フードラック! 食運(2020)
構想に6年をかけた寺門ジモン監督デビュー作
肉愛が溢れる極上の“焼き肉”エンターテイメント映画
本作の主人公は“焼き肉”です! 網の上でジュージューと焼かれる肉たちが本領を発揮して、とっておきの映像体験をさせてくれます。
そんな肉たちの極上の“姿”を引き出したのは、お笑いトリオ「ダチョウ倶楽部」の寺門ジモンさんです。
芸能界屈指の食通として知られ、なかでも、家畜商の免許を取るほど肉に強いこだわりを持つ寺門さんが、みずから企画提案し、原作・初監督を手がけた前代未聞の焼き肉ムービーは、好きなものへの優しい気持ちが溢れて、微笑ましく映ります。
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【ストーリー】
母・安江(りょう)がひとりで切り盛りする焼き肉屋「根岸苑」で育った良人(NAOTO)は“本物の味”が分かる、奇跡の「食運」を持つようになります。
あることが原因で、家を飛び出し、フリーライターをしている良人は、編集プロダクションの社長、新生(石黒賢)に食運を見込まれ、新人編集者の竹中静香(土屋太鳳)と組み、“本物”だけを集めたグルメサイトの立ち上げを任されることに。
第1弾のテーマである「焼き肉」の取材で、静香が選んだのは人気グルメ評論家・古山(松尾諭)の紹介した“名店”。だが、良人は一口食べただけでその店の“ウソ”を見破り、偶然居合わせた古山とひと悶着を起こしてしまいます。
ぶっきらぼうでちょっぴり屈折した良人に振り回されっぱなしの静香ですが、やがて良人が抱えた心の傷に気づくようになります。
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“本物の味”を求める2人は、焼き肉だけでなく、カレーや日本食など、さまざまな店をめぐります。そこで紹介されるのは、シズル感満点のおいしそうな料理だけでなく、料理を提供するために徹底的にこだわる料理人たちの心意気です。
寺門さんが実在のお店のエピソードをアイデアに取り入れて練り上げたというストーリーには、肉や食べ物に関するうんちくがちりばめられています。それらを論じるNAOTOや松尾のセリフを字幕で出すという斬新な方法で、「本物の味」を観る者に伝えています。確かに文字で読むほうが分かりやく、“今どき感”があって面白いかもしれません。
“今どき感”と言えば、寺門はテレビやネットなどに溢れるグルメ評論が与える店へ影響など、誰もが評論家になれる風潮に警鐘を鳴らしています。
また同時に、焼き肉にまつわる「ウソ」を暴き、同業者がお客さんに対して誠実に仕事をしているかどうか、考えさせるという試みをしています。
そして、前代未聞の焼き肉がドアップになる映像ばかりに注目してしまいますが、母と息子の切なくも、温かい絆を描いたドラマも、とてもよくできています。
考想に6年をかけた寺門さんの頑固な職人のようなこだわりや、丁寧で真摯な態度が作品からにじみ出ており、また食をテーマにした寺門さんの作品を観てみたいという気になりました。