アニマトリックス(2003)
マトリックス・イヤーの幕明けを飾った
多彩なジャパニメーションの饗宴
フローモーションテクニックや誇張したワイヤーアクションなど、荒唐無稽な映像の数々がヒップでクールと捉えられた『マトリックス』。そのテイストが日本のアニメーションの影響を受けたものであることは有名な話です。
一連のシリーズで監督と脚本を手掛けたウォシャウスキー兄弟が日本人を中心にしたトップクリエーターたちとタッグを組み、『マトリックス』の世界観をその原点となるアニメーションで構築しました。
それが9編の短編アニメからなるオムニバスフィルム『アニマトリックス』です。本作は、2003年、4年ぶりに2本の続編が公開された〈マトリックス・イヤー〉の幕開けを飾る作品としてDVDで発売されました。
そのため、シリーズ2作目の『マトリックス リローデッド』の序章となる作品や、『マトリックス』の起源を描いた作品などが含まれ、純粋に『マトリックス』の知識を深めることができる作品となっています。
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【収録作品】
●『ファイナル・フライト・オブ・ザ・オシリス』
『マトリックス リローデッド』の序章であり、『ENTER THE MATRIX』の冒頭へ繋がる物語。
●『セカンド・ルネッサンス パート1・パート2』
『マトリックス』の時代以前の出来事、つまり『マトリックス』の世界が構成されるまでの前時代の出来事。
●『キッズ・ストーリー』
マトリックスの登場人物キッドが、仮想世界から現実世界にたどり着くまでの出来事。
他6作品
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ウォシャウスキー兄弟によれば、“『マトリックス』の世界観を広げるためだ”という本作の製作意図はあくまで建前で、本音は『マトリックス』の作品性を正当化するために違いありません。その証拠に『リローデッド』のアクションは前作のものが未熟に思えるほど、過激でぶっ飛びモード。確信犯的なユーモアを含んだ続編は、〈何でもアリ〉のアニメの世界を凌駕したシュールな代物で、作品としてのクオリティは本作のほうが断然いいです。
スクウェア社がフォトリアルなCG人間に再チャレンジした『ファイナル・フライト・オブ・ザ・オシリス』、色彩豊かな『セカンド・ルネッサンス』のほか、16分の力作『マトリキュレーテッド』は精巧かつ緻密なCG映像に圧倒されます。
ほかにも繊細なタッチのセルあり、重厚なモノクロあり。『マトリックス』の付随物としてではなく、ジャンルも映像手法も異なる多彩なジャパニメーションの饗宴を楽しめます。
監督として名を連ねているのはスタジオ4℃の渡辺信一郎や前田真宏、マッドハウスの川尻善昭など。
ウォシャウスキー兄弟の戦略にまんまとはまったものの、製作当時、宮崎駿の〈ほのぼのアニメ〉に大きくリードされていたジャパニメーションは、その圧倒的な創造力と技術力を世界に示す絶好のチャンスを与えられました。