映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

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アイズ・ワイド・シャット(1999)

キューブリック監督が最後に描くのは愛と性
人間の内面を覆う秘密のベールをはいでいく

アルトゥル・シュニッツラーの『夢小説』を映画化した本作は、スタンリー・キューブリック監督の12年ぶりの新作であり、製作時は仲睦まじい夫婦だったトム・クルーズニコール・キッドマンがまさに体当たりで訳あり夫婦を演じたことが大きな話題となりました。

そして、残念ながらキューブリックの遺作となってしまった作品です。

トリッキーにも見える表現で、人間の奥底に潜む本質をえぐり出してきた鬼才キューブリックにとり、最後となったテーマはずばり愛と性(セックス)。

愛や性に対する男女間の違いは自明の理なのに、お互いの気持ちをひとつにしようというのは間違いなのでしょうか。愛の行きつく先がセックスだと思うのは間違いなのか。人間の内面に潜む愛と性と嫉妬という決して理屈では割り切れないこれら一連の感情の謎に、ある一組の夫婦の姿を通して真っ向から迫っています。

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【ストーリー】
ビル(トム・クルーズ)とアリス(ニコール・キッドマン)はニューヨークに住む裕福な医師夫婦。ビルは美しい妻であり、一人娘の良き母であるアリスとの満ち足りた生活に安住していました。そのため、アリスの女性としての本質を見失った「妻だから浮気しない。だから嫉妬もしない」という侮蔑的な発言をして、アリスを激怒させてしまいます。
そして、その言葉に対してアリスが「浮気しそうになったことがある」という挑発的な告白をしたために、ビルは妻の浮気の妄想に取りつかれ、それを振り払うために女を買いますが、あえなく失敗。
やがてふとしたことから秘密の仮面パーティーに参加するためのパスワードを手に入れ、危険なエロスの世界へ踏み込んでいきます。

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キューブリック監督の徹底した秘密主義、理想的な夫婦の見本である(今となってはあったですが)トム・クルーズニコール・キッドマンが演じる夫婦像、R-18指定を受けた衝撃的な仮面パーティシーンなど、公開前から話題には事欠かなかった作品でした。

そして、ようやくベールをぬいだ内容には、観る者の心の奥底を覆うベールさえぬぐってしまうほどの力がありました。

浮気の妄想の告白に罪を感じない妻と、激しく嫉妬し動揺する夫。妄想を現実のことのように話す女と、現実から妄想へ逃げ込む男。キューブリックはこのふたりの行動を通して、とかくドラマチックに、あるいは矮小化される愛の世界にメスを入れました

これは幸せな家庭の崩壊劇や再生ドラマではありません。ましてやポルノでもありません。立場、環境、生き方の違いによって感じることは人それぞれであるでしょうが、心臓を射ぬかれたようなインパクをもたらすのは間違いありません。


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