デジタル社会で起こる夏の戦争
アバターとおばあちゃんが世界を救う
『時をかける少女』(’06年)、『おおかみこどもの雨と雪』(’11年)、『バケモノの子』(’15年)など、ティーンエイジャーの冒険譚をダイナミックに描いたアニメーションと、家族の絆をテーマにした温かいストーリーで人気の細田守監督が2009年に製作した作品です。
初々しい高校生カップルを主人公に、緑豊かな日本の原風景と最先端のデジタル社会を融合させた異色の近未来ファンタジーです。
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【ストーリー】
そう遠くはない未来、コンピューター上には現実社会にリンクした仮想都市OZ(オズ)が構築され、人々の暮らしはさらに手軽で便利になっています。
高校2年生の健二(声・神木隆之介)は夏休みのアルバイトでOZの保守点検をしていましたが、憧れの先輩、夏希(声・桜庭ななみ)に頼まれ、一緒に彼女の田舎の長野へ向かうことに。健二が辿り着いたのは、戦国武将の末裔、陣内家。そこには数日後に開かれる夏希の曾祖母・栄(富司純子)の90歳の誕生会のために家族や親戚が集まっていました。
ある理由から、夏希のフィアンセのふりをすることになった健二は、困惑しながらも大家族の温かい雰囲気に気をよくします。そんな健二の携帯メールに不審な数学クイズが届きます。数学学生チャンピオンを狙えるほど数学が得意な健二は徹夜で解答し返信します。
しかし、翌朝のニュースで、OZの管理棟に侵入し、全世界4億人以上のアバターを奪取した犯人として、健二が指名手配されてしまいます。そして、OZ内で起こった異変は現実世界にも波及し、世界各地の交通網やライフラインが麻痺してしまいます。
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本作が公開された2009年には画期的だったアバターが活躍するストーリーに、当時(今も!)デジタル音痴の私は正直、ついていけませんでした。(;^_^A
OZはアバターという分身のキャラを設定し、アバターがネット内でしたことが現実世界でも起こる仕組み。流通や通信など、現実でもアバターを使って行えるものはありますが、OZには世界規模で警察や消防等の公共施設の窓口や医療データベースが登録され、日々のコミュニケーションがより簡単に取れるといいます。それがどれだけ便利なことなのか、いまいちピンとこないのですが、4億人のアバターを入手し、膨れ上がった謎のアバターがネット内で暴れ回っただけで、現実世界が混乱していく様子は迫力満点です。
個人ベースでもマシンだけで情報を管理することの怖さを知っている人は多いはず。それが、1つのシステムに全世界のデータが入っているとしたら……。
そんな謎のアバターの攻撃に立ち上がったのが栄おばあちゃん。ネット社会とは無縁のおばあちゃんは、世界に散らばる旧知の人々に電話をかけ、混乱を収めます。それを見た健二は格闘ゲームの世界的チャンピオンのアバターを操る13歳の少年、佳主馬(声・谷村美月)と組み、OZで成長した謎のアバター、ラブマシーンに立ち向かいます。
アバター同士の戦いが見どころとなる本作は、オンラインゲームの素養も必要になります。しかし、ネット内のアバターの活躍を支えるのが、現実世界の人々であるのがミソ。健二や親戚の大人たちは知恵や物資を提供し、ネット内で格闘する佳主馬を助けます。
オンラインゲームを通して、人々の絆の素晴らしさを描き出そうとするのは、オンラインゲームに夢中になっている世代に向けたメッセージでしょう。
でも、映画に描かれた世界より、今はもっと進歩しているのではないでしょうか? 近年、未来のデジタル社会をテーマにすると、あっという間に現実が追いついてしまい、なんだか映画が陳腐なものに見えてしまうのが玉にきず。映画は時代を映す鏡と思えばいいのでしょうが……。
とはいえ、新緑のまぶしい田舎の風景、朗らかな大家族、そして、ダイナミックな格闘ゲーム――。爽快感溢れる映像はスカッとしたい夏にぴったりです。