映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

人生に迷えるアラフィフ女性が、映画を通して人生について考える。ネタバレなしの映画レビューサイト。

ミリオンダラー・ベイビー(2004)

孤独な女性ボクサーと老トレーナーが求めた生きる証
クリント・イーストウッド節がうなるヒューマンドラマ

本作は、公開時、人間の尊厳に迫るラストが〈ハリウッド映画らしからぬ〉と大きな話題となりました。

イーストウッド監督は本作の前年に発表し、高い評価を得た『ミスティック・リバー』でも少年時代の遺恨が招いた事件に衝撃的な結末を用意し、人間という生き物の醜くも哀しい心の闇を容赦なくえぐり出しました。

2作続けて、〈救いのない〉物語として賛否両論を集めましたが、私はこの2作によってイーストウッドの監督作に惹かれるようになりました。

この生き辛い世の中で、〈人間とは何ぞや〉〈生きるとは何ぞや〉といつも考えている私は、例え非情な結末でも、イーストウッドの、人間の本質をしっかりと捉え、現実社会の不条理をきちんと描こうとする姿勢に大きな感銘を受けました。

以来、彼が何を描き、語るのか、本当に興味深いです。ちなみに、その後発表された『グラン・トリノ』『インビクタス 負けざる者たち』は痺れるほど大好きな作品です。

そして、学生時代に観て、切ない別れのシーンに深い感動を覚えた『マディソン郡の橋』も好きです。ただ、監督がイーストウッドだったことを知ったのはずっと後のことで、まったく迂闊でした(;^_^A)。

さて、本作は30歳でボクサーを目指す女性と、孤独な老トレーナーが交わした“特別な”愛と絆の物語です。

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【ストーリー】
30歳のウェイトレス、マギー(ヒラリー・スワンク)がボクシングジムの老トレーナー、フランキー(クリント・イーストウッド)に指導を求めにやってきます。家族にもお金にも恵まれないマギーにとってボクシングでの成功は生きる証でしたが、フランキーはすげなく断ります。
しかし、断られても地道な努力を重ねるマギーの姿は、家族に見放され、生きる証を失いかけたフランキーの心を動かします。
フランキーの指導により、マギーは連戦連勝を収めますが、ついに世界チャンピオンの座を掴む目前、悲惨な事故が起こります。

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マギーがボクサーとして成功していく過程を描く中盤までは躍動感にあふれ、ポジティブなボクシング映画として純粋に楽しめます。マギーも最高にカッコいい!

しかし、悲惨な事故後を描く後半は一転して、辛く、救いようのない展開が淡々と続きます。薄幸なマギーが積み上げた努力の結晶はどろとろとした人間の欲望の中でもろくも崩れ去ります……。

成功だけが決して充実した人生ではない、ということをアメリカンドリームの象徴、ボクシングをとおして伝えるのは、人生を冷徹に見つめるイーストウッド監督ならではの切り口。

作品賞を含む、米アカデミー主要4部門に輝いたヒューマンドラマの秀作ですが、フランキーとマギーに降りかかる試練はあまりに大きく、人生について真剣に向き合う覚悟を持って見たほうがいいでしょう。その価値は大いにあります。

イーストウッドが手がけた音楽も、静かに深く心に沁み入り、素晴らしいです。


ミリオンダラー・ベイビー (字幕版)


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