セントラル・ステーション(1998年)
孤独な中年女性と少年の絆を探す旅
驚きと感動のブラジル製ヒューマンドラマ
ベルリン国際映画祭で金熊賞(最優秀作品賞)、アメリカのゴールデングローブ賞で最優秀外国語映画賞を受賞するなど、高い評価を受けたブラジル映画。
リオデジャネイロの中央駅(セントラル・ステーション)で代筆業を営む中年女性と、孤独な少年との心の交流を描いた、笑と涙のヒューマンドラマです。
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【ストーリー】
元教師のドーラ(フェルナンダ・モンテネグロ)はリオデジャネイロの中央駅で、文字を書けない人々のために手紙を代筆して日銭を稼いでいました。仕事を終えて家へ帰ったドーラは友人のイレーラ(マリリア・ペーラ)を呼び寄せて、客たちの選別をするのが日課。手紙を出すか、出さないか。ドーラのタンスの引き出しには、投函されなかった客たちの手紙がたくさん溜まっていました。
ある日、若い母親アンナがドーラに代筆を依頼します。長い間会っていない夫への思いを込めて手紙の内容を伝えるアンナに対して、仏頂面のドーラからは手紙を投函しない雰囲気が伺えます。
ところが、依頼を終えたアンナが帰る途中、交通事故で亡くなってしまいます。駅にはアンナの9歳の息子ジョズエ(ヴィニシウス・ジ・オリヴェイラ)が1人残されました。それを見ていたドーラは彼を自宅へ連れ帰ります。
客たちの手紙を投函しないなど、性格キツめのドーラ。ジョズエを連れ帰ったのも、かわいそうに思ったのかと思いきや、怪しげな男性からお金をもらって、ジョズエを養子斡旋施設へ送り届けるためでした。
ところが、そこが臓器売買組織だと知ったドーラは慌てて、ジョズエを連れ戻します。そして、仕方がないので、アンナの手紙を頼りに、ジョズエを父親の元へ送り届けることにするのです。
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描かれるのは、ドーラとジョズエのロードムービー。性格キツめのドーラは子どものジョズエにも迷惑そうに毒づきますが、ジョズエもドーラに劣らず、ズケズケ言うタイプ。怖そうなオバさんと、小生意気な子どもとの容赦ない舌戦に思わず笑ってしまいます。
衝突ばかりの2人ですが、ドーラはジョズエを放っておけず、ジョズエもドーラを頼りにしています。でも、2人が本音を口に出さないのは、求める人に忘れ去られる哀しみを知っているから。そんな哀しみを味わうくらいなら、人を求めずに距離を保つ方がいい。ドーラが屈折した理由には切ない過去の経験があったのです。
そんな孤独な2人が波乱続きの道中での経験を通し、次第に打ち解けていきます。
終盤、もしジョズエの父親が見つからなければ、独り身のドーラと一緒に仲良く暮らせばいいのでは? とさえ思うほどなのですが、ドーラはどんな決断を下すのでしょうか。ラストシーンは必見です。私は温かい涙がこぼれました。
ドーラを演じたフェルナンダ・モンテネグロはベルリン国際映画祭で銀熊賞(女優賞)に輝きました。
時代設定はわかりませんが、代筆業があるほど読み書きのできない人がいることや、ラテン系とも言うべき、ドーラとジョズエの気性の激しすぎるキャラクター、そして、旅の途中に見える岩肌むき出しのブラジルの荒野など、日本の裏側にあるブラジルのワイルドな現実に驚かされます。
荒々しさの中に繊細さを秘めた、不思議な味わいのあるブラジル映画です。