映画の中の人生 ~50歳からの人生設計~

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タイムマシン(2002)

最新技術が可能にした激動の時間旅行
観る者を圧倒する渾身の映像が心を揺さぶる

1990年後半から急速に発展したCGによる視覚効果技術はハリウッド映画の隆盛を支えました。でも、2000年代にはいると、ストーリー性を欠いたCG多用の映画制作には批判の声も上がりました。

驚異的な映像を生み出すイマジネーションは賞賛に値しますが、マジカルな映像は“目”を楽しませても、“心”を揺さぶるまでにはいたりません。

そんなCG映画が過渡期に入った2002年、H・G・ウェルズの名作ファンタジー『タイムマシン』は公開されました。

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【ストーリー】
1899年、科学者のアレクサンダー(ガイ・ピアース)は婚約者のエマ(シエンナ・ギロリー)を強盗に殺されてしまいます。彼は深い悲しみの中で研究に没頭し、タイムマシンを完成させ、エマが殺された時間に向かい、彼女を救い出そうとします。
しかし、何度過去を変えても、エマの運命は変わりませんでした。希望を失ったアレクサンダーは未来へ向かい、超近代的な2030年を経て、恐ろしい姿に変貌した人類モーロック族が支配する80万年後の地球にたどり着きます。

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原作とはタイムトラベルの動機とクライマックスが異なるストーリーはシンプルにまとめられており、原作が持つ力強い文明批判は消え、物足りなさも感じます。

しかし、CG時代によみがえった『タイムマシン』の最大の意義は、神秘とスリルに満ちた時間旅行を実体として味わわせることでしょう。

見どころになるのは、驚異に満ちたタイムトラベルの道程と、脅威に晒された80万年後の地球の光景です。

まずは、何と言っても19世紀後半から21世紀初頭への時間の推移を超高速タイムスライス技術で描いたタイムトラベルシーンが素晴らしいです!

成長する昆虫や植物のクローズアップに始まり、神のような視点で捉えた俯瞰映像で終わる地球の変遷図は、緻密で精巧なうえにキャメラワークがよく練られており、鳥肌ものの興奮を味わいました。

また、邪悪なモーロック族が支配下にいるエロイ族を狩猟するアクションシーンもスリル満点。CGによりライブパフォーマンスに圧倒的な迫力とスピードが加えられ、身の毛がよだつほどの恐怖に駆られました。

目まぐるしく変わる地球上の光景はエキサイティングで、興味深い映像は尽きることがありません。

では、本作が目で楽しむだけの娯楽作か、といえば決して違います。

タイムトラベルの道程は文明の発展と自然破壊が表裏一体になっている事実をまざまざと見せつけ、80万年後の地球の光景は「現在」を疎かにする人間が受ける罪の重さを実感させます。

監督はH・G・ウェルズのひ孫として話題を呼んだサイモン・ウェルズ。CG造形には製作総指揮を務めたスティーブン・スピルバーグの意見が大きく反映され、2人の偉大なクリエイターたちからの“プレッシャー”を受けた実写映画監督デビューになりましたが、スプリット(分割)スクリーンで描き出したクライマックスの演出にピュアなハートを感じました。

19世紀と80万年後、たとえ環境は一変してもまぎれもなく同じ場所に、過去を振り返らずに未来を信じて生きようと決意する人々がいます。その穏やかで安らぎに満ちた光景が激動の時間旅行を意義深いものにしています。


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