映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

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インビクタス 負けざる者たち

ノーサイドの精神”が生み出した奇跡の逸話を
クリント・イーストウッド監督が爽快に描く

ミスティック・リバー』『ミリオンダラー・ベイビー』『グラン・トリノ』など、クリント・イーストウッド監督作は、過酷な現実に打ちのめされた人々が、絶望の淵から這い上がろうと自身の正義を貫く姿を描きながらも、その結末には苦い痛みが用意されています。

そんな切なくて辛くとも、見つめなければいけない人生の真理を静かに伝えるクリント・イーストウッドの監督作品が大好きです。登場人物たちの選択には、自分の身に置きかえて考えさせられることがたくさんあります。

本作の主人公、南アフリカ共和国の元大統領ネルソン・マンデラもまた、絶望の中で正義のために闘った人間の一人ですが、本作の結末は未来への希望と人間愛に溢れています。
マンデラと南アのラグビー代表チームが祖国の未来のために成し遂げた奇跡の逸話を、イーストウッド監督が爽快な感動作に仕上げました。

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【ストーリー】
政治犯として27年もの間、投獄されたマンデラは、1994年、アパルトヘイト(人種隔離)政策を撤廃させ、黒人初の南ア大統領に就任します。しかし、白人は黒人との融和に抵抗を隠せず、黒人は白人への憎しみを拭えず、両者の感情的な対立は続いたままでした。そんな状況を解決するために、マンデラは南アのラグビー代表チーム・スプリングボクスの強化に乗り出します。

南アフリカにとって、ラグビーは白人が愛好するスポーツで、黒人には憎きアパルトヘイトの象徴。マンデラは対照的な感情が交錯するラグビー代表チームを共に応援することで、和解の道が開けると考えました。そして、マンデラの希望に共鳴したスプリングボクスの主将ピナールは、弱体化したチームを立て直し、1年後に自国開催されるワールドカップでの優勝を目指します。

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大統領警護班を黒人と白人の混成チームにしたり、身の危険を承知で早朝散歩を日課にしたり、人々の誠実な心を信じて行動するマンデラの日常と心の機微、そして、マンデラの政策に対する国民の反応を、イーストウッド監督は丹念に綴っていきます。

町の人々はもちろん、マンデラの側近や家族にさえも、白人と黒人の対立感情が根強く残り、和解の難しさを物語ります。しかし、人々の心は代表チームの快進撃と共に一つになっていくのです。

終盤の試合シーンは筆舌に尽くしがたい素晴らしさです。イーストウッド監督は、臨場感溢れるラグビーシーンに加え、人々の心の変化を、ユーモアを交えながらリアルに表現。対立していた国民たちの距離が徐々に近づく光景がより感動を高めます。
南アフリカの快進撃に盛り上がる人々の姿が清々しく、私は何度見ても涙が出てしまいます。

「赦しが魂を自由にする」という信念の下、自らに不当な罪を課した白人を赦したマンデラ。穏やさの中にも確固たる意志を感じさせるマンデラを演じるのはモーガン・フリーマンスポーツマンシップを発揮する聡明なピナール役のマット・デイモンも適役です。

インビクタス”とはマンデラが愛した詩のタイトルで“不屈”を意味します。負けないために立ち上がった男たちには、「赦し」という寛大な心があることも胸に刻んでほしいです。

2020年はコロナ禍のストレスがSNSのさらなる乱用・悪用を生み出し、人々の攻撃性が一気に露わになった年のような気がします。そんな中、昨年、日本で開催されたラグビーのワールドカップで話題になり、人々の心を潤した、ラガーマンたちの“ノーサイドの精神”を思い出すためにも、ぜひ観てほしい作品です。


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