飛行機が恐怖の舞台へと変わる
超一級の密室サスペンスアクション
緊迫感と驚きに満ちた超一級の密室サスペンスアクション映画です。
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【ストーリー】
ドイツ・ベルリン在住のカイル(ジョディ・フォスター)は最愛の夫を突然の事故で亡くし、棺に入った夫の亡き骸とともにニューヨークへ帰ることに。その途中、高度1万メートルを飛行中のジャンボジェット機内で、いっしょに乗り込んだはずの6歳の娘が忽然と姿を消してしまいます。カイルは機内を懸命に捜し回りますが、密室の壁にはばまれます。
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カイルを演じるジョディ・フォスターはデヴィッド・フィンチャー監督作『パニック・ルーム』でも密室内で息詰まる攻防を繰り広げてみせましたが、知性派のアカデミー女優に3人のにわか強盗団が相手では物足りなかったようです。
今回は、敵として対峙する者が総勢400人を超えます。なぜかだれもが「娘が乗っているのを見ていない」と語る乗客と乗務員たちに対して、娘の存在を主張するカイルは孤立無援の戦いを強いられます。
航空設計士として機体の構造や業界事情に通じるカイルの申し立てで機内の捜索が開始されたものの、「飛行機から子供が消えるはずがない」という人々の当然の思いが邪魔をして作業は難航します。
うわべだけの乗務員、他人事でしかない乗客たちの態度に、娘を失う不安と恐怖に駆られたカイルは怒りを爆発させますが、やがて娘の搭乗記録がないことが判明します。
狂気にも映る捜索作業を敢行し、騒動を巻き起したカイルは、圧倒的に不利な立場をものともせずに、果てはアラブ系の乗客を誘拐犯呼ばわりする始末。乗客たちも理屈に合わない騒ぎに対して苛立ちと反感を募らせ、機内は一触即発の危険な雰囲気を帯びていきます。
言ってみれば、飛行機という密室を右往左往するだけのパニック劇。従来なら武力行使のはちゃめちゃなアクション活劇で終わるところが、そうならないのは、緊迫した状況下の人々の反応をリアルに描くとともに、ミスディレクションがふんだんに盛り込まれた脚本が優れているからです。
カイルは夫を失った痛手から心神喪失気味。娘を必死で捜し回る行為も夫の死の真相が明るみになると別の意味を持ち、カイルさえ怪しい人物のひとりとなります。
監督は本作がハリウッドデビューとなったドイツ出身の新鋭ロベルト・シュヴェンケ。静と動を織り交ぜた緻密な演出で、巧みな脚本と相変わらず多彩な演技を見せる知性派ジョディ・フォスターを引き立たせる、最高の舞台を作り上げました。