映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

人生に迷えるアラフィフ女性が、映画を通して人生について考える。ネタバレなしの映画レビューサイト。

チャーリーとチョコレート工場

悪い子どもたちにはしっかりお仕置き!
大人も童心に返って楽しめるファンタジー映画

とびきり楽しい映画をご紹介します!

正体不明の天才菓子発明家ウィリー・ウォンカの経営する謎の巨大チョコレート工場で4人の子どもたちがひとりひとり消えていき……。

子どものときに絶対読んでほしい児童書といえば、ロアルド・ダール原作の『チョコレート工場の秘密』があげられます。ホラーめいたくだりは、心根の悪い子たちに取っておきのお仕置きをした結果のこと。悪い子はどうなるか、といういかにも児童書らしい訓話が、皮肉とブラックユーモアたっぷりに語られます。

たとえ子どもだろうと容赦はしない! 多少、大人気なくもあるこの物語の精神を映像化できるのは、子どもじみた遊び心とひねた視点を併せ持つティム・バートン監督をおいてほかにはいません。

いかにも子どもの国のようなカラフルで楽しげな舞台が一転、悪い子への見せしめの場と化す展開は、殺人鬼の出てくるホラー映画よりある意味、残酷かもしれません。奇想天外な設定のなかで、人間のあるべき姿を示す辛口ファンタジーです。

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【ストーリー】
ウィリー・ウォンカ(ジョニー・デップ)が15年間だれにも公開していなかったチョコレート工場に、チョコに封入されたゴールデンチケットを引き当てたラッキーな5人の子どもたちを招待します。その中のひとり、チャーリー少年は貧乏にもめげずに清く正しく生きる健気な子。工場見学に憧れるひたむきな思いと、チャーリーを愛する家族の切なる願いが届いたのか、最後のゴールデンチケットを手に入れます。

これに対して、残りの4人の憎たらしさと言ったらありません。ぐうたら、強欲、野心家、知ったかぶり――、ウォンカならずとも性根を叩き直したくなます。

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シルクハットにおかっぱ頭、顔は異様に白いが服装はド派手なウォンカ。心身のバランスがちょっと危ういエキセントリックなキャラクターを愛すべき男に仕上げたジョニー・デップもさることながら、憎まれっ子に成りきった子どもたちの熱演がなければこの物語は成立しないでしょう。

チョコレートの川で溺死寸前、ローラーに巻かれてぺったんこ、などなど……。ひどいお仕置きも当然と思える子供たちのおかげで、お仕置きシーンの気持ちよいこと。さらにミニミニオヤジのウンパルンパが、すまし顔で子どもたちの傷口に塩を塗り込むような歌を歌い踊ると爽快感は絶頂に達します。

最後は取って付けたようなメッセージを残し、良いお話になってしまいましたが、だれの周囲にも4人の子どもたちのような大人はいるはず。健全にストレス解消したい大人には持って来いです!


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スラムドッグ$ミリオネア

運命をかけたスラムドック(負け犬)の大勝負
夢と希望を与えてくれる痛快ヒューマンドラマ

2009年、米国アカデミー賞作品賞を始め、世界各国のさまざまな賞を受賞した本作品。評価の高さから興味を惹かれる人も多いと思いますが、その期待に違わぬ会心の出来映えです!

日本でも一大ブームを巻き起こしたクイズ番組「クイズ$ミリオネア」(劇中の番組名は「コウン・バネーガー・カロールパティ」)。4択問題を正解するごとに賞金が増え、全問正解すれば桁外れの高額賞金が獲得できるシステムですが、多彩なジャンルから出題されるため、そう簡単には全問正解することはできません。しかし、18歳のインド人青年ジャマールが全問正解を成し遂げようとしていました――。

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【ストーリー】
あと1問で全問正解に迫ったジャマール(デーヴ・パテール)が逮捕されるところから物語は始まります。ムンバイのスラムに生まれ、孤児で貧しく無学のために不正を疑われたジャマールは、警官と共に番組のVTRを検証しながら、答えを知っていた理由を明かしていきます。

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警察で取り調べを受ける現在と、「クイズ$ミリオネア」の出場シーン、正解につながるジャマールの過去という3本の縦軸が複雑に交錯し、テンポよく進んでいきます。ヒット映画のタイトル、宗教問題、有名な詩人の名前、100ドル札の肖像画……、それらの問題を聞いてジャマールが思い出したのは、無残な母の死や孤児を騙す大人の酷い仕打ち、盗みや詐欺をしながら生き延びる極貧生活、裏社会に走った兄との確執、そして初恋の少女ラティカとの辛い別れと切ない再会でした。

ジャマールの過去の体験から見えてくるのは、スラムに生きる貧困層の過酷な暮らし。しかし、愛と希望を追い求めるジャマールはどんなに悲惨な境遇でも誠実に生きようとします。ジャマールへのラストクエスチョン。誠実な〈スラムドッグ〉が手に入れたものは何なのか。世界各国が抱える格差問題について声高に言及した社会派の側面もありますが、最後は前向きなメッセージとピュアなラブストーリーで締めくくられ、感動と爽快感で胸がいっぱいになります。

監督は『トレインスポッティング』のダニー・ボイル、脚本は『フル・モンティ』のサイモン・ビューフォイ。実在のクイズ番組を下敷きにした独創的なストーリー構成と、巧みなストーリーを印象深いものにする鮮やかな演出力が見事に結実しています。


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マンマ・ミーア!

美しいエーゲ海の景色とABBAの名曲が心を癒す
ハッピーな気分になれる最高のミュージカル映画

1970年代にポップミュージックで一世風靡したABBAのヒットナンバーを使い、世界中でロングラン公演を続ける人気ミュージカルの映画化。映画ならではの持ち味を生かし、楽しく、壮快で、感動的な世界がスクリーン一杯に広がます。

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【ストーリー】
舞台はギリシャの美しいビーチ、カロカイリ島。小さなホテルを経営する母親のドナ(メリル・ストリープ)と2人で暮らす20歳の娘ソフィー(アマンダ・セイフライド)は、まだ一度も会ったことのない父親を自分の結婚式に招待しようと計画します。

しかし、母のかつての恋人で、父親の可能性のある人物は3名。ソフィーは母には内証で、なんと3人の父親候補、建築家のサム(ピアース・ブロスナン)、銀行マンのハリー(コリン・ファース)、冒険家のビル(ステラン・スカルスガルド)を島へ呼び寄せてしまいます。

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ソフィーが実の父親に会える喜びに胸をときめかせる一方で、ドナは突然の元カレ出現に動揺し、騒動が起こります。ハッピーな結婚式を題材に、ドナの若きの恋やソフィーの父親探しを絡め、母と娘の愛と絆、女性の生き方について描いたストーリーは、ユーモラスでハートフル。全編を彩るABBAの名曲も心地よく、ミュージカル版が好評なのもうなずけます。

しかし、映画版も負けてはいません。映画版の強みは、リアルな景色と想像を超えた映画俳優たちの妙演。エーゲ海の真っ青や海や空など、美しい自然の景色に目を奪われ、本当に心が癒されます。無垢な自然の中で生き生きと歌い踊る俳優たちに乗せられ、ついつい踊り出したくなってしまいます!

監督は、ロンドンで初演されたミュージカル版『マンマ・ミーア!』の演出家でもあるフィリダ・ロイド。自然と俳優に備わる素晴らしい力を最大限に生かした演出手腕が光ります。

キュートな笑顔とスレンダーなスタイルで魅了するアマンダ、とぼけた味わいを醸し出す父親候補のベテラン男優たち。その中でも「自分が出演するとは思わなかった」と自嘲気味に公言するピアース・ブロスナンの奮闘は必見! そして、名優メリル・ストリープは抜群の歌唱とダンスと演技力で娘を嫁がせる母の喜びと寂しさを表現し、アカデミー賞を始め、数々の主演女優賞候補となりました。

素晴らしい自然と俳優たちが創り出した臨場感と開放感あふれる映像が、ABBAの名曲をより引き立てます。公開時は、観客みんなで歌い踊るという、粋な上映を行った映画館も人気を呼びました。

世知辛い現実を吹き飛ばし、ハッピーな気分になりたいなら必見の作品です。


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ハリー・ポッターと賢者の石

世界中の人々を魅了した、魔法のようなファンタジー映画
ハリー・ポッター』シリーズ記念すべき1作目

魔法使いの能力を秘めた孤児の少年ハリー・ポッターが偉大な魔法使いとして成長していく姿を描いた『ハリー・ポッターと賢者の石』は、1997年に出版され、世界中でベストセラーを記録したファンタジー児童書。魔法魔術学校で勉強する魔法使いの子供たちの物語は、絵空事に留まらないリアリティと親しみやすさに溢れ、老若男女を問わず多くの人々に魔法を信じる素直な心をよみがえらせました。

2001年に映画化された本作は、そんな不思議な世界を体感したいと望む世界中のハリ・ポタファンの期待に応えて登場。『ホーム・アローン』シリーズや『ミセス・ダウト』のクリス・コロンバスが、原作に忠実な映画化を約束して前代未聞の監督オーディションを勝ち抜き、メガホンをとりました。

以降、2010年公開の『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART 2』までシリーズ全作が映画化されましたが、2000年代はハリウッドの視覚効果技術の発展がめざましく、新しい映像世界を純粋に楽しめた、良い時代だったな、としみじみしてしまいます。

ハリー・ポッター』シリーズは映画の醍醐味を堪能できる、まさに魔法のような映画です。

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【ストーリー】

意地悪な叔母夫婦の家でみじめな暮らしをしていた孤児のハリー・ポッターダニエル・ラドクリフ)は、11歳の誕生日にホグワーツ魔法魔術学校への入学許可証を贈られます。

実は亡くなった両親が優れた魔法使いであり、彼にもその血が受け継がれていると知らされたハリーは、彼を迎えに来たホグワーツの森の番人、ハグリット(ロビー・コルトレーン)に連れられ、人間には見えないロンドンのキングス・クロス駅の9と3/4番線から発車するホグワーツ特急に乗って、ホグワーツへ向かいます。

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両親を倒した宿敵、邪悪な魔法使いヴォルデモードとの対決がハリーに課された使命なのですが、映画版『ハリ・ポタ』シリーズの序章となる本作では、不思議の国ホグワーツの魅力とそこに生きる魔法使いたちがどんなに素敵かっていうことを伝えることに徹しています。

魔法の杖や空飛ぶほうきの使い方を教わったり、開かずの間に忍び込んだり、怪物トロールと対決したり、命をかけて友達を救ったり……。ハリーの学校生活は限りなく驚きと興奮に満ち、それらを描き出す視覚効果をふんだんに盛り込んだ映像はどこまでも楽しい!

ただし、この魅力ある映像がどこまで原作の持ち味であるダークサイドに迫れたか? 私はちょっと物足りなかったのですが、以降の映画がどんどん暗く、闇が深くなっていくことを思うと、アトラクションムービーのような1作目の明るさにはほっとさせられます。

ハリー役のダニエル・ラドクリフや、ハーマイオニー役のエマ・ワトソンら、まだあどけない子役たちも初々しくて、本当にかわいい!

また、ハリ・ポタと言えば、原作者のJ・K・ローリングの“大逆転”人生にもとても刺激を受けました。離婚して、生活保護を受けていたシングルマザーのローリングが、キッチンやカフェのテーブルで書き上げたのが『ハリー・ポッターと賢者の石』。

最初はいくつもの出版社に断られながらも、ついに出版が決まると大ベストセラーを記録。以降、とてつもない成功を収めます。元々才能があったのでしょうが、どん底から見事に這い上がった彼女の人生にも勇気と希望をもらえます。


ハリー・ポッターと賢者の石 [ ダニエル・ラドクリフ ]


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食べて、祈って、恋をして

自由で大らかな世界が優しく包む
自分自身を見つめる旅へ、いざ出発!

自分の生き方に疑問を抱いた1人の女性が、自分自身を見つめるために1年間の旅へ。ニューヨークのジャーナリストが自身の体験を綴り、世界的ベストセラーを記録した書籍の映画化です。

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【ストーリー】
ジャーナリストのエリザベス(ジュリア・ロバーツ)は取材先のバリ島で薬療師の老人クトゥから人生を予言されます。老人によれば、リズは「世界を旅し、結婚を2度し、全財産を失うがまた取り戻す。そして、いつか再びバリに戻ってくる」といいます。

実はリズ人生に行き詰まっていました。仕事は上向き、結婚8年目の夫は優しく、郊外に家も購入。しかし、既婚女性が求めるもの――、平穏な結婚生活や子供を望んでいないことに気付いたリズは、離婚を決意します。泥沼の離婚劇は夫に全財産を渡して決着、エリザベスは新たな年下の俳優デヴィッド(ジェームズ・フランコ)と恋仲になりますが、“格差”のある2人の関係も次第に壊れてしまいます。

デヴィッドといても虚しさを感じ始めたリズは、虚しさの原因が、男性に依存し過ぎていたことに気付きます。そして、恋の相手ではなく、本当の自分を見つけるために、イタリア、インド、バリを巡る1年間の一人旅に出るのです。

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人生に迷うエリザベスが心の調和を見つけるまでの物語。「欲求のまま、今を生きる」シンプルなイタリア的生活、瞑想で心の安息を保つインド的生活、その両方を学んだリズは、最後の目的地バリでついに自分らしい生き方を見つけます。

エリザベス同様、「自分の生き方はこれでいいのか?」と迷う人は男女を問わず大勢いるでしょう。まったく異なる3カ国の文化や価値観を反映した人々の生き方は、エリザベスならずとも大いに影響を受けるはず。また、感受性豊かで思慮深いリズの気付きや発想からも多くのことを教わります。

「旅」「自分探し」「愛」「イタリア料理」「スピリチュアル」といった、女心をくすぐるキーワードが盛りだくさん。気ままに旅をしながら、理想的な結果(本まで出しちゃう!)になった、リズはうらやましいばかり。すでに仕事で成功していたし、やっぱり“出来る人”は何でもうまくいっちゃうのかな、なんて、ちょっとひがんだりもしちゃいますが、やっぱりどんな時でも進まないと道は開けないんですよね。。。

私も、すぐに結果が出なくても、長い目で見れば望み通りの結果になっていたという経験があります。辛く、苦しい悩みの時期でも、ゆっくりとでいいから、とりあえず進むことが大切なのでしょう。もちろん、本当に苦しかったら立ち止まって休んでもいいんですけどね。とにかく“自分のペースで生きる”ということを大切にしたいです。なかなか難しいですが。。。

エリザベスの複雑な心模様をナチュラルに演じたジュリア・ロバーツが好演。エリザベス同様、人生がうまくいかない、と思う人は必見です。


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世界最速のインディアン

あきらめず、挑戦することの素晴らしさを伝える
心が癒され、元気になれる良質のロードムービー

ニュージーランドからアメリカへ、〈世界最速のインディアン〉になるために旅立った伝説的ライダー、バート・マンローの夢と勇気のロードムービー

2007年に日本公開された映画ですが、名優アンソニー・ホプキンス主演作ながら、それほど大きな話題にはならなかった気がします。でも、本当に楽しくて、素敵な映画です。

重厚な演技に定評のあるホプキンスが、明るく、マイペースなおじいちゃん、バートを飄々と演じています。

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【ストーリー】
1962年、60歳を過ぎたバートは、自己流の改良を重ねながら40年以上も乗り続ける旧式のバイク、通称<インディアン>の最高速度を知るために、アメリカのボンヌヴィル塩田で開催されるバイクの最速記録を競う「スピード・ウィーク」に初挑戦することに。

持病を抱えながらも、なんとか費用を工面して、夢に挑戦するバートでしたが、初めてのアメリカは戸惑うことだらけで、ロサンゼルスからユタ州・ボンヌヴィルまでの道のり、さらにボンヌヴィルに到着してからも、さまざまなアクシデントに見舞われてしまいます。

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ロードムービーの面白さは、旅の過程で出会う見知らぬ人との交流にありますが、本作にはたくさんの素晴らしい交流が描かれています。

高齢のバートと時代遅れのバイクを見た人々は、だれもがバートの挑戦を笑いますが、そんな先入観や偏見を、ニュージーランド気質の大らかさで意に介せず、命知らずのバイカーらしい気骨さでかわすバートが実に魅力的! バートは多くの人に助けられますが、それは、既成概念にとらわれず、信念を貫くバートの姿が人々に癒しや愛、勇気を与えたからでしょう。バートの真心に、人々は優しさで応えます。そんな優しい気持ちが全編にあふれ、ユーモラスなエピソードながらも胸が熱くなります。

実話の映画化で、バートはその後も、ドクターストップをかけられながらも毎年レースに出走し、1967年に達成した最速記録は長い間破られませんでした。

バートを演じたアンソニー・ホプキンスが貫禄の名演を見せ、バイクアクションも迫力満点で見ごたえがあります。

あきらめず、挑戦することの素晴らしさを、声高に伝える良質な作品です。


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ジョーカー

怪優ホアキン・フェニックスの真骨頂!
悪のカリスマ、ジョーカーの誕生をスリリングに描く

2019年に公開され、圧倒的な迫力で世界中の注目を集めた『ジョーカー』は、ぜひ観るべき映画です。

人気アメコミ『バットマン』の宿敵ジョーカーは、史上最恐かつ、最もセンセーショナルな悪役のひとりといえるでしょう。白塗りに、口が異様に引きつった不気味な風貌で、犯罪をつまらない世界を楽しませるジョークと笑う――。そんな歪んだ怪人ジョーカーに、ハリウッド実写版ではジャック・ニコルソンヒース・レジャーら演技派俳優たちが扮し、圧倒的なヒールぶりを見せつけ、ジョーカーを悪のカリスマへと押し上げました。

本作は、原作のアメコミでは曖昧なジョーカーの誕生を描いたオリジナルストーリー。変幻自在の怪優ホアキン・フェニックスが、狂人ジョーカーへと変貌する主人公のアーサーを演じ、今まで以上に恐ろしく、素晴らしいジョーカーを生み出した!

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【ストーリー】
1980年代初頭のゴッサムシティは、格差社会が広がり、街も人々の心も荒廃の一途をたどっていました。そんな暗い世の中で、笑いを愛し、コメディアンを夢見るアーサーはピエロに扮して働き、病弱な母親ペニー(フランセス・コンロイ)の面倒をみている心優しい青年ですが、アーサーには、緊張すると所かまわず笑い出す疾患があり、人々から奇妙な目で見られることもしばしばでした。

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物語前半は、社会から爪はじきにされたように細々と生きながらも、希望を見い出そうとするアーサーの切ない境遇が描かれます。しかし、派遣事務所の仲間から、図らずも拳銃を受け取ってしまったこと、そして、最悪の状況で笑いの発作に見舞われたことから、運命の歯車が狂っていきます。

監督・共同脚本は、『ハングオーバー』シリーズのトッド・フィリップス。一人の純粋な男が社会で徹底的に打ちのめされ、転落していく様をドラマチックに描き切っています。現実にも通じる問題を提起しつつ、ミステリータッチで、バットマンこと、ブルース・ウェインとの因縁もさりげなく盛り込まれたストーリーが実によくできていますが、やはり、ホアキンの存在なくして、この野心的な映画の成功はなかったでしょう。

アーサーの日常を追う形で進む展開は、ほぼホアキンの一人芝居のような印象ですが、見応え十分。アーサーの悲哀と狂気を見事に体現したホアキンは、悲願のアカデミー主演男優賞を受賞しました。
もう一人の変幻自在の名優ロバート・デ・ニーロが共演し、わずかな出演シーンながら、ホアキンインパクトのあるシーンを作り出しています。

不気味で不快な描写に度肝を抜かれますが、ジョーカーの哀しみに共感できる人は多いはず。現代社会への問題提起、そして、人々がより良く生きるための反面教師として、本作の果たす役割はとても大きいです。


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