映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

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レナードの朝(1990)

再び朝が迎えられる日々に感謝したい
名優たちが入魂の演技で紡ぐ感動作

30年もの間、“意識”を奪われて生きていた難病患者レナードの束の間の “目覚め”を描いた珠玉のヒューマンドラマです。

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【ストーリー】
1969年、極端に人づきあいが苦手で、研究ばかりしていたセイヤー医師(ロビン・ウイリアムズ)がニューヨーク・ブロンクスの慢性神経症患者専門の療養型病院で働くことになります。
この病院には嗜眠性脳炎の患者たちが長期入院していました。話しかけても反応がなく、自分の意思で動くこともできず、じっと車椅子に座っているだけの患者たちにセイヤー医師は戸惑います。
しかし、セイヤー医師は患者たちに反射神経が残っていることを発見し、患者たちの意識を回復させようと試みます。そして、未承認のパーキンソン病の新薬に有効性を感じたセイヤー医師は30年にわたり入院する最も重症な患者レナード(ロバート・デ・ニーロ)に治験を始めます。

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映画のストーリーは、イギリスの神経学者オリバー・サックスが自身の臨床経験を著した原作『Awakenings』を基に創作されたフィクションで、1969年の夏にたった一度だけ起きた奇跡の出来事として描かれています。

映画はレナードの少年時代の回想から始まります。物静かな少年レナードは右手の機能が失われ、字が書けなくなる異変に襲われます。自宅で療養することになったレナードはいつか友だちと再び遊べる日を望みながらも、症状が悪化し、20歳で完全に体の機能を失ってしまいます。それから30年……。静かに寄り添う老いた母親の傍らで、レナードは虚ろな目で宙を見つめるばかりでした。

映画の序盤は、病気の過酷な現実を突きつけます。レナードのほかにも、意識障害により、自分では何もできない状態でいる患者たちの姿に、〈こんな病気があるのか〉と驚くとともに、〈もし自分だったら〉と考えずにはいられません。

治験が成功し、レナードが目覚めた時は本当に感動します。再び取り戻した日常生活を無邪気に楽しむレナードの姿はもちろん、彼の回復を心の底から喜ぶ母親やセイヤー医師、そして病院の看護師たちの優しさに胸が熱くなります。

レナードに続き、新薬を投与された嗜眠性脳炎の患者たちが次々に目覚め、病院はにわかに活気づき、笑顔が溢れます。ただし、うれしいことばかりではありません。知らぬ間に長い年月が過ぎていたことを知った患者たちは残酷な現実を嘆きます。それでも、再び取り戻した生きる喜びをかみしめ、前向きに生きようとします。

しかし、幸せな時は長くは続きません。薬が効かなくなったレナードに、再び異変が表れます。脳や体の動きが制御できなくなってきたレナードは、再び眠りにつく時を恐れながらも、自分らしさを示そうとします。

そんなレナードらしさが出るのは、彼が初めて恋を経験するエピソード。レナードと同じ病気の父を見舞うポーラ(ペネロープ・アン・ミラー)に惹かれたレナードは、思い切って声をかけ、病院の食堂で話し合う仲になります。彼女に会う日はジャケットに着替え、髪の毛を整えて、一人前の男性として精いっぱい振舞うレナードでしたが、自分の未来が分かった時、ある決断を下すのです。そうして生まれた名シーンは必見です。健気なレナードと、彼の決意を優しく受け止めるポーラの姿に涙が止まりません!

名優ロバート・デ・ニーロが圧倒的な演技力でレナードへ感情移入を誘います。一方、献身的なセイヤー医師を誠実に演じたロビン・ウィリアムズは『いまを生きる』(’89年)に続く、ハートフルなヒューマンドラマで見事コメディ俳優から脱皮しました。

レナードが限りある時間の中で教えてくれたのは、朝、目覚めることの喜びと、愛する人たちと過ごすことの幸せ。これらが当たり前のようでいて、当たり前でないのは、多くの人が感じていることだと思いますが、例え良いことばかりでなくても、“生きている今”を大切にしたいと思える作品です。


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