映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

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万引き家族(2018)

人とつながるためには何が必要?
是枝裕和監督が冷徹に見つめた絆の物語

この家族のつながりは、生きるための“金”か、人を思いやる“情”か、家族なら当然あるはずの“絆”か?

ショッキングなタイトルが表わすとおり、本作の主人公一家は日常的に万引きを行い、生活の糧にしています。しかも、父親が幼い息子にやらせているのです。

一体、どうして、こんな家族関係が生まれたのか? 『誰も知らない』('04年)、『そして父になる』('13年)など、シビアな家族の姿を題材にし、世界的な評価を高めてきた是枝裕和監督が原作・脚本・編集を手がけた問題作は、家族問題に留まらず、<人と人とのつながり>について問いかけ、さらに多くの人々の共感を呼び、第71回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルム・ドールに輝きました。

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【ストーリー】
舞台は東京下町。父・治(リリー・フランキー)と息子・祥太(城桧吏)はスーパーマーケットで万引きした帰り道、団地の外廊下に幼い女の子・ゆり(佐々木みゆ)が独りでいるのを見つけます。外は冷え込んでおり、見かねた治はゆりを家へ連れてきてしまいます。
古びた一軒家には、治の妻・信代(安藤サクラ)、治の母・初枝(樹木希林)、信代の腹違いの妹・亜紀(松岡茉優)が待っていました。彼女たちはゆりに驚きながらも、盗品のカップラーメンで夕食を囲みます。信代が誘拐犯もどきの治の行動を突っ込んだり、初枝がゆりを優しくあやしたりと、それぞれが思い思いの言動をとる夕食はとても賑やかで、和気あいあいとしています。
深夜、治と信代はゆりをこっそり自宅へ送り届けますが、ゆりがいた部屋から男性の怒鳴り声を聞いた信代はゆりを再び連れ帰り、そのまま一緒に暮らすことにします。

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冒頭の夕食シーンでは、万引きを悪びれもしない、あっけらかんとした家族たちの様子が描かれます。飄々とした治や、現実的で辛辣な信代、穏やかだけど、したたかそうな初代、そして、無気力・無関心な亜紀らの軽口を交えたやり取りはとても自然で、こんな“ちょい悪”家族はいそうな気もしてきます。

しかし、この家族には生きていくには当然とも言えますが、なんとも厳しいルールがあります。それはだれもが収入を出さなければいけないということ。治はボヤキながらも日雇いで工事現場へ、信代はクリーニング工場でアクセク働いています。初代は年金から、そして、まだ働けない祥太は万引きをして、自分の役割を果たしているのです。(なぜか亜紀だけは免除されています)

まさに“金”でつながっているような家族です。しかも、祥太は「小学校に行くやつは自分で勉強ができないからだ」という治の話を信じ、小学校へ通っていません。また、治の「店にあるものはまだ誰のものでもないから、盗みじゃない」という話も黙って受け入れています。

しかし、治がそう祥太に話した理由が後半で明らかになります。ほかにも、家族がゆりの面倒をみたり、亜紀が家に生活費をいれなかったり、祥太が治を“お父さん”と呼ばなかったりする家族の謎めいた言動の一つ一つが伏線だったことに気づく後半の展開にうならされます。

そして父になる』に続き、難しい父親役を自然体で演じるリリー・フランキー、社会の暗部を鋭く指摘する信代に説得力を持たせた安藤サクラ、投げやり生きる亜紀を演じた松岡茉優は際どい風俗シーンにも挑戦しています。そして、訳あり家族をより意味深なものにする樹木希林の存在感はさすがの一言です。

さらに、理不尽な大人の世界で生きようとする健気な2人の子ども、祥太とゆりを演じた子役たちもとてもいいです。

是枝監督が実際に起こった、親の死亡届を出さずに年金を不正受給していた家族の事件に着想を得たストーリーは、社会の底辺でひっそり生きるしかない人々の物語。決して幸福ではない運命を背負ってしまった家族が求めたものは、“自分を否定しない”人たちとのつながりでした。

家族・親子・夫婦・恋人・友人・同僚……、悩んでも、煩わしくても、求めてしまう人とのつながり。そこに“本物の絆”はあるのだろうか。ふと、自分の人間関係を見直してみたくなりました。


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