映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

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彼女が消えた浜辺(2009)

イランで大ヒットを記録した
人間のエゴに迫った心理サスペンス映画

本国イランでは2009年度の年間興行収入第2位を記録、ベルリン国際映画祭最優秀監督賞(銀熊賞ほか、数々の賞に輝いた注目のイラン映画です。

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【ストーリー】
イラン人の主婦セピデー(ゴルシフチェ・ファラハニー)は友人とその家族を集めた3日間のバカンスを計画します。メンバーはセピデーの家族や、離婚したばかりのセピデーの友人アーマド(シャハブ・ホセイニ)、彼の妹ナジーの家族、友人の女性ショーレの家族、そしてセピデーの子供が通う保育園の先生エリ(タラネ・アリシュスティ)。
カスピ海沿岸沿いのリゾート地に着いた一行は、予約したはずのヴィラが満室で、海辺に建つ古びた別荘に泊まることになります。掃除をしたり、買い出しに行ったり、夕食を食べたり、ゲームをしたりする1日目の行動の中から、彼らのさまざまな状況や関係性が分かってきます。
セピデー以外、初対面のメンバーとの旅行に戸惑い気味のエリ、アーマドとエリの仲を取り持とうとするセラピー、エリについて詮索するメンバーたち。また、エリ自身も謎めいた行動を取る。小さなしこりはありつつも、一行は楽しい時を過ごしていましたが……。
2日目、1泊の予定で来ていたエリが帰りたいと申し出て、セピデーを困らせます。もっとアーマドとエリを近づけたいセピデーはエリを引き留めるため、浜辺で遊ぶ幼い子供たちの面倒を任せます。ところが、1人の子供が海で溺れる事故が発生し、面倒を見ていたはずのエリが忽然と姿を消してしまいます。

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溺れた子供を助けに海に入ったのか、強引に1人で帰ってしまったのか。どちらとも判断が付かないなか、人々が醜いエゴをむき出しにしていきます。

〈溺死〉という最悪の事態が考えられる状況で、1人で帰ったというエリのエゴを信じたい一行。しかし、彼女がそんなエゴイストなのか、セデピーには判断ができません。何と彼女が知っているのは“エリ”という愛称のみだったのだから。

セデピーを責めたり、エリに毒づいたり、果ては溺れた子供にまで冷たい目を向けたりと、責任の所在を探し始める一行。前夜の楽しい雰囲気が一転、家族間や夫婦同士でさえも罵り合います。

手持ちカメラで撮られたドキュメンタリー風の映像は、責任逃れや先入観という、人間に備わる卑しい本性を生々しく見せます。

なぜ〈セデピーがエリの素性を何も知らない〉ということが起こり得たか。エリ失踪の謎は、やがて伝統的なイラン社会の問題点に辿りつきます。

人間とイラン社会の衝撃的で悲しい現実が端正で的確な演出で伝えられ、観る者を圧倒します。


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