションと情感あふれるドラマで見せます。

そして、見どころは第3章の2019年。この映画がヤクザ映画として革新的なのは、今のヤクザの世界を描こうとしたことでしょう。

14年の刑期を終えて出所した賢治が直面するのは、ヤクザにとって非情な現実社会。暴対法の影響で柴咲組は衰退し、組を抜けた細野は結婚して、父親になっていましたが、ヤクザの過去を必死に隠しながら生きていました。

細野は「ヤクザを辞めても、人間として扱ってもらえるまでに5年はかかる」という“5年ルール”の厳しさを口にします。それは由香との愛を取り戻し、新しい家族を求めて更生しようとした賢治にも否応なく襲いかかります。

SNSを通した人間の好奇と悪意、半グレ集団という狡猾な若者たちの暗躍など、今の社会にはびこる狂気を絡ませた終盤は、誰もが生き辛い世の中で、家族という“安らかな居場所”を求めるヤクザたちの不器用な姿が哀しく映ります。

激動の20年間を辿る賢治を繊細に演じた綾野剛を始め、迫真の演技でリアリティ溢れるヤクザの世界を見せてくれた舘ひろし豊原功補ら俳優陣の力演が光っています。


ヤクザと家族 (角川文庫) [ 藤井 道人 ]