映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

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ミリキタニの猫

正しく生きれば、きっとその思いは報われる――
ホームレスの画家ミリキタニに訪れる奇跡の物語

正しく生きようとする真摯な思いが奇跡を生み出す過程を描いた感動的なドキュメンタリー。2006年に製作され、世界各国の映画祭で高い評価を受けました。
渋いけれど、めちゃめちゃ良い映画です。

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【ストーリー】
ニューヨーク、ソーホーの路上で絵を売るホームレスの老人から絵を買ったリンダ・ハッテンドーフ監督は、代金の代わりに老人の生活を時々ビデオカメラで撮影することにします。
絵を買わない限り施しを受けず、閉店後の料理店の軒先で静かに夜を過ごす老人。リンダは、何の気なしにこの不思議な老人を追っていましたが、9.11事件が二人を強く結びつけ、孤独な老人の運命を変えていきます。

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崩壊したツインタワー付近の路上で暮らす老人を放っておけず自宅に招きいれたリンダは、彼がケア付き老人ホームへ入れるよう申請しますが、社会保障番号がないため却下されてしまいます。

老人が一体どんな人生を送ってきたのか。彼がぽつぽつと語る過去の話を元に、老人のルーツを熱心に辿るリンダの行動が次々と奇跡的な出来事を生み出していきます。
しかし、奇跡の数々を真に感動的なものにするのは、老人の態度。やがて社会保障番号が判明した老人は、「アメリカの社会保障はいらない」と頑なに拒むのです。

老人はジミー・ツトム・ミリキタニという名の日系人。80歳を超えた心もとない体にも関わらず、安全な生活よりも孤独なホームレスを選ぼうとした理由には、第2次世界大戦中の悲劇がありました。

米国籍を持ちながらも、日系人強制収容所へ入れられたミリキタニは、不当な政府への反抗から自ら市民権を放棄し、以降、苦しい生活を強いられました。原爆を投下された母の故郷・広島への思い、姉と生き別れ、友人の死を目にした収容所での辛い経験、そして人生を狂わせたアメリカへの怒りを抱えながら、戦後60年もの間、ひたむきに生きてきたミリキタニ。反骨精神に押さえつけられた人を信じる心が、リンダや彼女の活動を助ける人々との幸福な出会いにより、ゆっくりと顔をのぞかせていきます。

戦争と米政府の罪を告発し、怒りと傷に満ちたミリキタニの心に明るい希望をもたらした意義深いドキュメンタリー。正しく生きれば、きっとその思いは報われる――。そう、心から信じられる奇跡のラストシーンには涙が止まらなくなるでしょう。

ミリキタニ氏は2012年に92歳で逝去されました。
2016年には、ミリキタニ氏と交流のあった人物が彼との思い出を語った短編『ミリキタニの記憶』が製作されました。


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