映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

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必殺剣 鳥刺し

藤沢周平の人気短編『隠し剣』シリーズを映画化
15分に及ぶ死闘が時代劇映画の神髄を見せつける

日本の時代劇は古めかしくて、あまり興味を持てなかったのですが、本作を見て、時代劇の面白さに目覚めました。特に厳しい武家社会で生きる人々の人間模様を優しいまなざしで見つめる藤沢作品の切なくも、凛とした世界観に一気に引き込まれました。

原作は秘剣の技を持つ武士の悲哀と壮絶な生き様を描いた藤沢周平の人気短編『隠し剣』シリーズの一編。「鳥刺し」という必死必勝の技を持つ剣の達人、兼見三佐エ門の受難を描いた本作は、日本の時代劇映画の凄みを再認識させてくれる快作です。

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【ストーリー】
物語は物頭の三佐エ門(豊川悦司)が藩主・右京太夫村上淳)の愛妾・連子(関めぐみ)を突然、刺殺する劇的なシーンで始まります。
右京太夫と連子は城内で能楽鑑賞をしていましたが、連子は能の途中で拍手を始めてしまいます。最初は戸惑っていた右京太夫ですが、連子に続いて拍手を贈ると能が終わったことにします。
思いつめた顔の三佐エ門が連子の胸に剣を突き刺したのは2人が退席する最中。まさか能を勝手に終わらせたことに怒ったためではないでしょうが、三佐エ門の真意が全く掴めない謎めいた幕開けは、想像力を大いに刺激され、一気に物語へと引き込まれます。

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三佐エ門は潔く斬首を覚悟していますが、勤勉な働きぶりが高く評価され、罰は一年の閉門に留められます。暗い土蔵に軟禁された日々を静かに受け入れる三佐エ門は実直そのもの。そんな男が捨て身の凶行に及んだのは、善良な人々を苦しめる傲慢な連子の暴挙を止めるためでした。

連子の言いなりとなった右京太夫は彼女のわがままを許し、家臣たちは不平を口にしながらも従うしかありませんでした。三佐エ門も黙って見過ごしていましたが、愛妻・睦江(戸田菜穂)を病で亡くした失意が決死の凶行へと向かわせます。

中盤で三佐エ門が凶行に至る理由が分かると、すっかり彼に肩入れしてしまいます。それは悪役の健闘も大きいです。

猫のような鋭い瞳が印象的な関めぐみがはまり役。連子は殺されても止むなしと思える程、憎たらしい! 豊川悦司の抑制の利いた演技もしびれるほど素晴らしく、摺り足や土下座のシーンなど、美しく、正確な所作で、三佐エ門の真面目さをリアルに感じさせます。

閉門が解けた三佐エ門は再び右京太夫へ仕えることを命じられます。それは秘剣「鳥刺し」を持つ剣の腕前を見込まれてのこと。右京太夫の悪政をめぐり、対立する別家・帯尾(吉川晃司)から藩主・右京太夫を守らなければならないのです。

武士として組織に翻弄され、男として愛に迷う三佐エ門の心模様を丁寧に描いてきた物語は壮絶なラストを迎えます。「その秘剣が抜かれる時、遣い手は半ば死んでいるとされる」という謎の秘剣「鳥刺し」。

実は「鳥刺し」に関して、藤沢周平による正確な記録はないそうですが、『愛を乞う人』の名匠・平山秀行監督の下、スタッフ、キャストが一丸となり、創出した「鳥刺し」は圧巻。時代劇の神髄を見せつける15分に及ぶ死闘がその激しくも切ない秘剣を際立たせます。


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