映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

人生に迷えるアラフィフ女性が、映画を通して人生について考える。ネタバレなしの映画レビューサイト。

誌季織々―しきおりおりー(2018)

日本と中国のアニメ業界で注目される
才能が結集した珠玉の青春アンソロジー

新海誠監督の大ヒット作『君の名は。を手がけた制作会社コミックス・ウェーブ・フィルム(CWF)と、中国のアニメ業界をリードするブランドHaolinersハオライナーズ)がコラボレーション。中国を舞台に、ノスタルジーと希望に溢れる3作の短編アニメが完成しました。

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『陽だまりの朝食』は、中国で実写映画監督や俳優として活躍するイシャオシンが初めてアニメ映画に挑戦した作品です。

北京で働く青年シャオミンが過ごした、故郷・湖南省の子ども時代の思い出には懐かしいビーフンの味がありました。

優しい祖母との日々や、学生時代のほろ苦い初恋の思い出……、のどかな舎の暮らしの中にもあった、温かくも切ない社会の現実を垣間見せながらも、明日への活力が感じられる作品となっています。

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『小さなファッションショー』では、CWFのCGチーフとして新海作品を支えてきた竹内良貴がオリジナル作品で監督デビューを飾りました。

主人公は広州で暮らす、人気モデルのイリンと妹の専門学校生ルル。幼くして両親を亡くした2人は、共に助け合いながら仲良く暮らしていましたが、イリンがモデルとしての壁にぶつかり、ルルとの関係も悪化してしまいます。

人生に惑いながらも、自分らしく生きようとする姉妹の優しい絆を描いた作品は、華やかなファッションの世界を舞台にした、ポップな映像も魅力的です。

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『上海恋』は、ハオライナーズの代表で、本作を企画し、総監督も務めるリ・ハリオンが手がけた、深海誠監督の『秒速5センチメートル』へのオマージュ作とも言える作品。

1990年代、上海の集合住宅、石庫門(せきこもん)を舞台に、男子学生リオと幼なじみのシャオユの淡い初恋が情感たっぷりに描かれています。

石庫門とは、80年代に生まれた世代には、“実家”とも呼べる存在といいます。多くの家々が密集し、家は狭いが、家族や隣近所の距離が近くて、温かい。

しかし、時代と共に人がいなくなり、取り壊しが進んでいるといいます。そんな古き良き時代の風景が、心に染みる、味わい深い作品となっています。

中国を舞台にしたアニメーションは珍しいですが、昔懐かしい生活や風景、発展めざましい現代など、中国のさまざまな側面は興味深く、自然に物語世界に入っていけます

各監督が、思い入れたっぷりに創作した誌的な物語は温かく、希望にあふれています。新旧の中国を見事に再現した、CWFのスタッフによる精巧で美しい映像も圧巻です。

新海誠監督に触発された、中国と日本の若きクリエイターが生み出した珠玉の青春アンソロジーは大人の乾いた心に潤いと癒しを与えてくれるでしょう。


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