ミス・フランスになりたい!(2020)
自分らしく生きる勇気を与えてくれる
フランスらしい個性的なサクセスストーリー
フランスの美人コンテスト「“ミス・フランス”になりたい」という無謀な夢に挑戦した“男性”の苦難と愛に満ちた道のりが描かれます。
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【ストーリー】
9歳の美少年アレックスは学校で、将来の夢を「ミス・フランスになること」と語りますが、クラスメイトに嘲笑され、その夢を封印してしまいます。
その後、24歳になったアレックス(アレクサンドル・ヴェテール)は両親を事故で亡くして以来、喪失感にさいなまれ、自信や希望を失っていました。
ある日、パリの場末のボクシングジムで手伝いをしているアレックスの前に、幼なじみのエリアスが現れます。幼い頃の夢を叶え、ボクサーになったエリアス(クエンティン・フォーレ)は自信にあふれていました。そんなエリアスに触発されたアレックスはかつて周囲に理解されず、諦めた自分の夢に向かうことを決意。ベテランのドラァグ・クイーン、ローラの助けを借りて、完璧に女装したアレックスは見事、「ミス・フランス」コンテストの地区大会を勝ち抜きます。
しかし、各地区の代表者たちを集めたキャンペーンでは、女性同士の輪に入れなかったり、彼に違和感を抱く出場者から嫌がらせを受けたりと落ち込む日々が続きます。
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孤独感に押しつぶされるアレックスは、たくましくて誇り高いローラ(ティボール・ド・モンタレンベール)や、厳しくも情に厚い下宿先の女主人ヨランダ(イザベル・ナンティ)などの貧しくも心豊かな仲間たちの応援、さらに、コンテストのやり手ディレクター、アマンダ(パスカル・アルビロ)の叱咤激励を受けて、夢への挑戦を続けます。
人に順位を付ける横暴さや、男性社会の悪しき象徴として、批判もある「ミス・コン」がアレックスの自信やアイデンティティを取り戻す場所に使われているのは、何とも皮肉めいていますが、本作にはそんな社会批判を超えた人間的なテーマがあります。
さまざまな苦悩や困難を乗り越えて、たどり着いたコンテストの舞台。まばゆいスポットライトの中で、“自分らしさ”をアピールしたアレックスが体現したのは、世間の常識や偏見に囚われることを止める“勇気”に他なりません。
アレックスのようなケースでなくても、自分の性格や境遇などを周りと比べてしまい、あまりの違いに落ち込んだり、悩んだりする人も多いのではないでしょうか。
「自分らしく生きる」ためには、「他人との違いを受け入れること」が必要です。個人主義と言われるフランスから届いた、シンプルだけど、重要なメッセージは前を向いて生き抜く力を与えてくれるはずです。
アレックスを演じたアレクサンドル・ヴェテールはパリでジェンダーレスモデルとして活躍。長編映画初主演となった本作では、繊細な問題を抱えた役柄をひたむきに演じています。
映画制作にあたり、実際の「ミス・フランス実行委員会」と提携したそうで、華やかなミス・コンの意外に厳しい舞台裏を垣間見ることができるのも興味深いです。