映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

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潜水服は蝶の夢を見る

過酷な運命を突きつけられたらどうするか?
絶望を希望に変えて生きる心の力

重度の脳梗塞で倒れ、全身麻痺となったフランス人男性ジャン=ドミニク・ボビーが、清らかな“心”で人生を見つめた渾身の自伝が、2007年に映画化されました。

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【ストーリー】
1996年、43歳のジャン・ドー(マチュー・アマルリック)は、世界的なファッション雑誌『ELLE』の花形編集長として、華麗なキャリアのまっただ中にいました。内縁の妻とは女性問題で破局しましたが、3人の子供たちに恵まれ、愛する恋人もいました。自信と活力に満ち溢れ、欲しいものは何でも手に入れ、思いのままに人生を歩んできたようなジャン・ドーが、ある日突然、左目以外の体の機能を失い、自由を奪われてしまいます。
病院で目覚めたジャン・ドーは、意識は正常なのに体が動かないために、感情や意思がまったく伝えられなくなっていました。ロックトシンドローム(閉じ込め症候群)という希少な後遺症で、有効な治療法がないなか、まず必要だったのは、ジャン・ドーが意思を伝えられる手段を作ることでした。

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「人生一寸先は闇」。何が起こるか誰にも予測不可能ですが、ジャン・ドーの身に起きた出来事はあまりにも過酷です。励まし、支えてくれる周囲の人々や、自分の意思とは無関係に進む病院での日々に苛立ちや虚しさを募らせても、それを伝える術はありません。「化け物のようだ」と自嘲した、変わり果てた体で生きる苦痛と苦悩をたった一人で抱えていく人生。そんな底なしの絶望から抜け出すジャン・ドーの心の軌跡が描かれます。

ジャン・ドーに再び生きる希望を与えたのは、過去の記憶と夢を見られる想像力、そしてかけがえのない家族や友人の温かい心でした。日々の生活のなか、人は目に見える物質や機能を求めるあまりに、いつもそばにある心を見失いがちになります。
でも、心の持ちようで人生は輝くことを、心の中だけで生き抜いたジャン・ドーは教えてくれます。

ジャン・ドーとの会話は、一人がアルファベットを読み上げ、ジャン・ドーが、言いたい言葉の一文字ずつ左目のまばたきで合図し、文章化するという方法で行われました。1997年に出版された原作は、そんな途方もない労力と忍耐を要して書かれたことで話題を呼びました。ボービーは本の出版の2日後に亡くなられたそうです。

しかし、彼は決して特別な人ではないでしょう。絶望を希望に変える、逞しく、豊かな心の力は、きっと誰にも備わっているはずです。

重い題材ですが、まるで夢物語のような、優美で繊細な映像世界の中で、生きる素晴らしさをしっかりと伝えてくれます。


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