映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

人生に迷えるアラフィフ女性が、映画を通して人生について考える。ネタバレなしの映画レビューサイト。

ライムライト

人生に落ち込んだら、ぜひ観てほしい
人生の達人、チャップリンの励ましに救われる

老いることの悲哀と矜持を、チャップリンらしいユーモアとペーソスを交えて描いた名作。

ハリウッドを代表する喜劇王となったチャップリンが初めて素顔を出して演じるのは、中年を過ぎ、落ちぶれた喜劇スター、カルベロ。成功したチャップリン自身の秘めたる思いが溢れたかのようなリアリティとファンタジーが交錯した物語は、切なくも優しく、世代を超えて心に響くでしょう。

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【ストーリー】
1914年のロンドン。酔っぱらって朝帰りしたカルベロは、ひょんなことからアパートの一室でカス自殺を図った女性テリーを助け、一緒に暮らすことに。バレリーナのテリーは、リューマチを発症して踊れなくなったことを苦に自殺しようとしたのですが、カルベロの支えと励ましのおかげで再び踊れるようになります。
一方のカルベロは、人気を失う不安から酒浸りになり、舞台も受けず、すっかり過去の人になっていました。やがてテリーがプリマドンナに抜擢された舞台に、道化として出演することになります。
テリーはカルベロの出演を喜び、自分を支えてくれたカルベロにプロポーズします。
しかし、初演を終えたカルベロは、みんなの前から姿を消してしまいます。

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「華やかなライムライトの陰で老いは去り、若きは登場する。これはバレリーナと道化の物語」。モノクロのスクリーンに映し出される、この冒頭の一文に早くも涙腺を刺激されます。

冒頭のテリーを助けるシーンでは、酔っぱらいのちゃらんぽらんな男のようでいて、自分の楽器を質に入れてテリーの薬代にしたりするといった、さりげない優しさを見せるカルベロ。自殺を図るほど、人生に絶望してしまったテリーを、明るく懸命に励ましますが、カルベロ自身も悩みは尽きません。酒で体を壊し、仕事はない。もはや「カルベロの名前では仕事が来ない」とまで、エージェントに言われてしまいます。それでも、久々に舞い込んだ小さな仕事に名前を変えて立つことにします。

人生のどん底にいる2人が人生について語り合ううちに生きる素晴らしさを見い出し、互いを叱咤激励しながら再起を目指します。脚本も手がけたチャップリンが紡ぐ言葉は本当に深いです。相手を想うゆえに、つい激しく説教してしまう2人の迫力たっぷりの演技により、心に深く突き刺さります。

その後、テリーが淡い恋心を抱いていたネヴィルという音楽家が登場し、カルベロはさらに老いの現実を突きつけられます。老いを受け入れたカルベロがどんな姿を見せるのか。クライマックスシーンは涙なくしては見られません。

ハンサムな素顔のチャップリンも魅力的ですが、舞台シーンでは道化に扮したコミカルなチャップリンもたっぷり見ることができます。テリー役のクレア・ブルームは本物のバレリーナで、美しいバレエシーンも見どころです。

そして、ドラムの音が激しく響く、不穏な始まりから一転、未来が開けるような、明るい曲調になる主題曲『エターナリー(テリーのテーマ)』が本当に素晴らしい! チャップリンが作曲した心に染みる名曲です。

1952年、本作のロンドンでのプレミアへ向かったチャップリンは、赤狩りを進めるアメリカから国外追放を受け、以降、20年にわたり、アメリカへ帰ることができませんでした。そのため、本作はチャップリンにとって最後のハリウッド作になりました。

人を笑わせ、幸せにしつつ、悪しき慣習への批判も貫いたチャップリンは善良な市民の代弁者。成功の陰にはたくさんの苦悩もあったことでしょう。酸いも甘いもかみ分けた人生の達人が、その思いをたっぷり込めた本作に生きる意味を教えられます。
「幸せのために闘え」、「人生を恐れるな」。人生に落ち込むことがあったら、チャップリンが発する力強い励ましの言葉の数々をしっかりと心に刻んでほしいです。


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