映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

人生に迷えるアラフィフ女性が、映画を通して人生について考える。ネタバレなしの映画レビューサイト。

海よりもまだ深く(2016)

なりたい大人になれない中年男を癒す
切なくも温かい家族の絆

そして父になる』『海街Diary』など、切なくも温かい家族の姿を描いてきた是枝裕和監督作品です。

「みんながなりたかった大人になれるわけじゃない」。この切ないフレーズに共感を覚える人は多いのではないでしょうか? 子どものころに夢見た未来とは違う今に、後悔や諦めを抱いているなら、ぜひ観て欲しいです。

そんな鬱屈した日常から脱出する術はすぐ身近にあります。

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【ストーリー】
良多(阿部寛)は仕事も家庭もうまくいかない中年男。15年前に文学賞を受賞し、小説家になったものの、その後は泣かず飛ばず。現在は、執筆のリサーチと言い訳しながら興信所に勤めています。妻の響子(真木よう子)には愛想をつかされ離婚、11歳になる一人息子の信吾は響子が育てていました。

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興信所の客に不正を持ちかけたり、ゆすったりしてお金をせしめたり、ギャンブルで大負けしたり、養育費を滞納したり、響子のデートをこっそり尾行したり……。信吾に野球道具をプレゼントしたい親心を持ちつつも、あまりにも自堕落な生活を送る良多の姿がおかしくも切ないです。

そんなふがいない良多を温かく受け入れるのが、母・淑子(樹木希林)です。苦労させられた夫を亡くして、古びた団地で一人気ままに暮らす淑子の元を、良多や良太の姉・千奈津(小林聡美)一家が訪ねてきますが、それは困った時だけ。冗談や自虐を交えつつ、ひょうひょうと子どもたちを迎える淑子の姿に、「いくつになっても親はありがたい」としみじみ感じます。

「こんなはずじゃなかった」と思いながらも、今の生活から抜けられない良多。その原因が「夢を捨てられなかったから」というのは、侘しい気もしますが、大人になると「自分の夢」より大切なものができます。それは、やっぱり「家族」なのでしょうか?

良多の突飛な行動で、淑子の家に良多と響子、信吾が泊まることに。台風が吹き荒れる一夜、4人の元家族の複雑な思いが交錯するクライマックスのエピソードは、心に染みるセリフの応酬です。

平凡な家族の物語なのにぐいぐい引きつけられるのは、映画を通して、自分の人生を深く考えさせるから。台風が去った翌朝、晴れやかで清々しいラストシーンが心地いいです。


海よりもまだ深く [Blu-ray]


海よりもまだ深く