映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

人生に迷えるアラフィフ女性が、映画を通して人生について考える。ネタバレなしの映画レビューサイト。

ムウ(2009)

衝撃を呼んだ手塚治虫原作コミックの映画化に挑んだ話題作
美しきモンスターが悪しき政府に制裁を下す

手塚治虫が70年代後半に発表した同名コミックは、人間の原罪や政治悪に切り込む大胆なテーマ性のために発表当時は大きな衝撃を呼んだといいます。

実写で映像化するまでに30年の歳月を要した禁断の物語が2009年についに幕を開けました。

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【ストーリー】
ある島で発生した全島民虐殺事件で、たった2人生き延びた少年がいました。日本政府によって闇に葬られたその事件が16年後、恐ろしい殺人鬼を生み出します。
エリート銀行員の結城(玉木宏)は虐殺事件の生き残りで、事件の真相を探り、政府に加担した者たちを次々に殺していきます。
もう一人の生き残り、島の神父となった賀来(山田孝之)は、結城の犯行を止めようとしますが、悪魔のような結城の報復はエスカレートしていきます。

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虐殺を黙認した政府=悪党に死の裁きを与えるため自らも悪党になっていく結城の姿は、世の中にはびこる悪意の循環を具現化したもの。爽やかさが持ち味で人気の源でもある玉木宏が悪役に初挑戦、7キロの減量で端正な顔立ちに陰影が生まれ、美しきモンスターの雰囲気は出ています。

しかし、稀代の悪党たる凄み、また悲壮な体験を背負った悲しきモンスターとしての深みに欠けるのは否めません。結城に奔走される悲劇の神父、賀来を繊細に演じた山田はさすがの演技力を見せます。

「日本映画史上“規格外”のアクション映画を撮る」という製作陣の意思の元で作られた本作品。

結城の計画が人類滅亡へと向かう壮大な設定にふさわしく、映像やアクションシーンもスケールが大きいのですが、ドラマチックな展開をあおる臭い演出や陳腐な描写もちらほら見られるのはアクション娯楽超大作の宿命でしょうか……。

結城を執拗に追う沢木刑事に石橋凌、虐殺事件の真相や「ムウ」の謎に迫る新聞記者・牧田に石田ゆり子が扮しています。


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96時間(2008)

名優リーアム・ニーソンが孤高のアクションヒーローを大熱演
緊張感みなぎるタイムリミットサスペンス映画

シンドラーのリスト』『マイケル・コリンズ』の名優リーアム・ニーソン主演のアクション・スリラー。シリアスな役柄でキャリアを築いたニーソンが、その重厚な個性を十分に活かし、しびれるほどカッコいいアクションヒーローを生み出しました。

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【ストーリー】
ブライアン(リーアム・ニーソン)はアメリカ政府の元秘密工作員。別れた妻(ファムケ・ヤンセン)は一人娘のキム(マギー・グレイス)を連れて再婚しており、ブライアンは長年疎遠になっていたキムとの絆を修復するため、キムの17歳の誕生パーティに駆けつけます。しかし、精一杯の心を込めたプレゼントは、資産家の継父のプレゼントの前にかすんでしまいます。

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ブライアンの悲哀と孤独がにじむ幕開けですが、離婚の原因はブライアンの危険な任務と自分の判断を押しとおす頑固な性格だったことが次第に明らかになります。と同時に、娘を心から愛するブライアンの切ないまでの親心も伝ってきます。

ブライアンは、キムが女友達とパリ旅行へ行くのを、キムの安全のために断固反対しますが、毎日、携電話で連絡することを条件に渋々許します。しかし、1回目の連絡の最中、友人とキムが何者かにさらわれてしまいます。

単身パリへ乗り込んだブライアンが、秘密工作員として体得した特殊技能を駆使して娘の行方を追う姿が描かれます。

人身売買マフィアによってさらわれたキムの身が保証されるのはわずか4日間と判明。電話越しで知り得たわずかな情報から、ブライアンがじわじわと犯人へ迫る様子はスリルと緊張感に満ち、見応えたっぷりです。

娘の救出の前に立ちはだかる悪漢を次々に殺していくブライアンの姿は無茶苦茶で狂気的にも映りますが、娘を思うあまりの行動と思えるのは、冒頭に丁寧に描かれたブライアンの境遇と、切れ味鋭いアクションをきびきびとこなすニーソンの渾身の演技の賜物です。

製作と共同脚本を手掛けるのはリュック・ベッソン親子愛の物語としても、アクション映画としても上出来ですが、女性が憧れる華やかな街パリに潜む裏社会の実態を告発した点も大いに評価できます。

リーアム・ニーソンが“意外にも”アクションヒーローにはまり、本作は続編2作が製作されています。


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告発のとき(2007)

イラク戦争さ中に痛切に訴えた帰還兵の悲劇
より良い社会へのメッセンジャーポール・ハギス渾身の1作

2004年度のアカデミー作品賞受賞作『ミリオンダラー・ベイビー』の脚本家として注目され、翌年発表した『クラッシュ』では、初監督にしてアカデミー賞作品賞受賞の快挙を果たしたポール・ハギスの監督2作目です。

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【ストーリー】
2004年11月、ハンク(トミー・リー・ジョーンズ)は、イラク戦争から帰還したばかりの息子マイク(ジョナサン・タッカー)が軍隊から失踪したと知らせを受けます。ハンクは軍隊が示唆した脱走の可能性を信じられずにマイクの行方を捜し始めますが、やがてマイクは凄惨な焼死体となって発見されます。ハンクは地元警察の女性刑事エミリー(シャーリーズ・セロン)と共にマイク殺害の真相を追いかけます。

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ハギス作品の素晴らしさは、不測の事態に直面した人々の思いもかけない行動を通して、変貌する人間心理や、そんな人間心理の一因となった米国が抱える社会問題を告発する点、そして、人々を苦しめる社会問題もまた、人間が作り出したものであることをまざまざと見せ付ける点です。

本作で告発されるのは、米国が主導したイラク戦争大義愛国心の名の元に、多くの若者を戦地へと送り込んだのは誰なのか。元軍人警官で、息子が戦地で立派に勤めを果たすことを期待していたハンクもまた事件の一旦とはいえないか?

映画公開時は各国兵士のイラク駐留が長期化しており、多くの米国民がイラク戦争の是非を再考するなか、ハギスはイラク戦争の弊害を声高に訴えました。

米『プレーボーイ』誌に掲載された実在のイラク帰還兵士殺害事件の記事をモチーフにポール・ハギスが脚本化。実際の犯人は仲間の帰還兵だったといいます。

ベトナム戦争以来、多くの映画監督に描き尽くされた帰還兵士の心の闇が再び身近な問題になるとは。

荒みゆく現代を如実に物語る作品ですが、それを止めるのは、平和を願う我々人間だということにも思い至らせます。人々がこの映画から受けた衝撃と痛みを過酷な現実を変える力とすることを切に願います。

息子のために死力を尽くす無骨なハンクを熱演したトミー・リー・ジョーンズは、アカデミー主演男優賞にノミネートされました。

告発のとき (字幕版)

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  • 発売日: 2016/11/06
  • メディア: Prime Video
告発のとき [DVD]

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  • 発売日: 2009/01/07
  • メディア: DVD

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チェ(2008)

べ二チオ・デル・トロが心血を注ぎ、再現した
人間愛に溢れる革命家、チェ・ゲバラが選んだ壮絶な生き様

トラフィック』の社会派監督スティーブン・ソダーバーグが、カリスマ革命家チェ・ゲバラの実像に迫った『チェ』2部作を製作しました。

第1部『28歳の革命』では、彼の名を知らしめたキューバ革命への険しい道のりのなか、一介の医師からゲリラ戦士、そして多くの人々の心を捉えた革命家へと成長していくチェの姿が描かれます。

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【ストーリー】
1955年、アルゼンチン人医師チェ・ゲバラベニチオ・デル・トロ)は、貧困に苦しむラテンアメリカの人々を救うため南米大陸を旅していたとき、フィデル・カストロデミアン・ビチル)と出会います。故国キューバ独裁政権を倒すために立ち上がったカストロに賛同したチェは、軍医としてゲリラ軍に加わります。

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国への反逆を志願するくせ者たちが入り交じるゲリラ軍の中で、チェがいかに振る舞い、統率者として確固たる地位を築いたか?

チェは戦闘に知識の必要性を説き、若い兵士に読み書きを教えたり、貧しい農民たちに手厚い医療を施したりと博愛精神を発揮したかと思えば、裏切り者には容赦ない罰を与えます。彼が取る行動は、人間が持つ誠実さに反応していたことがうかがい知れます。

人間にとって大切なのは、人を敬う誠実な心であるというのが彼の信念であったのでしょう。でなければ、1964年、彼がキューバ革命を成功させた後に行った国連総会での歴史的なスピーチは生まれません。

キューバ革命の道程と呼応するかのように挿入されたこのスピーチが誕生する過程もまた、人間愛に溢れるチェの姿を浮かび上がらせます。

第2部『39歳別れの手紙』で描かれるのは、2度目の革命となるはずだったボリビアでのゲリラ活動の苦難の日々。28歳から39歳というわずか10年余りの物語ですが、革命に生きたチェの変貌ぶりはすさまじい!

肉体的にも精神的にもチェの人間性に迫ったベニチオ・デル・トロカンヌ国際映画祭で主演男優賞を受賞しました。

チェ 28歳の革命

チェ 28歳の革命

  • メディア: Prime Video
チェ 39歳別れの手紙 (字幕版)

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  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video


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ブーリン家の姉妹(2008)

16世紀、イングランド王妃の座をめぐる姉妹の愛憎劇の顛末を描いた同名ベストセラー小説の映画化です。

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【ストーリー】
イギリスの片田舎に住むトーマス・ブーリン卿には、2人の娘アン(ナタリー・ポートマン)とメアリー(スカーレット・ヨハンソン)がいました。妹メアリーは政略結婚で裕福な商人の息子ウィリアムと結ばれますが、優しいウィリアムとの穏やかな幸せに満足していました。
一方、姉のアンは、父のブーリン卿や叔父のノーフォーク公爵の策略に従い、国王ヘンリー8世の愛人候補に名乗りを上げます。勝気なアンは、鹿狩りのためブーリン家に滞在中のヘンリー8世に積極的に迫りますが、ヘンリーが選んだのは貞淑なメアリーでした。

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一族の繁栄のために、王の愛人となり、世継ぎとなる男子を産むことを求められた姉妹。権力と富を求めた大人の陰謀に巻き込まれたかに見える姉妹ですが、アンがとてつもない欲望と野心の持ち主だったことから、ブーリン家に想像を絶する悲劇が待ち受けます。

実在の女性アンは、計画ずくでヘンリー8世の愛を勝ち取ると離婚を迫り、イギリスのローマ・カトリック教会からの脱会、新教創設という歴史的事件を導き、最後には不義姦通罪で処刑された悪名高き女性。しかし、皮肉なことに英国を救う稀代の女王エリザベス1世の母という顔も持ちます。

そんなエキセントリックな女性アンとヘンリー8世との間に起った史実にベースに、対照的な生き様を見せる姉妹の愛と確執が描き出されます。

自分を差し置き、王の愛人となったメアリーへの嫉妬心から魔性の女へと変貌していくアンと、メアリーを始め、アンにより運命を狂わされたブーリン家が辿る戦慄の運命があますところなく描かれ、見ごたえがあります。

鬼気迫るナタリー・ポートマンの演技には思わず身震いしてしまいます。


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サイン(2002)

ミステリーサークルはなぜ現れたのか
シャマラン流の解釈がある意味、衝撃的なスリラー映画

M・ナイト・シャマラン監督の興味は人の人生を描くことにあるのでしょう。その表現方法をサスペンススリラーの中に見出したことが彼の特異な点だと思います。

シックス・センス』では霊感のある少年、『アンブレイカブル』では不死身の男。シャマラン監督は特殊能力を備えた人間が謎めいた出来事に翻弄される様をスリリングに描き、衝撃的なラストを仕掛けます。

しかし、すべての謎が明かされたときに鮮烈な印象を与えるのは、恐怖よりも人生の指針を見つけた主人公の姿でした。シャマランがオリジナル脚本と監督を手掛けた『サイン』はこの独自の映画スタイルをさらに極めています。

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【ストーリー】
フィラデルフィアの片田舎に住む農夫グラハム(メル・ギブソン)の農場に突如、巨大なミステリーサークルが出現し、以来、彼の身の回りで不思議な現象が次々に起こります。町中の動物が凶暴化し、グラハムは異常な素早さで畑から逃げる不審人物を目撃します。
幼い娘ボー(アビゲイル・ブレスリン)は家中に水の入ったコップを置いて回るという奇妙な行動を繰り返し、息子モーガン(ローリー・カルキン)は物置で見つけた子供用レシーバーで不気味なノイズをキャッチします。

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公開時は前2作の『シックス・センス』『アンブレイカブル』以上にストーリーを語ることが制限され、ラストの秘密保持が徹底されました。でも、「それも無理はない」と思わせる驚くべき光景に遭遇します。

ミステリーサークル出現の謎に端を発したサスペンスから、見えない敵に翻弄される『エイリアン』さながらのアクションへスムーズな移行を遂げます。観終わってみれば実に奇抜なストーリーですが、不慮の事故で妻を亡くしたグラハムの深い喪失感を浮き彫りにするセリフや挿話の数々が生き、荒唐無稽になることを免れました。

不安感を増長させる絵作り、ヒッチコックスタイルのスリラーを彷彿させる強弱の激しいサウンドなど、迫り来る恐怖を演出する腕も冴え渡ります。そして、一級のスリラー作品という以上に、シャマラン流の人生哲学が心に訴えかけます。

人間にとって、人生最大の謎は〈神のみぞ知る〉と形容される“運命”にほかなりません。突然我が身に降りかかった悲劇を前に〈なぜ自分だけが〉と神を呪いたくなることもあるでしょう。

本作でシャマラン監督は自力ではコントロール不能な運命の謎に肉薄し、人生における偶然は必然の産物という答えを、説得力を持って導き出しました。

サイン [Blu-ray]

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  • 発売日: 2010/12/22
  • メディア: Blu-ray


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ブレインゲーム(2016)

予知能力を操る元FBI捜査官とサイコパスとの激突を描くサイコスリラー
アンソニー・ホプキンスコリン・ファレルの演技対決に注目

ハリウッドきっての名優アンソニー・ホプキンスと、強烈な個性を放つ怪優コリン・ファレルが競演したサイコスリラー。

予知能力を持つ元FBI 捜査官とサイコパスとの、スリリングな“頭脳戦”が描かれます。

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【ストーリー】
FBI特別捜査官のジョー(ジェフリー・ディーン・モーガン)と相棒の女性捜査官(アビー・コニッシュ)は、連続殺人事件の捜査に行き詰まり、元同僚のアナリスト兼医師ジョン・クランシー博士(アンソニー・ホプキンス)に助けを求めます。
ジョンは、娘の死をきっかけに隠遁生活を送っていますが、事件に特別な感情を抱き、捜査に協力します。
予知能力を持つジョンは、少年やセレブ婦人など、一見何の関係もない被害者たちの間にある共通点を明らかにします。そして、容疑者のチャールズ(コリン・ファレル)が、自分以上の能力を持っていることに気づくのです。

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挑発的な犯人が犯す猟奇殺人に加え、娘の死に囚われたジョンの存在自体が謎めいています。予知能力という異次元の能力を操るキャラクターが主人公ですが、2人の実力派俳優の抑揚のある演技が物語にリアリティを与えます。

ホプキンスはさすがの存在感で作品を引き締め、狂気的なチャールズを演じるファレルは、堂に入ったキレっぷりでクライマックスのアクションシーンを盛り上げます。

世界的ヒットを記録したデヴィッド・フィンチャー監督のサイコスリラー『セブン』の続編として噂された “幻の『Ei8ht(エイト)』”のベースになっていたのが、本作の脚本であるといいます。

映画全編、不穏な気配に包まれた、陰鬱な雰囲気は確かに『セブン』に通じますが、『セブン』ほどの衝撃はないのは、残念というか、ほっとしたというか……。

ブレイン・ゲーム(字幕版)

ブレイン・ゲーム(字幕版)

  • 発売日: 2019/02/06
  • メディア: Prime Video
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  • 発売日: 2019/03/06
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