映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

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ユナイテッド93(2006)

ついに登場した9.11事件の初映画化作品は
悲劇の朝の出来事を克明に伝えた力作

テロリストが飛行機をハイジャックし、ニューヨークの世界貿易センタービルに激突した「9.11」事件。この想像を絶する凶悪テロの直後、当地アメリカでは、「ハリウッドではもうアクション映画は作られないだろう」という声が少なからずあったと記憶しています。

もちろん、これらの声は人々が受けたショックの大きさを表わす例えに過ぎず、実行するには無理があるとしても、ならばせめて「9.11」事件はドラマチックに捏造されがちな映画で触れるべきではないというのが映画関係者のみならず、大方の見方ではなかったでしょうか。

そんななか、事件から5年を経た2006年、「9.11」をテーマした映画が初めて公開されました。

当然、批判を浴び、問題作とみなされましたが、『ボーン・スプレマシー』の英国人監督ポール・グリーングラスが、綿密な取材結果を英国人らしい冷静な視点でまとめた作品は批判を受けるような代物では決してありません。

ユナイテッド93」は、ハイジャックされた4機のうちの1機で、ペンシルバニア州の空き地に墜落したことからテロを未然に防ぐことに成功しました。それは機内の乗員乗客がテロリストに立ち向かった結果だとされています。

脚本も手掛けたグリーングラス監督は墜落寸前の機内で、まさに死力を尽くした人々の姿にスポットを当てるとともに、彼らの死がなぜもたらされたのかを、9月11日の朝の出来事をとおして伝えようと試みています。

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【ストーリー】
2001年9月11日。「ユナイテッド航空93便(UA93)」はニューアーク国際空港からサンフランシスコへ向けて出発しました。そのとき、ハイジャックされた2機のアメリカン航空機がニューヨークのワールドトレードセンターに激突、アメリカン航空77便がペンタゴンを襲いました。
そして、ユナイテッド93便もテロリストに占拠されていました。しかし、他機での自爆テロを知った乗客たちはテロリストに立ち向かうことを決断します。

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悲壮な決意を抱いたテロリスト、いつもと変わらない一日が始まると信じている乗客や乗員が乗り込んだユナイテッド航空93便。注目されるのは墜落までの機内の出来事ですが、想像の粋を出ないテロリストと乗員乗客との激闘を真に迫るものにするために、映画の大半はあの朝の異常事態にいち早く遭遇した管制センターでの出来事を克明に描き出しています。

始めは、アメリカン航空11便(センタービル北棟に激突したテロ第1号機)のハイジャック事件と思われていました。防空指令センターや米各地の管制センター、軍が対策に乗り出すなか、レーダーから11便が消え、センタービルから白煙が立ち上ります。

11便と白煙が結びつくまでにはかなりの時間を要しますが、突き止めた事実の断片をつなぎ合わせて見えてきた驚愕の真相は、さらなるテロを決行するためにハイジャックされた旅客機があるということでした。

管制官らは必死で事態の把握に努めるものの、情報が錯綜し、なかなか93便に辿りつかないもどかしさが緊張感を高めていきます。そして、舞台はテロリストが動きはじめた93便へと引き継がれます。

地上シーンでも93便内のシーンでも感じるのは、見えない脅威にさらされることの絶対的な恐怖。まるで現場に放り込まれたような気分になる迫真的な映像もさることながら、その後の悲劇を知っているからこそ、事件の渦中に実際にいた人々の心中を思いやらずにはいられません。

個人的には、夜のニュースで、真っ黒な穴の開いたセンタービルを呆然と見つめているだけだっただけに、ちょうどそのとき、命がけで恐ろしいテロ行為に立ち向かった人々がいたことに胸がつぶれる思いがしました。

93便の犠牲者40人すべての遺族がこの映画化を承認したといいます。遺族が知りたいと望んだ家族の最期はあまりにも壮絶ですが、彼らが味わった悲しみはまだ終わっていません。それなのに、世界貿易センター跡地には、以前よりもさらに高いビルが建設されました。

「テロには屈しない」というアメリカの威信なのかもしれませんが、個人的には疑問です。93便とともに消えた人々の無念の死を決して無駄にしないでほしい。


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